借金返済で弁護士に相談



物語の舞台はいにしえのヨーロッパ。
緑なす静寂の森のなかにそそり立つ巨城ブラバン。
城に住まうのは、
聖なる魔力をもつ大剣ノートゥンを守護する領主マルケ王であった。
王と十二人の選抜された聖剣の騎士たちがまつるノートゥンは、
その守護によって愛の平和がもたらされる奇跡と信じられていた。
事実、その地はブラバン国を中心に近隣諸国とも平和な関係が営まれていた。
マルケ王は若くして最愛の妃エルザを病で失っていたが、
妃の忘れがたみである愛娘エヴァと幸せな日々を送っていた。
エヴァはまもなく二十二歳の誕生日を迎えようとする、
清廉な心と可憐な美しさをそなえた、だれからも愛される王女であった。
聖剣の守護により、領主マルケ王の人徳により、エヴァの清廉な美しさにより、
王国は愛の平和からつねにばら色の香気にみたされ、領民も安穏に暮らしていた。
その王国の北のはずれに、禁断の辺境と称される切り立った岩山があった。
岩山の深々とした洞窟には魔術師クリングゾが住んでいた。
クリングゾはかつて聖剣ノートゥンの守護にあたる騎士のひとりであったが、
邪悪な野心から聖剣の力でマルケ王を倒し、
熱愛する王妃エルザと王国をわがものにしようと謀略を起こしたのであった。
しかし、クリングゾは彼を恋い慕うブランゲという女魔術師の嫉妬から、
政権転覆を明るみに出され失敗したのであった。
クリングゾは聖剣騎士となるための修行のさなか、
禁断の辺境でめぐりあったブランゲと数ヶ月をともにし、
ブランゲから淫靡な性の歓びの数々を教えられたのだった。
ブランゲはクリングゾがそのまま洞窟へ居住して、
みずからとともに妖魔術の王国を建設しようと求めたが、
クリングゾの心には、決してかなえられない相手、熱愛するエルザ妃があったのだった。
クリングゾはブランゲを捨て、ブランゲは諦めずにクリングゾを求めた結果のことだった。
謀略の実行が失敗に終わったとき、
怒りに燃えたクリングゾはその原因であるブランゲの首をはねて殺害したが、
みずからも略奪しようとした聖剣で股間を負傷させてしまったのだった。
聖剣はよこしまな目的のためには正義の魔力を発揮しないという伝説のとおり、
クリングゾの一物は去勢と同様な性的能力をまったく奪われた廃物となってしまった。
クリングゾには当然斬首の刑が待っていた。
その刑の執行に慈悲をあたえた者がいた、こともあろうに王妃エルザだったのである。
エルザはブラバン国へ嫁入りするずっと以前に、
暴走する馬車の危険を通りかかった若者クリングゾに助けられたことがあったのだ。
そのときのことをエルザ妃は忘れなかったのである。
クリングゾにとってもそのときの若く美しい姫が熱愛への始まりだったのである。
心優しく恩を忘れないエルザ妃のたっての願いから助命がかなえられたことは、
クリングゾにもよこしまな心を改めさせる愛の平和がもたらされたことだった。
しかし、聖剣守護の元騎士は罪を懺悔することを王たちの前で誓いながら、
よこしまな心はよこしま以上にたてしまとなって改めさせていったのだった。
王国の辺境へと追放されることになったクリングゾは、
かつてブランゲと淫靡な性愛をはぐくんだ岩山の洞窟を住居として定めるのだった。
そこで彼は慈悲なる幽閉をみずからが怪物として生まれ変わるためにあてたのである。
禁断の辺境の岩山の奥深い洞窟のなかでどのようなことが行なわれていたかなど、
愛の平和からばら色の香気にみたされ安穏に暮らしていた人々には知る由もなかった。
クリングゾはみずからの命を救った王妃エルザに感謝の念をいだくどころか、
去勢されたも同然の身の上はそもそもが彼女を愛したせいだと憎悪したのである。
しかし、激しく憎悪したが、憎悪するだけエルザへの愛が高まるのを抑えられなかった。
クリングゾは矛盾するねじれた思いからよこしまな心をさらにねじまげて、
