あのとき…… 妻の麗子と最初に結ばれたとき…… コンドームを着けていたら…… 彼女が妊娠した子を堕胎させるようなことは、あり得なかったかもしれない…… みずからもこうして女として生まれ変わることなど、なかったのかもしれない…… 一回性の生だから…… 後戻りのできない人生だから…… 生まれたら最後、後は、死ぬだけのありようしかないことだから…… どのようなことであっても…… 運命となり…… 宿命となり…… 存在理由となる…… だから、生きてあるということは…… 生きて、その生をただ引き受けるというだけでは…… 余りにも、もどかしく感じるということ……。 ギリシャ神話のオイディプス王の話は、 両親について何も知らなかった男が、知らずに父親の殺害者となり、女王である母親の夫となって結ばれる、 真実を知らされた母は自害し、狂気に襲われた息子は両眼をえぐり出して放浪者となったという悲劇である、 けれど、このようになったことのいきさつは、この話の近親殺害や近親相姦以上に興味深いこと、 そもそも、父親は、生まれてくる息子がみずからの王位と生命を脅かす者として成長するという神託を信じ、 生まれたオイディプスを羊飼いに託して殺害しようとした、 不憫に思った羊飼いは赤子を木の枝へ吊るし、それを農夫が引き取って育てたという生い立ちであった、 やがて、父親と路上で出くわした息子は、道をゆずるのゆずらないのという争いから殺害してしまう、 一度殺されかかった相手を二度目で殺すというのは、 三度以上に至っては、みずからの命を粗末するようなものである、命は大切なものであるという教訓である、 どう見ても、悪いのは最初に仕掛けた父親の方であり、神託は間違っていなかった、 オイディプスが母親と結婚して王となるということも、スフィンクスの謎解きをした偉業によること、 身体は獅子で顔は人間の女というスフィンクスは、存在論としての根源的な謎である、 「朝は四つ足、昼は二本足、夕は三本足で歩くものは、何という動物であるか?」という問いを出しては、 解くことのできなかった旅人をひとり残らず殺していた、 死亡の割合が出産の割合を上まわれば、いずれ人間が絶滅してしまうカタストロフィな問題であった、 そうなれば、現在に語り継がれる悲劇や喜劇や幸福の神話もへったくれもないことである、 それを、彼は、不可解な謎を出す不可解な怪物に立ち向かって、「それは人間である」と答えて退治した、 謎の答えを明らかとしたことは、人間を立証することでもあったのである、 人類の偉業を成し遂げた英雄を民衆が新しい王として迎え、 夫を亡くしてひとり身であった女王をめとらせたということは、当然過ぎるほどの幸福な成り行きである、 どう見ても、息子も母親も間違ってはいない、彼を王として選んだ民衆だって悪くはない、 すべては、神託のままに行われたことである、 ところが、オイディプスと母親が結ばれた後、国に飢饉と疫病が蔓延して、 その原因を神託に尋ねたところ、彼の犯した二重の罪悪にあるとされたのである、 たとえ、生命の尊厳を遵守し、人間の尊厳を認識し、愛する者とようやく結ばれた受難者であっても、 神を超えるような人間のありようは不遜とされるがゆえに、罪人としての悲劇を生きなければならない、 これ、すべて、人間なんぞというちっぽけな存在は、 人間を超越したことの前では、踏み潰されるだけの虫けらにしか過ぎないという戒めである。 だから、ひとりであることのもどかしさは、決して消えないものであっても…… 時間があらわすことの結果は変えることができないものであっても…… たとえ、コンドームの被せられている陰茎であっても…… 母親と息子は性交してはならないのである…… それがどのような無知から行われることであっても、 純粋なことであっても、 美しいことであったとしても……。 ところが、ポルノグラフィという物語のありようは、神話とさえ対等に渡り合えるということにある。 不遜なことを言えば、新しい神話を作り出すことさえ可能であると言える。 神話というものがわれわれにとって不可欠という存在理由をあらわしている意味で、そうである。 人間が獲得しなければならない叡智のためには、受難と悲劇は神話がまとわねばならない衣である。 ポルノグラフィは、当然のことながら、衣を剥ぎ取られた生まれたままの全裸を見せなければ始まらない。 従って、ポルノグラフィにおける受難と悲劇は、あからさまになった身体を見せるというだけのことである。 そのありようには、情動としての愛や感情移入による感動というものが存在しない。 身体そのもののありように、愛も喜怒哀楽もあり得ないのだから、当然のことである。 だから、ポルノグラフィは、情動としての愛や感情移入による感動というものをおためごかしだと言い切れる。 それを否定してしまったら人間ではないとさえ言われる、愛のことである。 愛は人々を結ぶ、愛は世界を救う、愛がすべて、と言われる万有引力をあらわす愛のことである。 万有引力は重力があらわすものである、しかし、この愛は、倫理や道徳を包含し、相反と矛盾を解決し、 形而上と形而下のいっさいを統合するとされることでは、神に取って代わる人類の守護神としてさえある。 人類の誕生以来、人間を支配してきたふたつの力、重力と神は、愛に取って代わることができるとされるのだ。 昨日今日にあったわけではないものを、ましてや、その存在が払拭されたわけではない、重力と神に対して。 愛が情動にしか過ぎないものであるのは、身体が感覚器官であるに過ぎないことと同じである。 喜怒哀楽があるからこそ人間であると言われる、感情移入による感動も情動にしか過ぎないものである。 これらは、移ろいやすいさまと表裏をあらわすありようを持っている。 重力と神の厳然たるありようにいまだ及ぶものではない。 それを、あたかも、人類の唯一の救済のように公然とさせるならば、おためごかしとされても仕方がない。 愛が解決であると言っている表現、 感情移入による感動が人間の存在理由であるとしている表現、 情欲を煽り立てるだけのポルノグラフィの表現、 こういったものは、すべて、おためごかしということである。 人間に内在する荒唐無稽――みずからのありようとみずからの関わるいっさいをでたらめとするもの、 この荒唐無稽が人間にある限り、重力と神は厳然として存在するものであるし、相反と矛盾もある、 荒唐無稽の存在理由を表現している神話もポルノグラフィも、われわれにとって不可欠のものとしてある。 ……まっ、待ってください、そこまで言われてしまうと。 ヒロインとしてのわたしとしては、余程のことをお見せしないと、 ご覧になっている方々に、納得のいく思いを感じさせられなくなってしまいます。 だって、そうでしょう、 愛の解決はだめ、感情移入による感動はだめ、情欲を煽り立てるだけのポルノはだめ、と言ったら、 一般に行われる物語作法では、どうにもならないということじゃありませんか。 わたしにヒロインをやめろと言うのと同じことですよ。 かおるは、普通の女です、できることには限度があります。 あまり、無茶苦茶なこと、でたらめなことをさせられると言うのでしたら、主役を降ろさせてもらいたいです。 わたしなりに、懸命にここまでやってきたことなのです、 もう、あと少しでひと区切りつくというところまで来ているのです、 何とか、折り合いのよい展開を行ってもらいたいですわ、 お願いします……。 |
折り合いのつかないことを当初から定められている、相反と矛盾の全体性的物語にあって、 いくら美しく魅力的な女性の要望であっても、折り合いのよい展開というのは、作者の力量に余るというのが本音、 頼むのが筋違い、破綻した物語は破綻して終わるから破綻した物語である、としか答えようがない。 でも、美女のたっての頼みである。 ここでは、いっそのこと、物語をやめて、あとがきでも書いた方が体裁はよいのかもしれない。 少なくとも、起承転結の明確な物語の最後にあらわれるあとがきよりは、自家撞着したものにはならないであろう。 『女につくられ、女をあらわされ、女になる』 あとがき あとがきとして述べる前に、この作品の成立に協力を得た妻、子供たち、両親、親戚、友人、そして読者の方々に、 深く感謝を申し上げます、皆様方のご理解があってこそ、世にあらわすことのできた作品であると思っております。 ここに至るまで、苦節五十三年、「このようなものを書く者は、本人が気がついていないだけで気違いだ」 とのそしりを受けたこともありました、文学の朋友ともすべてたもとを分かつようなこともありました。 しかし、世のたとえのごとく、信ずる者は救われるのであります、それをいましかと実感している次第です。 皆様方の愛情あふれる共感を得ての賜物とお礼申し上げます。 さて、『女につくられ、女をあらわされ、女になる』の前身は、実に単純で小さな性的幻想の物語でありました。 その小さな物語のヒントとなったのは、ギリシャ神話に登場するペーネロペーというオデュッセウスの妻でした。 ご存知の方もあるように、ジェームズ・ジョイスが『ユリシーズ』という小説の最終章であらわした女性であります。 この女性、貞節の代名詞とも言われるたいへん魅力的な女性で、気高く美しい性格と行いは良妻賢母そのものです。 戦争へ出かけたままの夫を、生きているのかどうか、戻ってくるのかどうかもわからずに、 二十年の歳月に渡って待ち続けたのです、 その間にも、多くの求婚者からしつこく結婚を迫られ、そのうちのひとりを選ばねばならないように仕向けられても、 あらゆる手を尽くして引き延ばし時間をかせいだのでした、 求婚者たちに屋敷を侵され、財産を浪費され、ひとり息子共々迫害を受けても、 夫の帰還をひたすら待ち続けた貞節の女性には、 戻った夫が息子と共に求婚者たちを退治するという幸福があったのでした。 彼女をサディズム・マゾヒズムの物語のヒロインとして最適の女性と考えるのは、 ジョイスのあらわしたペーネロペーの卓見があるように、誰が思いついても不思議はないことだと思います。 美徳は不幸にならねばならず、悪徳は栄えて、ソドムのバッカナーレは百二十日続くのです。 「貞淑な理性が強いほど、抑えつけられる淫らな本能は激しい」 こうした女性のありようが一般的な見方であるとすれば、女性の物語として充分な説得力を持っているはずです。 その単純で小さなペーネロペーの物語は、次のような書き出しで始まっています、ご参考までに引用する次第です。 |
かおるは、十六歳になる息子と暮らす、三十九歳の美しい未亡人であった。 結婚して一年足らずで夫が急逝し、その直後に誕生した息子は、 かおるにとって、かけがえのない子供であり、生まれ変わった夫であり、成長する男性であった。 かおるは、息子が大人へと成長している態度に出会うにつけ、ひとり身の辛さを気づかされるようになっていた。 いつかは、この子が手もとから遠くへ離れていってしまう、寂しさ、切なさ、やるせなさを感じていた。 長き夫の不在を支えてきたものが失われれば、何を拠りどころとして生き続けたらよいか、わからなかった。 かおるには、幾人もの求婚者があらわれ縁談の話もあったが、彼女の貞淑な思いがそれを拒絶させてきた。 貞淑とは、志を固めて変えないことであり、女性であれば純潔を守るということであるが、 彼女の思いは、それがみずからの美徳として感じていたことからではなく、 おおっぴらに性交することの可能な男性が身近にいなかった孤独ということのありようからだった。 その孤独を思い知らされるようなことが起こったとき、彼女は、女としてのみずからを如実に気づかされるのだった。 安穏と安住にあった家のなかで、息子が連れてきた美しい少女と息子の部屋の前で唐突に出くわしたのである。 さらに、次の日、息子の勉強机の上に発見された未使用のコンドームは、大きな驚きと深い動揺をもたらし、 その天然から生まれた科学製品は未来を予告する顕示となったのであった。 時代がどのように移り変わろうとも、われわれの住む世界には、人知を超える事柄というものがあり、 人を超越する神はすべからくご存知のことである。 息子と少女が結ばれるために使用されたものである、と母親が想像をたくましくしたコンドームは、 息子と少女が計画する、男性としての自立、ふたりが育んでいく愛の将来ということからは、 息子が母親と結ばれるために用いられるという、 世の常識を逸脱した、人類の荒唐無稽とさえ言えるような目的を持たされたものであったのだ。 そのようなこととはつゆ知らず、かおるは、思いつめたひとり寝の寂しさから、みずからを慰めるようなことをする。 しかし、良妻賢母の気高く美しい性格と行いを持った女性には、 半裸になって乳房と乳首を愛撫するようなことがせいぜいで、考え疲れては寝入ってしまうのであった。 そこで、コンドームを発見して予告されたことが、彼女を目覚めさせる行いとして起こるのであった。 突然、身体を揺り動かされるようにして眠りから抜け出させられると、起こしているのは可愛い我が子であった。 息子がかおるの横たわっていたダブルベッドの上に一緒にいるのだった。 驚愕させられることだった、 寝室には鍵が掛かっていたはずであるし、息子の行っていたことはそれ以上のことだったからだ。 このようなことは現実ではあり得ない、という思いが激しく募っていたが、 身体から伝わってくる異様な感触は、それが実際に起こっていることをはっきりと思わせるのだった。 息子は、かおるの両腕を無理やり背中へまわさせ、重ね合わせたほっそりとした両手首を麻縄で縛り上げていた。 どうして、このようなことを……。 かおるは、やっとの思いで、その疑問を美しい口もとから問いかけることができたが、 息子の平然とした答えは、ふたりは相思相愛の仲にあるからだというものであった。 愛は人々を結ぶ、愛は世界を救う、愛がすべて……。 人間の存在理由をこれ以上明らかさにさせるものはないであろう。 息子からそのように告白された母親は、心からのうれしさを感ずる以外にいったい何があると言うのだろう。 