美しく気高いエルザを恥辱と汚辱の底へおとして辱しめることを念願とするのだった。
彼は悪魔に帰依して魔道の習得にその道を求めていくのだった。
年月が過ぎ去り、岩山の洞窟に弧絶に住まうクリングゾにも風の便りが訪れて、
エルザ妃が病をえて亡くなったという話が聞こえてきた。
邪悪な怪物となっていたクリングゾは生きる糧を失って深く落胆した。
だが、それで諦めるようなことはなかった。
エルザには先年生まれた女の子がいることを知ったからだった。
その子が成長し、あのエルザと同い年の二十二歳になったとき、
そのときこそは残虐な復讐を果たしマルケ王から聖剣ノートゥンまでも剥奪して、
みずからの一物を復活成就させるときだと怨念したのである。
聖剣によって傷つけられた箇所は、
その聖剣によってのみ傷をなおすことができるとされていたのであった。
それからの二十年あまりの長い年月を怨念を支えに、
魔術師クリングゾを魔道に精進させ緻密な奸計をめぐらさせたのは、
もとよりはエルザに対する底知れぬ愛であったということは否定できないことだった。
暗黒の深い闇に邪悪な光がともる切り立った岩山の洞窟、
そのなかで弧絶な日々を送る悪魔の魔術師とはうらはらに、
母を失ったという悲しみがありながらも、その生誕をだれからも祝福され、
エヴァは幸福な日々のなか明るく華やかに成長していくのだった。
やがて、めぐりめぐり、ついにその日はやってきた。
今日はエヴァの二十二歳になる誕生日だった。
喜びにみちた祝賀がブラバン城では催されていた。
青い瞳の大きく輝く清楚で愛らしい顔立ちをした王女は、
雪白に輝く柔肌の優美な姿態を瞳と同じ色のドレスにつつんで、
輝く金髪の長い髪を柔らかにゆらせ優しい微笑みを浮かべては、
献上されてくる贈り物のひとつひとつに礼を述べている。
その美しく麗しい姿を見ては、
だれもが亡きエルザ妃に優るとも劣らない貴婦人であると印象をもつのだった。
誕生日の祝賀が華やかに行なわれていたわけには、
エヴァがブラバン城の後継者として花婿を求めていることをあらわすものがあった。
エヴァのなかには意中のひととして、
今まさに眼の前に贈物の献上者としてあらわれたひと、
隣国ワルトブルの若き騎士長ワルターがいるのだった。
国王ハーゲの代理として出席していたワルターは、
エヴァの前に出るとうやうやしく贈物を捧げ祝辞を述べるのだった。
そのときのエヴァの華やいだ顔はばら色に紅潮するほどの喜びにあふれたものだった。
じっとまなざしをエヴァの青い瞳に注ぐワルターも同じように両頬を紅潮させ、
秋に行なわれる聖剣騎士の選抜会議へ決意を新たにさせるのだった。
聖剣ノートゥンを守護する十二人の騎士は、十年に一度、
ブラバン国をはじめ近隣十国のなかから技能と人格に優れた騎士が選ばれるのであった。
エヴァの花婿となるためには、まず聖剣騎士に選抜されなければならなかったのである。
やがて、きらびやかな祝賀の宴も終わりに近づき、招待の客もいとまを告げ始めていた。
最後の客人が大広間を出て行くのとすれ違いに、ひとりの貴婦人が入ってきた。
おくればせながら、贈り物をたずさえてはるばる参上いたしました、
と告げる婦人はローエン国のクンドラと名のった。
国の名前にも婦人の名前にも聞き覚えはなかったが、
高貴な美しさをただよわせるその容姿に、
エヴァはどこか懐かしいひとの面影を感じるのだった。
驚いたのはそばにいたマルケ王だった。
クンドラを見た瞬間、
彼女が亡き王妃エルザに生き写しであることに唖然となってしまったのである。
クンドラは誕生日の祝いの品として、
”E”というエヴァのイニシャルを造形した純金のペンダントを捧げるのであった。
そして、これはエヴァ王女の成長をだれよりも祝福している、
遠い異国の王ローエンからのものですと言い添えるのだった。