さらに、ひとり身の寂しさを募らせオナニーまでする母親を慰めるのは、男としての義務であるとも言うのだった。 我が子からの愛、夫からの愛、男性からの愛、三点セットにした愛のギフトをプレゼントしようと言ってくれたのだ。 今日は母の日ではなかった、だが、そのような日にこだわるような愛の表現でないからこそ、意味があるのだった。 しかも、息子の言い分は、高まる愛のように一方的で、深まる愛のように行うことは強引だった。 気高く深い愛の前には、すべては沈黙しなければならない、という名言通り、有無を言わさず無理やりなものだった。 息子は、後ろ手に縛り上げたかおるをベッドの上へ仰臥させると、 彼女が身に着けていたネグリジェの裾をそろそろとたくし上げ始めたのである。 強引にことを運ばれることを好む女性もいる、だが、たいていの女性は強姦にあえば絶対的に反発を示すのである。 かおるも、我が子から行われていることであったにしても、 女としての本能は、激しく狼狽をあらわして、それをやめるようにと叫んでいた。 女性のあらがう声を聞いて萎縮する男性もいる、だが、たいていの男性は絶対的に勃起をそり立たせるものである。 後は実際の行動となるかどうかであるが、息子は、そのようなか弱い制止などものともせずに、 開けばより蠱惑なものを見ることのできる薄地のステージカーテンをめくり上げていったのだった。 かおるは、母親として、女として、懸命な抵抗を示して頑張るのだったが、 妻として、ということだけは置き去りにされていた。 それは、もとより、ひとり身の情欲の問題提起であった。 従って、別問題にされれば、堅牢とする防御の亀裂となるようなものだった。 そのとき、花嫁が処女を捧げて愛する夫の妻になった夫婦のダブルベッドの上にいたことは、 無縁の情感としてあることとは言えないことだった。 だが、堅牢とする防御に、息子はひるんだように見えた、裸にすることを諦めたかに見えた。 母親にとって、女にとってはなおさら、安堵の一瞬だった、しかし、ここでも妻は置き去りにされていた。 息子の愛の三点セットに対して、受けとめるかおるは、二点セットのままであったとも言えることだった。 この置き去りにされた妻は、文字通り、慰められることを求めていたのであるから、 母親や女がいくら拒絶を示そうとも、進んで夫のものを受け入れようとする造反があったとしても、不思議はなかった。 しかし、まだ、母親と女は、懸命に闘っていた。 息子は次の行動に出た、ひるんだように見えたのは、音楽で言えば休止のようなものだったのだ。 この場合は、ブルックナー・パウゼのように、少々長いと感じられるようなものであった。 従って、次に来るのは、フォルティッシモの全合奏であった。 母親の着ていたネグリジェは、絹の裂かれるような弦楽器の悲鳴を上げて、強引に引き裂かれたのである。 三十九歳のしっとりと匂い立つ成熟した女の柔肌があからさまにされていくのであった。 女のつんざくような金管楽器の悲鳴がこだまし、あらがう管弦楽の絶叫は必死になって制止を呼びかけていた。 だが、ロマン主義的豊饒は肥大化した管弦楽の圧倒で神と自然と宇宙をさえ表現していたとしても、 TVコマーシャルのちんまりとした伴奏で聴かされる限りでは、その説得力に見向きをする者はいなかった。 息子も、アイドル歌手の愛らしい容姿や音さえ外す身近さに注意を向けることはしても、 母親の眉根をしかめた切ない形相や哀れな声音などの女らしい伝統は一顧だにせず、 か弱いネグリジェを無残なほどに散り散りに引き裂いていくのであった。 だが、救いと言えば、母親にきちんと躾された息子は、引き裂かれた布地を相手の身体からすべて几帳面に取り去ると、 ショーツ一枚の半裸姿にある女が可哀想なものだと言わんばかりに、新たな衣装をまとわせようとするのであった。 新しい麻縄を使っての縄掛けが始められたのである。 後ろ手の手首へ繋がれた新縄は、身体の前へまわされて、美しい乳房を挟んで上下へ幾重にも巻き付けられていった。 後ろ手に縛られているだけでも、抵抗の自由はしっかりと奪われているというのに、 ふたつの乳房を突き出させられるような恥ずかしい胸縄まで施されるとは…… どうして、ここまでされなければならないの……。 かおるは、疑問を感じていた。 これは、後ろ手に縛られた姿以上に胸縄まで掛けられた女の姿態に、 息子がことさら美しさを感じるからそうした、というだけでは収まらないものがあった。 いまや、女体緊縛というのは、趣味人の異常な秘め事という特殊事情ではあり得なかった。 女体緊縛がSMであることくらい、母親であろうと、女であろうと、妻であろうと、 普段出かけるヘアーサロンに置かれた女性週刊誌的情報によって、世間の一般常識として知られていることである。 たとえ、その情報が曖昧で誇大で歪曲され誤謬のあるものだとしても、 多くの場合、娯楽は真実よりも優るのであるし、情報は事実をまのあたりにしなければ、映画か写真でしかない。 SMは「サディズムとマゾヒズム。加虐性愛と被虐性愛。サド-マゾ」と三省堂・大辞林・第二版に書いてあっても、 健全だと感じている者にとっては、異常性愛は、それで入院することでもない限り、ただの情報にしか過ぎないものだった。 文学、美術から大衆娯楽に渡り、あらゆる表現にSMの散見できる現状では、すでに紋切り型とさえなっていることだった。 それをいまさら、胸縄くらいのことで、どうしてここまでされなければならないの、などと思うのだとしたら、 ポップな現代的意匠とさえ言える女体緊縛を古びた因習と見るような時代錯誤に等しいことと言えるのである。 胸縄はおろか、股縄まではめ込まれて、ようやく、女体緊縛と言ってよいくらいの普遍化した状況があるのである。 芸術表現のみならず報道でさえ、喜怒哀楽の感情移入を感動麻痺に至らせるくらいに喧伝している現状を加味しては、 かおるの示すような反応は、かまととぶって見せるだけのことで、男の情欲を掻き立てる下心と思われても仕方がなかった。 「いやっ、縛られるのは、いやっ! 気が狂ったの! あなたは、気が狂ったの! いやっ、やめて〜」 甲高い女の悲鳴が悲痛なほどに上がったとしても、すねて見せるような甘美な愛らしさの媚態として映らせたことは、 息子が母親の乳房をおもむろに鷲づかみにし、乳首へむしゃぶりついていったという事実にあらわれているのだった。 それは、突き出されたきれいな乳房を前にした男性ならば、 まず十中八九そうするであろうという、まことに自然な振舞いでもあった。 自然と言えば、母親が子供に乳首を頬張られ、舐めたり、噛んだり、吸われたとしても、 母と子の自然な美しい姿として映るのは、若々しい母親が赤子を抱いて乳を含ませるありさまを嚆矢とするものであるが、 美しい女であっても、三十九歳の乳の出ない婦人が十六歳の遥かに背丈の勝っている男性に乳房を吸われている姿は、 女の乳房が緊縛で突き出させられているものであれば、なおさら、淫らな姿に映ったとしても仕方のないものであった。 かおるは、必死になって、親と子の間でこのような行いを絶対にしてはならない、と制止していた。 母親の乳房は子供のものであるという命題からすれば、これは矛盾をあらわしている。 だが、母親の乳房は子供のもの、ということを定立とすれば、それが淫らな姿に映るということは反定立であった。 弁証法的展開でこれを止揚して総合しようとすれば、文字通り、この思考法の根拠となっている二者を融合させること、 すなわち、母と子が乳房への愛撫を超えて結び合う、生理学的事象である性交が解決を生むことになるにほかならない。 だが、母親の乳房は緊縛されていたという付帯事項は、論外となっている点は批判の論点ともなろう。 確かに、弁証法的思考法に順じたありようでは、このようなことであった。 だが、このことを現代の思考法は、そもそも、定立と反定立を措定しないで、愛の万有引力を絶対として命題化する。 愛し合う者は、たとえ近親者であっても、愛の尊厳からすれば、行いのすべては自然過程である、とするものである。 愛は人々を結ぶ、愛は世界を救う、愛がすべて、ということを感じ得ない者がいるとすれば、それは人間とは言えない。 愛を感じることこそが人間の前提であって、愛によって行われることは、すべてが人間の存在理由としてあることである。 まどろっこしい弁証法など不要である、万有引力の厳然たる事実を示す愛を基本にすれば、すべては解決へと導かれる。 この場合の母親は縄で緊縛されているという付帯事項も、SMは愛である、という命題を成立させることで矛盾はない。 だいたい、矛盾と相反が人間にあるなどという見方が人間のありようを本末転倒していることである。 それは、愛を知らない者、愛が表現力としている喜怒哀楽の感情移入、この感動を知らない者が考えそうなことである。 憎悪でさえも、愛の裏返されたものだと見れば、愛の支配をまぬがれない人間の事象などあり得ないことがわかるのである。 だから、息子の母親への愛が強姦を行わせようとしていた、と描写できる場面ということになるのである。 いや、親子は愛で結ばれている、という愛の前提であれば、和姦ではないのか。 父親が嫌がる娘を無理やり犯すということ同様、嫌がる母親を息子が犯すのであるから、強姦と言えるに違いない。 ……もう、そんなことはどっちだっていいから、 早くそり上がっているものをどうにかする描写へ移ってくれないかあ、おじさん。 ふっくらとした乳房にこりっとした乳首の感触は、むしゃぶりついて、もてあそんでいるだけでも心地いいけれど、 それで、ママが喜んでくれているんだってわかるから、早く入れてあげたいんだよ、ぼくって、親孝行でしょう……。 「ああっ〜」 かおるは、息子の熱心な乳房への愛撫に、やるせなさそうな声を思わずもらしているのだった。 相手が誰であるかを問題にしなかったならば、どんどんと煽り立てられていく官能の快さが感じられていたのであった。 ……作者さんには悪いけれど、掻き立てられる官能の前では、別のものが見えてきてしまうのですわ、 あなたの書割のような言語ではとても描写できないような、とても深くて、とても広い世界ですわ……。 息子に身体を預けておいたら、その快さに運ばれて、先へ先へと行かされてしまいそうだった。 官能は、吹きかけられるようにどんどんと煽り立てられていくと、 首筋から顔にかけて火照っていたやるせなさを、身体全体へ朱を撒き散らしたように広がらせていくのであった。 上気する裸身は、募らせるもどかしさを激しくなり始めている愛撫で次々と打ち消されはするが、 さらに高まるもどかしさを打ち払うには、ますます激しく強い刺激を欲しくてたまらないものとさせるのであった。 だが、欲望のとりこになったありようを示すだけでは、母親としての立つ瀬がない。 かおるは、突然、振り解くように精一杯の力で、緊縛された裸身を大きく身悶えさせた。 「やめて、いけないわ! 絶対にいけないわ、こんなこと!!」 彼女が吐き出したその言葉は、はあ、はあ、としたか弱い女の息遣いをあらわしていた。 まじまじとかおるを見据える息子の表情は、 もはや、彼女の知っている何事も幼いままでいる子供のものとは感じられなかった……。 大人びた……そう、夫を思わせるものがあったのだった。 ここに、かおるのなかに置き去りにされていた妻のようやくの出番があったのである、 夫に従属できることを喜びとする妻の出番である。 息子は、母親がオナニーをしている姿を盗み見たと打ち明けるのだった。 寝室で行っていたことは、半裸になって乳房を愛撫していただけという生やさしいものではなく、 太くて長い張形を使って奥深くへと挿入し、その上に指を尻の穴にまで差し入れた、というものだった。 そのようなこと……嘘よ……。 身に覚えのないことを決めつけられているというのが、かおるの本音だった。 「嘘よ、嘘、あなたは、何を言っているの! わたしは、そのようなことはしていません! どうしてそのようなことを言うの! 嘘よ、嘘だわ…… あなたは、わたしに嘘をついている……」 しかし、嘘をついてまで果たそうとする息子の思いとは、いったい如何なるものなのであろうか。 愛……底知れず深く……すべてを満たすように広く……激しく燃え盛る生命そのもの……愛。 息子の尋常でない激烈な行動は、すべてが息子の愛のあらわれであると思えば、理解のできることであった。 息子と行っていることが道徳に反するようなことであっても、愛が息子を夫に変身させたと考えれば、納得のいくことだった。 愛の行為は、人間の尊厳であり、至上のものである、それがふたりを結び付けるのである。 緊縛された異常な姿で行われることであっても、SMは愛であるのだから、縄の拘束は強烈な抱擁と同じことだった。 かおるにとって、突然にさらされた驚愕の狼狽の過酷な状況であったが、 それは、わけもわからなく哀しい思いがこみ上げてきて、泣き出したくなるような心持ちとして感じられていたことであったが、 愛というひと言ですべての解決がつくのだった。 それで踏ん切りもつくのだった。 夫へ隷属して思いのままにされることが喜びとなることだったのである。 かおるは、息子の優しい手で縄で緊縛された裸身を仰臥させられていった。 半裸にされた身体を隠す最後の小さな覆いが水色の布地をなまめかしくあらわしている姿へ、 相手のまじまじとした視線が投げかけられ、その大きな両手が隠蔽の縁へそっと添えられたとき、 かおるは、母親であること、女であること、妻であることをひとつにする愛を感じさせられたのであった。 薄っぺらな下着はずるずると剥ぎ取られていって、成熟した肉付きの女の下腹部があからさまになっていった。 ただされるがままになっているだけであった、あらがう力を持たない生贄のように我が身をさらすだけであった。 しなやかできれいな両脚が左右へ大きく割り開かれていき、匂い立つような濃密な股間が剥き出しとなった。 息子は、脱がしたショーツをもはや必要のないものであるかのように、床の方へ放り捨てるのだった。 かおるは、夫婦の寝室のダブルベッドの上で、一糸も着けない生まれたままの全裸をさらしていた。 