エヴァもマルケ王も、十二人の聖剣守護の騎士たちも他の家臣たちも、
そこにいるだれひとりとして、聞き覚えのない国の王とその使者の振舞いを疑わなかった。
それほどまでに、美しいクンドラの気品のある物腰が、
まるでエルザ妃が以前からそこにいたかのような自然な感じを印象づけたからだった。
貴婦人は用命を終えると立ち去ろうとした。
それを引きとめたのはマルケ王だった。
異国からの長旅の疲れをせめて一泊して癒して欲しいと王は所望したのである。
それどころか、マルケ王の心中は、この城にずっと留まって欲しいと述べたかったほど、
クンドラに強く惹かれるものを感じていたのであった。
同じように、不思議な懐かしさがこみあげさせる喜ばしさからエヴァも、
宿泊することをクンドラに切望するのであった。
貴婦人は分不相応のお取り計らいと遠慮したが、説得されようやく承諾したのであった。
これがクリングゾに使わされた女魔術師のクンドラの妖術であったのである。
その夜、マルケ王とエヴァとクンドラは、
居間でくつろぎながら更けゆく時間もかまわずに、
まるで本物の夫婦であり親子であるような親密さで語りあうのだった。
エヴァはクンドラの優しい手で”E”のペンダントを首にかけてもらえたことを心から喜び、
この親子のような幸せなときが永遠に続くことを願わずにはいられなかった。
やがて明日の出立もあるのでとクンドラが述べ、団欒は終わりにしなければならなくなった。
それぞれの寝室へ向かう別れ際に、
マルケ王はクンドラを是非とも妻に迎えたいという思いにまでなっていたのだった。
それゆえ、王がベッドに横になり寝つかれぬままにクンドラのことを思っていたとき、
部屋の扉がノックされたことは驚きであった。
さらに、開いた扉に立っていたのが美しく気品にみちたクンドラであったことは感激であった。
このようなお時間に不躾ではございますが、少しお話したいことがございますと言って、
貴婦人はその美しい顔立ちのきらきらと光るまなざしをマルケ王へ向けるのだった。
マルケ王に何の異存があるだろうか。
まさかありえないと思っていた女性が、かなうようにと欲していたままに出現したとき、
王は領主でもなければ、聖剣の守護者でもなく、ただの男性であろうとするのだった。
美しく淑やかなクンドラを部屋へ招き入れると、
マルケは長い間待ち望んでいた恋人と再会したように彼女の唇を求めずにはいられなかった。
クンドラは嫌がる様子などまるで見せず、
むしろ、そうされることを望んできたかのように彼のなすがままになるのだった。
長いキスのあと、さらに強く求められる唇に、
クンドラは寝室にあった芳醇な美酒を口にふくむと、口うつしに王に飲ませるのであった。
そこにはクリングゾが魔道で作りだした媚薬が混ぜられていたのである。
たちまちのうちに、マルケの身体全体は燃えさかる情欲につつまれていくのだった。
顔つきは威厳のある王のものではなく、浅ましい愛欲の奴隷の表情になっていくのだった。
美しく気品のあるクンドラの顔立ちも、口のなかに残った媚薬を飲み込んでいけば、
狂おしい美しさをはなつ妖婦へと変身していくのであった。
物欲しそうにしているマルケに、妖婦は着ているものを全部脱ぎ捨てろと命じた。
マルケはクンドラの言葉なら、恥ずかしげもなく生まれたままの姿になるのだった。
さらに、その姿で四つん這いの馬になれと言われれば、
彼はよだれを垂らした顔をにやにやさせながら嬉しそうに脂肪のついた馬になるのだった。
愛するクンドラにそのまま待てと言われれば、
マルケは一物も尻の穴もあからさまにのぞかせたその姿勢でおとなしく待つのだった。
それがクリングゾの媚薬の力だったのである。
同じように身につけていたものを脱ぎ去り一糸まとわぬ姿となったクンドラは、
貴婦人の慎ましい影など微塵もなく、何もかもあらわにさらけだした淫乱な女になっていた。