麻縄で後ろ手に縛られ、きれいな乳房を突き出させられるような胸縄まで掛けられた姿にあったことは、 寝室の主人であるという立場を失わせていた、長年に渡る夫の不在は妻の立場も失わせていた、 いま、息子と結ばれようとすることで母親の立場も失おうとしていた。 あるのは、愛される女というものに新しく生まれ変わろうとすることだけだった。 大きな瞳を見開いて前方を見つめたまま、仰臥させた身体をじっとさせて、成されることを待ち受けているのだった。 男は、身に着けていた衣服を素早く脱ぎ去っていくと、かおると同じ全裸の姿になった。 女は、その脱衣の様子を眺めながら、その者へ隷属する思いを感じることが心からの喜びとなるのを知った。 その者のされるがままになる奴隷であるということが、負担と感じていた自己を取り除かせるのを感じるのであった。 愛の奴隷……愛奴……どきどきするような響きの言葉だった。 不安と恐れと期待と喜びの入り混じった、とてもとても不思議な感じだったが、 ひとりで懸命に耐えてきたことの孤独のもどかしさから救われることになると思えることだった。 たとえ、はしたなくも、浅ましくも、見下げた女であると軽蔑されるようなことになったとしても、 愛の奴隷は、愛に隷属していることを証明することであるならば、みずからそれを求めていることを示すだけだった。 かおるの開かされた両脚の間へひざまずいた男は、そうした彼女の思いに応えるようなものを見せつけていた。 若々しく力強くそり上がった淫茎は、薄いゴムの膜を被ってさえ、みなぎる輝きをあらわしているのであった。 勉強机の上に発見されたコンドームの予告は、このようにして実現されるものであったと理解させられたとき、 かおるは、愛は、天然から生まれた薄膜の科学さえも、その実現のために包括するものであると感じるのだった。 愛の前には、すべての事柄は用いられる道具に過ぎないのであった。 男の大きな手がかおるの股間へ持ってこられた。 ふっくらと盛り上がった漆黒の茂みを泡に触れるような優しさで撫で始めることがされるはずだったが、 かおるの股間は、すでに覆いをすっかり失っていて、深い女の亀裂がなまめかしくあらわされているのであった。 女は、愛奴であるあかしとして、白無垢の純潔な思いを真一文字の亀裂で表象しているのだった。 剥き出しとされたその深々とした亀裂は、恥ずかしげもなく美しいピンク色をした花びらさえのぞかせていた。 男の指先は、ふっくらと盛り上がった小さな丘の亀裂のふちへ忍び入ると、確かめるようにゆっくりとたどっていった。 かおるは、その感触にびくっとした甘い疼きのようなものを感じさせられ、思わず腰をうごめかせるのだった。 指先は、まさぐるように亀裂の間へねじ込まれていき、捜し求めているものを掻き出そうとしていた。 愛らしい敏感な突起は、すぐに見つけ出された。 指先が優しくこねくりまわし始めると、かおるの美しい口もとからは、ああっ、という甘美なため息がもれた。 「ママって、凄く敏感なんだね…… ちょっと触っているだけなのに、もうこんなに濡れ始めているよ……」 言われるままだった、相手の愛撫は優しく巧みだったので、どんどんと官能を煽られていくのだった。 花びらからにじみ出させているものがあったとしてもおかしくないくらい、 胸は激しく高鳴っていき、顔は火照り上がり、乳首さえもが立ち始めているのがわかるほどだった。 「恥ずかしいわ……」 かおるは、彼女の顔立ちをじっと見つめ続ける相手を見返すことができなかった。 「恥ずかしくなんか、ないよ、女らしくあるってことの最高じゃないか…… ほら、見てよ、もうこんなになっているよ……」 まなざしをそらせている母親の眼の前へ、しずくを光らせているてらてらとした指先を見せつけるのだった。 「見てと言ったでしょう、言われた通りに見てよ。 ママは、ぼくの愛奴だと思っているのでしょう。 愛奴だったら愛奴らしく、言われたままにすればいいんだ!」 男の言葉つきは少々厳しくなっていたが、見透かされたように言われることで、それも頼もしく感じられるのだった。 「もう少し、待っててね…… もっと気持ちよくさせてあげるからね……」 相手の指先は、愛らしい突起が敏感さを発揮するように立ちあがるまで責め続けていた。 かおるは、突き上げてくる快感に腰をうごめかせるほどの反応を示し、甘くやるせなそうなため息をもらし続けた。 「ああっ、ああっ……」 ため息だけでは抑えきれないというように、乳房を突き出させられた縄掛けをされている上半身を切なくよじるのだった。 「ああっ、だめっ、だめっ……」 容赦のない指先の愛撫は、クリトリスから花びらの方へ移っていき、穴のふちをぐるぐるとたどり始めていた。 「どう、いいでしょう……。 凄い量だなあ、ぐちょぐちょじゃない、もう、手がべたべただよ……。 どう、そろそろ、入れて欲しい? 欲しかったら、お願いしてよ……」 男は、彼女の顔を見据えながら、皮肉な微笑みさえ浮かべているのだった。 愛奴であったとは言え、息子に対してそのようなことを願い出ることなどできるわけがなかった。 かおるは、美しい唇を真一文字に引き締めていた。 「何だ、素直じゃないなあ…… こうされても、言う気にはならない?」 揃えられた二本の指先が肉の襞の奥へともぐり込んでくるのだった。 「ああん、だめっ……」 指は奥深くへとは入りきらず、とば口でじゃれるような真似をして見せるのだった。 そのつれない戯れが、くちゃ、くちゃと淫らに感じられるほどの音を響かせると、 かおるは、その羞恥が股間から伝わってくる快感を煽り立てるようなものとなるのを感じて、激しく身悶えを示した。 「さあ、言え…… お願いです、入れてくださいって!」 中途半端なままの感触に掻き立てられていく官能は、もどかしいという思いを募らせるものでしかなかった。 言いなりになるだけの愛奴の思いは、ついには、抑制の思いを吹っ切らせることをさせるのだった。 「……お願いです、入れてください……」 かおるは、はしたない女であるに過ぎなかったのである。 どのような高潔な内容が描かれていようと、ポルノグラフィはポルノグラフィにしか過ぎないように、 女の変容だなどと言ったところで、官能が導くものは官能でしかないし、愛奴は愛奴にしか過ぎないのだった。 息子は、悶えているしなやかに伸びたきれいな女の両脚を左右の腕へ抱きかかえると、 剥き出しとなってぱっくりと開いているピンク色の肉の襞を見据え、 先ほどから行き場を求めてふらふらとうごめいている、そり上がった思いの丈を向けるのであった。 矛先はあてがう場所さえ間違えなければ、すんなりと言うくらいにずるずるともぐり込んでいくのであった。 「ああっ、ああっ……」 男が腰を精一杯にせり出させ、入り込むだけ奥深くへと沈み込ませていくと、 女は裸身をのけぞるようにさせながらも、落とし込む腰はさらに深くへと望ませていることをあらわすのだった。 しっかりと結ばれ合っている母親と息子の姿がそこにあった。 或いは、見ようによっては、全裸の男と緊縛された全裸の女が交接しているありさまでしかないものだった。 いずれにしても、繋がり合った事実は息子に確信を抱かせ、寝室の扉口へ向かって声をかけさせたのだった。 「恭子ちゃん、もう、入ってきてもいいよ……」 その呼びかけには、煽り立てられた官能に夢中だったかおるも、はっとさせられた。 部屋の扉が開いて、少女が長い黒髪をさわやかに揺らせながら、こちらへ向かってくるのが見えるのだった。 息子の自室の扉が開いて、初めて出くわしたときの驚愕や狼狽などまるで比べものにならないくらい、 巨大な波頭のような動揺が一挙に襲ってくるのであった。 そのうねりくる驚愕や狼狽、さらには、砕け散る動揺から生まれる不安と恐怖は、 差し入れられたままで甘美に疼かせられる快感と泡立つようにまぜこぜとなって、 異様な不可思議としか言いようのない妖美な感覚へとかおるを追い込んでいくのであった。 「こちら、安藤恭子さん……ぼくのクラスメート。 ママは一度会っているから、もう、知っているよね……」 母親と息子が子宮と淫茎とを交合させているダブルベッドの間近へ立った愛くるしい顔立ちの少女は、 「始めまして、安藤恭子です」 と言って、微笑みを浮かべながら、きちんとした会釈をするのだった。 全裸であって、縄で緊縛されていて、しかも、交接の真っ最中であったかおるにしてみれば、 少女は、普段着であったにせよ、慎ましやかで躾の行き届いた立派な衣装を身に着けた女性に見えるのだった。 「ママ、失礼だよ、挨拶ぐらいしてよ…… そんな無作法な親じゃ、ぼく、恥ずかしいよ……」 息子は、激しく腰を揺さぶって、かおるを急き立てた。 「ああっ、ああっ…… ごっ、ごめんなさい……このような格好で…… 母のかおるです……始めまして……」 やっとの思いで言うことのできた挨拶だったが、少女のまなざしは、ふたりの結び合った箇所へ向けられていた。 「やったじゃない、これであなたも正真正銘の男性になれたわけね。 でも、出したらだめよ、それは、わたしのためだけにあること、万が一のコンドームもそのためのものよ。 お母様には、お近付きのしるしに、おひとりでいる寂しさを慰めてくれるものを持ってきてあるの。 あなた、もう、いいわよ、いつまで入れている気なの……さっさと抜いて。 わたしだって、そんな姿をいつまでも見させられていると、本当に嫉妬を感じてむかついてくるわ。 お母様には、これがあるから、いいのよ……」 少女は、隠し持っていたものを出すように、そろそろと太くて長い木製の張形を眼の前にさせるのだった。 息子は、その異様に勝ち目はないと思ったわけではなかったが、あっさりと差し入れていた一物を引き抜いた。 かおるには、何が何だかわからないような茫然とさせられる取り扱われ方だった。 だが、中途半端に高ぶらされていた官能だけは、すぐに気づかされることを強いられるのだった。 ベッドから降りて立ち尽くしている息子にも見つめられながら、 少女は、かおるの股間を前にして、手にしていた張形を濡れそぼった花びらの奥へ含ませようとあてがっていた。 息子に裏切られた、夫に裏切られた、主人に裏切られた、男に裏切られた……。 裏切りもまた愛である、と言われれば、従うほかない真理であるのだろうか。 だが、少女からされることは、屈辱であることには違いなかった。 「いやっ、いやです、やめてっ! やめてください、お願いです! そんなこと、やめて!!」 筒先へ力が込められてくるのを感じると、かおるは、恥も外聞もなく懸命になって訴えるのだった。 相手が子供のような少女であっても、淫らな振舞いをさせようとしている主体者には違いなかった。 「大丈夫だわ、お母様……、 心配いらなくてよ、こんなに太くても、すんなり入っていきます…… ねえ、ねえ、あなた、見ているでしょう……、 あなたのお母様って、本当に女らしくて、すてきなものをお持ちなのね……」 「あっ、あっ、あっ、あっ……」 ひと押しごとにもぐり込んでくる感触は、突き上げられるような痺れる快感を伝えてきて、言葉を結ばせなかった。 「うっ、うっ、うっ、うっ……」 奥へと差し入れられるにつれ、容赦なくねじ込まれるようにされることは、とても少女の行いとは思えなかったが、 誰の行いであろうと、女の敏感な芯をいじめられてぐりぐりと伝えられる甘美な疼きの感触は、 緊縛された上半身を身悶えさせても、立ちあがった乳首を尖らせても、こらえ切れないほどのやるせなさであった。 きれいな両脚は、太腿のあたりから波立つぞくぞくとする痺れに押され、おのずと膝を立てるようになり、 それは、みずから腰を浮かせて、含まされていく異物をもっと奥へと求めさせるような姿勢を取らせるのだった。 少女には、相手のあらわす反応がみずからが女であるだけに、うなずかせるほどの納得が感じられるのであった。 「入ったわよ、凄いわねえ……お見事だわ。 でも、お母様って、この上に、指をお尻の穴に入れたとあなた言っていたわよね……。 やってもらいましょうよ……。 ねえ、この縄を解いてあげて……」 少女は、わきへ寄り添ってきた息子へ甘えるような調子で言うのだった。 そのようなことを勝手に決められたかおるだったが、呑み込まされた太い張形が煽り立ててくる快感に気を奪われて、 さらなる醜態の意味や前後関係や真実性などに思いを馳せる余裕はまったくなかった。 それもそのはずで、少女の手は、咥えさせた張形を思い入れたっぷりの調子で抜き差しを行っていたからだった。 うごめかされる度に、どろったとした女の蜜が豊富にあふれ出してくるさまは、 息子のまなざしを釘付けにし、そり上がったものを伸ばさせ、言葉を失わせるほどの淫靡であったのだった。 「ねえ、見とれてばかりいないで、早く、縄を解いたら……」 少女には、息子が夢中になった態度で母親に接するのが気に入らない様子だった。 太くて長い張形を含み込まされたまま、かおるは、胸縄を解かれ、後ろ手に縛られた格好から解放されていったが、 拘束から自由になったなどという思いはさらさら感じられないことだった。 高ぶらされ続けている官能は、女の芯を相手に握られているという支配的な感触から逃れさせなかったのだ。 「恭子ちゃんが見たいと言っているんだよ、やって見せてよ、 いや、早くやれ、と言った方がいいのかな…… もたもたしていないで、さっさと尻の穴へ指を入れろ!」 息子が母親に言う言葉遣いではとてもなかった、まさに主人が奴隷に言い渡すような命令口調だった。 かおるは、そのようなことはとてもできない、と思った。 しかし、反抗の言葉を口にすることもできなかった。 愛は主人の言葉を絶対とし、愛奴として昇らされている官能は、さらなる上を求めさせるものであったのだ。 息子と少女にじっと見つめられてできる行為では到底なかった。 だが、息子が見たと言った性欲の神託は、いま、愛奴に向かって発せられた命令によって実現を求められていた。 それはもう、善いとか悪いとかの思いを超える、愛そのものを意識することでしかなかった。 愛を信じなければ、できることではなかったのだった。 そのままでは入るわけがなかった。 