淫乱な妖婦は、眼の前に四つん這いになるみっともない格好の人間裸馬へまたがると、
男の長い髪を手綱がわりにして、寝室の床をぐるぐるとまわらせるのだった。
男は愛する女の秘めやかで柔らかな箇所が背中へ触れていると感じるだけで、
一物を張り切らせ、けしかけられるままに気負いこんで馬になりきるのだった。
しかし、妖婦が張り上げる嬌声のほどには使役に耐えられず、
脂肪のついた中年の裸馬はあっけなくつぶれてしまうのだった。
妖婦は寝室に入るときに隠し持っていた鞭を取り出してくると、
裸馬の肉づきのいい尻めがけて激しく振り下ろすのであった。
皮が裂かれる乾いた悲鳴が男の裸身から発せられるが、
男は愛する女から受ける虐待に抵抗のそぶりを見せるどころか、
一物を反りきらせ口から泡をふきながら苦痛の震えを素直に示すのだった。
マルケ王はクンドラの浅ましい奴隷に成り下がっていた。
その奴隷が口をぱくぱくさせて御主人様へ何かを呼びかけている。
しかし、奴隷の渇き切ったのどは音もかすれて声にならない。
続けられる尻への打擲も始めは苦痛そのものであったものが、
やがて底知れぬ快感へと変わっていくのをあらわすように、
マルケ王の白くでっぷりとした裸身は火照りあがって震え悶えていた。
ついに、王の裸身は鞭の執拗な愛撫に悶え狂わされたかのように、
のたうちまわって床へ仰向けに横たわってしまった。
妖婦はそこで初めて、何が欲しいか、と耳を寄せて尋ねるのだった。
王はあえぎあえぎしぼり出す声に涙を流しながら必死に哀願していた、
のどを、のどをうるおすものをください、お願いです……
乞われた生まれたままの姿の妖婦は淫靡な微笑みを浮かべながら、
その妖しく淫らな姿態をマルケ王の眼前へ突き出すと豊満な乳房の片方をつかみ、
母親が赤子にするように乳首を突き出させて王の口へ触れさせようとするのだった。
王はその薄紅色の乳首をしゃぶろうと唇を突き出した。
だが、妖婦はせせら笑いながらそれをひっこめて言うのだった。
馬鹿だねえ、おまえは。
おまえの子供をはらんでいるわけでもないのに、乳なんか出るわけないじゃないか。
マルケ王は間の抜けた表情を浮かべたまま、離された乳首を見つめ続けている。
愚かなおまえには、もっとおまえを賢くさせるものをたっぷりと飲まさせてやるよ。
今度はそう言うと、妖婦は艶かしい白い脚を長々とのばして相手の顔をまたぐのだった。
マルケ王の顔面の上には密生した柔毛が縁どる折り重なった肉襞があからさまだった。
そのわれめからちょろちょろときらめく黄金のしずくが吹き出したかと思うと、
流水が光り輝きながらほとばしり出るのだった。
きらきらと弧をえがいて流れ落ちるそれを唇に受けると、
王は愛するクンドラへの恍惚とした歓びとともにさらに大きく口を開き、
愛を飲み込むきわまった情欲の高ぶりで、
みずからもそりあがった一物から白濁とした液を飛び散らせるのだった。
それから、淫乱な妖婦は流水をほとばしり出させたわれめの奥深くまで、
舌を使ってきれいに拭うよう王に求めるのであった。
マルケ王は妖婦の言いなりになるだけの愛欲の奴隷でしかなかった。
そして、ついに女魔術師は本意をあらわにしたのである。
聖剣ノートゥンをクンドラに握らせてみよ、と命じたのである。
頭のおかしくなっていた王は言われるままにノートゥンを持ってきて妖婦へ差し出した。
淫乱な妖婦は、おまえに最高の愛の法悦を与えようと言って、
生まれたままの姿の王にかまえた大剣の刃をまたぐように命じたのだった。
マルケはもはや言われたとおりのことを行なうだけのでくのぼうにすぎなかった。
哀れにも、彼はみずから守護する聖剣で股間を負傷させられたのである。
クンドラは邪悪な魔術師クリングゾに命じられたとおりすべてを行なったのだった。
あとは奪った聖剣を岩山の洞窟へ持ち帰りさえすれば、
彼女もクリングゾから妖魔術を解かれ、