かおるは、中指を立てると美しい口もとへ含み、したたり落ちるくらいに唾液で濡らして、股間へとやるのだった。 手前にのぞいている長い張形が邪魔をしていて、あてがう穴へは余程に身体を折り曲げなければならなかったが、 そのような姿勢になることは、含み込んでいた責め具を強烈な刺激に変えさせるものでもあったのだ。 「うっ〜、うっ〜、うっ〜」 指先だけは、何とか差し入れることができたが、それ以上深くへと望むことは無理だった。 それでも、優美な全裸をさらした女がピンク色した肉の花びらへ異様な形の木製を突き立てた上に、 ほっそりとした白い指先を尻の菊門へもぐり込ませて屈伸している姿態は、淫猥なものにしか映らなかった。 かおるが何を感じていようと、たとえ、命じられるがままの奴隷のようなものであったにせよ、 彼女は、浅ましい女であることをあらわしていたに過ぎなかったのである。 はしたなく、浅ましい女だったのだ……。 かおるは、差し入れた指先をうごめかせることをし始めていたばかりでなく、 もう片方の自由な手で張形をつかむと、伝えてくる快感に応じた抜き差しを行いだしていたのである。 みずからでみずからの身体をいじりまわして、官能を昇りつめさせようとしているのであった。 「ああん、ああん、ああん……」 はしたなかろうが、浅ましかろうが、官能に翻弄されているのであれば、 その高ぶらされているままになることは自然であったのだ。 相反も矛盾もへったくれもなく、自然であるありようをいったい誰が否定すると言うのだろうか。 その様子を見つめる息子と少女も、呆れたというほどに茫然となっていたのも、それが性欲のありのままだったからだ。 「ああん〜、ああん〜 あっ、あっ、あっ…… いっ、いっ、いくっ〜」 かおるは、なりふり構わず、がむしゃらにみずからを責め立てていくと、一気に頂上へと昇りつめるのだった。 「本当に凄いわね……人前でここまでして見せられるなんて、しかも、息子と許婚の前でよ……。 親が見せる性教育の手本にしては、オナニーなんてひとりよがりなものだけど、インパクトはあったわね。 お母様もうっとりとなったきれいな顔をしているわ……。 あなたも、ママを惚れ直したんじゃないの……。 でも、だめよ、浮気は絶対許さないわよ……」 少女は、陶然となった表情を浮かべている息子を小突いて気づかせると、麻縄を差し出すのだった。 「ひとりで自分を慰めることは勝手よ、好きなだけやればいいわ、オナニーはひとりでやるからオナニーなのよ。 でも、何をされようと、お母様には、母親は母親の立場でしかないってことをわかってもらわなくては……。 どうせ、放っておいたら、余計な小言や文句や注意や子供への愚痴を聞かされるだけのことだわ、 そんなことって、ただうざいだけよ……。 お上品なオナニーの道具を抜いてあげたら、お母様をしっかりと縛ってあげて…… 今度は、正装と言えるような見栄えのする縄掛けをして…… わたしたちの愛の立会人になってもらうのだから……」 息子はうなずくと、ベッドの上へぐったりとなったままでいるかおるを言われた通りの姿にさせていくのだった。 張形が引き抜かれていったが、かおるには、抵抗の様子はまるで見受けられなかった。 美しい肢体の人形のように、されるがままになっているだけであった。 ほっそりとした首筋へ縄が掛けられ身体の前面へ下ろされた、その縄には縦へ幾つもの結び目が付いてた。 縄尻が覆うものをまったく奪われた白無垢の股間に映えるくっきりとした女の割れ目へ通されると、 背後の首縄に引っ掛けられながら、割れ目深くへともぐり込まされるように整えられていった。 縦に下りた背中の縄へ新たな縄が結ばれ、前面へもってこられると、結び目と結び目の間へ通されて引かれていった。 身体の左右から下へ向かって、順次それが行われていくと、幾つもの菱形の紋様が浮かび上がっていくのだった。 菱形の数が増すだけ割れ目へ通されている縄の緊張も増していき、女のまなざしと口もとにもそれがあらわれていた。 しっとりとした白い柔肌の上へめもあやな縄の意匠が施されると、愛らしい乳首をつけたきれいな乳房が際立たせられ、 股間へ容赦なく埋没させられた縄があらわす割れ目には、妖美とさえ言えるような淫靡が漂っているのだった。 仕上げに、ほっそりとした手首が背中で重ね合わされて縛られていったが、 そのとき、かおるは、息子の顔を間近に見ることができた。 相手は視線をそらすこともなく、皮肉な微笑さえ浮かべているのであったが、 もはや、問いかける言葉も何も思い浮かばなかった。 少女も同じような皮肉な微笑みを浮かべていた、 そして、かおるをじっと見つめて、申し渡すような口調で言うのだった。 「とてもすてきな格好だわ……。 では、お母様には、ベッドから降りていただくことにします、床へじかに座ってもらうことの方がお似合いだからです。 このベッドの上にいる資格のない方に大きな顔をされていたのでは、わたしたち、愛を知る者の立つ瀬がありません。 夫婦の寝室にあるダブルベッドというのは、愛する夫婦のためにあるものなのです。 この方は、すでに夫を亡くされた可哀想なひとり身の妻です、 しかし、ひとり身の妻が夫のことをまったく思わずに、貞淑な妻ならば絶対行わないような卑猥なオナニーをする、 もはや、妻である自覚がないからできることなのです。 それだけでは、ありません、息子の勃起を平然と受け入れることをしたのです、 母と子が結ばれ合うなんて忌まわしくも非道徳的なことをみずから求めて行ったのです、 もはや、母親である自覚がないからできることなのです。 妻でもなければ、母親でもなければ、ただの女ということでしょう。 しかし、そのただの女であるということでさえも、何もかも言いなりになってしまう矜持のなさを示すことでは、 奴隷根性まるだし、女と言われるにも値しないものにしたのです。 せいぜい、縄で緊縛された優美な姿態を見せて、持って生まれた官能に隷属していることをあらわすだけの人形です。 わたしたち、愛を知る人間の世界とのお別れに、 わたしと彼とが夫婦として愛し合うところをしっかりと見つめて、 愛の何たるかを心に刻んでいくとよろしいですわ……」 少女は、そう言い終わると、身に着けていた衣服を脱ぎ始めていた。 息子は、緊縛された人形を無理やり床へ下ろさせると、きちっとした正座の姿勢を取らせるのだった、 それから、少女が若々しい全裸の姿になって横たわっているベッドへあがっていくと、添い寝するのだった。 俯いたままになっていたかおるが顔を上げたとき、 夫婦のダブルベッドの上では、はつらつとした姿態を輝かせた素っ裸の男と女が絡み合っていた。 思い入れたっぷりに求め合い、熱烈に愛撫し合うふたりを見つめていると、ひしひしとした孤独が押し寄せてくるのだった。 柔肌へ密着した縄の伝えてくる強靭な拘束感は、その孤独を絶対に逃れられないものとして封じ込めていた。 女の割れ目へ容赦なく埋没させられている縄は、孤独のうちに感ずる官能を否応なく疼かせ始めることをしていた。 若いふたりがコンドームを着けずに結ばれ合っているさまを見つめていると、 疼き始めた官能は煽られるように一気に高まっていき、身体の上にある菱縄は金網のフェンスのように感じられるのだった。 肉の花びらを押し開いてもぐりこまされていた股縄は、灼熱とした感触で敏感な愛らしい突起を責め立てるようになり、 突き上げられる甘美な疼きの快感は、思いへ絡み、ねじれさせ、よじれさせ、悦楽そのものとさせていくのであった。 それは、見つめ続けるふたりの愛欲が激しくなればなるだけ、いっそう高まっていくものでもあったのだ。 孤独でもいいの、高ぶらされる官能のままに頂上へ行き着くことさえできるなら、それを貪欲に望みたいの…… だって、わたしは、ひとりなんですもの……。 かおるは、官能のままにあろうとするだけの見下げた女であるに過ぎなかったのである。 はしたなく、浅ましく、見下げた女であったのだ……。 そのような女にも、結婚を求める男性があらわれるとしたら、それは救いとなるはずのことだった。 かおるは、みずからの背後に数人の人物が立つ気配を感じた。 同時に、ベルベットのような布地の感触が両眼を覆うのを意識させられた……目隠しをされたのだった。 「いつまで見ていても、仕方がない……。 あなたが高ぶらされた官能のままに求めることは、相手を知る必要のないことだ。 あなたは、ただ、差し出されたものをその美しい口もとに含み、相手を呑み込むだけのことをすればよいのだ。 われわれ三人は、あなたを是非とも妻に欲しいと望んでいる求婚者だ。 われわれのひとりから、あなたは夫を選ばねばならないが、あなたが口に含んだものがその答えを出す。 あなたさえ受け入れてくれるなら、われわれのひとりは、喜んであなたに放出を与えることができるであろう。 最初は、わたしだ。 わたしの知性は、あらゆることに納得を生み出すかけがえのない伴侶として、必ずやあなたを幸福にする。 含んで欲しい……」 そのように、しわがれた聞き覚えのある男性の声が聞こえ、 かおるの鼻先には、硬くそり上がった男のものが感じられるのだった。 彼女は、それを言われるままに口へ含んだ。 頬張ったものを舌先を使って、そのそり上がりが最大の硬直を示すまで愛撫し続けた。 生まれたままの全裸にされていた上に、両手を後ろ手に縛られ、雁字搦めの縄の意匠を施されていたのだから、 口と舌を使って行うことでしかなかった。 だが、懸命な奉仕であったが、硬直は萎えるばかりで、放出などさらにあり得なかった。 萎縮してしまったものは、おのずと口もとから離れ、しわがれた声音の人物も去っていくのであった。 別の声が待ってましたとばかりに弾んで聞こえてきた。 「可愛らしく、美しく、聡明なひと……。 わたしの感情は、あなたを幸福にする。 世界をみなぎらせるほどのわたしのものに触れてもらえれば、それはわかることだ。 けれど、なまじの口中の愛撫では、放出は難しいかもしれない。 わたしのものは、歴戦練磨に使い古されてきているのだ。 だからこそ、あなたを喜怒哀楽のなかにいきいきとして生かさしめる伴侶となり得るのだ。 頬張ってみなさい……」 聞き覚えのある太い声はそのように言うと、 かおるの美しい唇へ押し込むような強引さで男のものを差し入れてきた。 彼女は、嫌がる素振りは少しも見せずに、太い硬直をさらにみなぎらせようと丹念な愛撫を行うのであった。 その舌使いは、思いの込められたものであったが、あふれるくらいのはずの放出は行われなかった。 情けないくらいに萎んでしまった男は、舌打ちをしながら去っていくだけであった。 全裸の緊縛の愛奴は、休む間も与えられず、甲高い聞き覚えのある声音を聞かされた。 「何ものにもまさる、わたしの意志こそ、あなたを幸福にする……。 あなたが今日、ここに至ることができたのも、すべて意志があなたを導かせてきたからだ。 あなたは、わたしを伴侶とすることで、さらに先へと進むことができる。 情けないこと、辛いこと、苦しいこと、絶望にあってさえも、わたしはあなたを輝かせる。 はしたなく、浅ましく、見下げたものとされても、 雁字搦めに縛られた拘束にあっても、すべてが強要された行いとしてなされたことであっても、 わたしのいる限り、あなたの喜びは消えることがない。 呑み込んでください……」 長く伸びた男のものは、息を詰まらせるくらいに深く差し入れられてきて、 かおるは、思わず涙をにじませたが、求める放出のためには一生懸命に口中を使うのであった。 しかし、どれだけの努力も、どれだけの時間も、相手を萎えさせていくだけのことにしか過ぎなかったのだった。 ついには、口もとから離れていくのだった。 かおるは、求婚者たちからも見捨てられた女になったのである。 女と言うにも値しない、木偶の人形とされてしかるべきのものに変容したのだった。 無言に、男のものが鼻先に触れ、唇に触れてきた……、 彼女は、ささやかれる言葉さえないそれを求めるように、口のなかへ含んでいった。 口いっぱいに頬張って、思いを込めて舌先を使い、高まる官能を頂上へと追い上げるように階段を昇っていった。 その階段は、 ぐるぐると螺旋を描くように、 下へ下へと下降しながら、 上へ上へと上昇させられていくものだった、 輝く悦楽の光、 それが見えた、 まもなく、酸っぱい放出を受けとめたのであった。 放出された精液を呑み込んでいる間も、男は無言のままじっと立っているだけであった。 やがて、立ち去っていったが、その者は無言をあらわすだけだったのである。 すべての者がその場から立ち去っていった。 生まれたままの全裸を緊縛され、目隠しを施されていた彼女に残されたことと言えば、 ただ、暗闇を見つめることしかなかった、 官能の暗黒を見るということだけしかなかった、 それは、生まれ変るには、見つめなければならない光だったのである……。 成瀬薫は、目を覚ました。 部屋の照明は落ち着いた感じのものだったが、それでも、まぶし過ぎるくらいに感じた。 彼の開いたまなざしが最初に見た人物は、引詰めた髪型に黒縁の眼鏡を掛けた白衣姿の女性であった。 その女性は、微笑みを浮かべながら挨拶をするのだった。 「目覚められましたわね……。 あなたの施術は無事成功しました、おめでとうございます。 福島研修所へ、ようこそいらっしゃいました。 わたしは、研修教官をしている安藤恭子です、よろしく。 スタッフ一同、成瀬かおるさんの誕生を心から歓迎いたします……」 安藤教官はそう言うと、細い指先の手を差し出すのだった。 白いシーツにくるまれてベッドに寝かされていた成瀬薫は、 女らしいほっそりとした美しい手を取り出すと、相手の手をしっかりと握って握手をするのだった。 「ありがとう…… こちらこそ、よろしくお願いしますわ……」 かおるのきれいな声音が室内に響き渡るのだった……。 ――ひとつの書状の始まりはこうして終わりを告げるが、さらなる物語の始まりでもあったことは次回をお楽しみに。 |
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