罪をぬぐわれた清らかな女に戻してもらえる約束があったのである。
領主が負傷し聖剣を失ったブラバン国は、
たちまち、同盟国であったはずの隣国ワルトブルから攻め入られた。
教父に化けたクリングゾが国王ハーゲをそそのかして、
マルケ王の恥知らずな負傷は悪魔に魂を売ったからだと信じさせたのである。
さらに、その娘エヴァは魔女であるから捕らえなければならない、
魔女の生き続けるかぎり、この地上に悪疫と災害がはびこり続けるだろうと……
ブラバン城へ攻め入ったワルトブルの兵士たちは、
不能になって床へ伏していたマルケ王を城の深く暗い地下牢へ投げ込むと、
目的の魔女を捕らえようと部屋をくまなく探索するのだった。
聖剣を守護する十二人の騎士たちも、王の家臣たちも無力に投降せざるをえなかった。
王の負傷が邪悪な愛欲によるものであれば、正義の力は発揮されなかったからである。
祈祷室で祈願しているところを捕らえられたエヴァは城内の広場へ連れ出された。
魔女の呪いが触れる者を黒死病にさせるという教父の教えのとおりに、
エヴァの身につけていたものはすべて剥ぎ取られ、その場で焼き捨てられるのだった。
生まれたままの雪白の全裸姿をさらされたエヴァは、
恥ずかしさと恐ろしさで泣きじゃくりながら裸身を隠そうとするが、
容赦のない荒縄がかけられて後ろ手に縛り上げられていくのだった。
さらに、舌を噛み切って自害させないための縄の猿轡がつけられた。
ふっくらと美しい乳房や恥ずかしい下腹部の金色の柔毛までもあらわにさせられて、
取り巻く無数の兵士たちの好奇のまなざしのなか、
可愛そうなエヴァはうなだれて嗚咽をもらし続けることしかできなかった。
その彼女の清楚で可憐な顔立ちも無慈悲に上げさせられると、
教父が魔女のあかしと告げた純金のペンダントが確かめられるのだった。
神の栄光をつかさどる教父の言葉どおり、
エヴァのほっそりとした首には、
”EVIL(邪悪)”のイニシャルである”E”が輝いているのだった。
エヴァは優美な裸身を薄汚れた縄で乳房が突き出るくらいに厳しく縛られると、
農作業に使われる臭い駄馬の上へ押し上げられてまたがされるのだった。
これから、隣国のワルトブル城までの道のりを、
邪悪な魔女のさらしものとなって引き立てられていくのであった。
その行列を指揮している騎士をふと見た瞬間である。
清廉なエヴァにはもはや生きた心地がしなかった。
何という運命の皮肉であろうか。
護衛の指揮を執っているのは意中のひと若き騎士長ワルターだったのである。
エヴァはあからさまにさせた恥辱の姿態を隠そうと必死な思いに取りすがったが、
駄馬の上で身悶えさせる優美な裸身はむしろ艶かしくも淫らにさえ映るのだった。
見ろよ、魔女が早く拷問されたいと、もどかしそうに腰をうごめかせているぞ。
ワルターはそうした兵士たちの揶揄や哄笑にも耳を貸さず、
エヴァの顔はおろか羞恥の姿さえも見ないようにして、
蒼ざめてはいたが毅然とした表情で任務にあたっているのであった。
エヴァは信じようとするのだった。
ワルターの心のなかに自分に対する一抹の愛がまだ残っているとすれば、
それこそは生きのびようとする唯一の希望であるほかないものであると……
沿道には長い長い人垣ができていた。
あの清純で可憐な王女が邪悪な魔女になった姿をひとめ見ようとする民衆だった。
恥辱と恐怖を必死にたえるエヴァの悲愴な表情は、
全裸にされ汚らしい縄で緊縛された優美な姿態の雪白の汚辱とあいまって、
気高い美しさが踏みにじられるあまりにも残酷であるがゆえの、
異様な輝きが放たれている感じがあった。
人々の心にも、これほどの残酷で破廉恥な姿をさらけだしていながら、
その清純が輝くように見える王女が本当に魔女なのかと疑いを持つ者もいるのだった。
異様な輝きは真実の美の何たるかを伝えているかのようだったのである。
しかし、それこそが人心をまどわして邪悪へ誘惑する妖術なのだと言う者もいた。
何よりの魔女の証拠には、エヴァがどれほど清廉な姿をあらわしていようと、
女の白い胸元には”E”の象徴が淫らな黄金色の輝きを放っているではないか。
群衆のなかから、邪悪な魔女、地獄へ落ちろ、と罵声が浴びせかけられるのだった。
その罵声は恥辱と恐怖に翻弄されたエヴァの耳もとにも届いていた。
彼女の打ちのめされた心は人々から憎悪されるままに、
絶望の底へとずるずると引きずられていくのだった。
ワルターへの一縷の望みも、みずからのありさまを思えば幻の光のようなものだった。
そして、その罵声をエヴァと同じくらい打ちのめされた思いで聞いている者がいたのだ。
群集に混じってエヴァを見つめ続けていたクンドラである。
クンドラはマルケ王から奪った聖剣をクリングゾに渡して、
約束どおり罪の拭い去られた清らかな女に戻してもらったのだった。
クンドラは二十歳のときにクリングゾにかどわかされて岩山の洞窟へ連れてこられた。
その日より、クンドラはクリングゾによって淫靡な女魔術師に育てあげられるために、
女が男を愉しませるためのあらゆる技巧と妖術を教え込まれたのだった。
もとは小さな地方領主の末娘であったクンドラは生来の清廉な心を持っていたが、
ふたりだけの洞窟で行なわれた淫猥な際限のない調教は彼女を変身させたのである。
それでも、クリングゾの気に入らなかったことは、
クンドラが淫靡な女魔術師に成長しながらも、清廉な心を残していたことだった。
だがそれさえも、邪悪な魔術師はみずからが作り出した魔道の究極である媚薬によって、
クンドラを思いどおりの淫乱な女として使命をまっとうさせることができるとしたのだった。
クリングゾの妖術から離れたとき、ふとわれに返るクンドラは、
弄ぶためだけに行なわれた村の若者への淫猥な行為の数々に激しい罪を意識した。
だが、クリングゾの妖術にさらされれば、その罪こそが快楽そのものとなる。
媚薬はその罪の快楽を最高に高めるものであったから、
クンドラはクリングゾの思惑どおりのことを難なく果たしえたのだった。
クリングゾは手中にした聖剣で不能の一物を蘇らせ、性欲さえ倍加させることに成功した。
邪悪な魔術師はかつての女魔術師ブランゲの裏切りを忘れてはいなかった。
クンドラを手元に置いたままではろくなことにはならないと見とおし、
彼女の望みどおりに妖術を解いてその身を解放したのであった。
普通の女に戻ったクンドラは、この地を去って、
知られぬ場所でひっそりと暮らそうと決心していた。
そのときであった、見せしめのために引き立てられてくるエヴァの姿と出会ったのである。
悪臭を放つ駄馬にまたがったエヴァの全裸をひとめ見た瞬間、
クンドラはその姿に釘付けとなった。
恥辱と汚辱にまみれたあまりにも悲惨な姿でありながら、
エヴァの放つ異様な輝きが清廉さそのものとして映ったからだった。
邪悪な魔女、地獄へ落ちろ、と罵声が浴びせかけられ、唾が吐かれる。
クンドラは、地獄に落ちろと言われるべきは自分なのだ、という悔悛の心を深く動かされた。
彼女はある決心をかためると、その場を立ち去るのだった。
ワルトブル城の大広間へ引き立てられてきたエヴァには、
教父による最後の審問が待っていた。
居並ぶ勇壮な騎士たちにまわりを取り囲まれて、
王座には領主ハーゲ王が座り、教父に化けたクリングゾが横に控えているのだった。
審問に答えるために縄の猿轡は外されていたが、全裸姿の縛めはそのままだった。
顔を上げよと命じられて、おずおずと向けられたエヴァの顔立ちを見て、
クリングゾは初めて知るその可憐さに蘇った性欲が一気に燃え上がるのを感じた。
エヴァの美しさは、かつて恋い焦がれたエルザ妃以上のものとさえ感じられるのだった。
そして、その清廉さを漂わせるあまりの美しさゆえに、
クリングゾの邪悪な怨念はいっそう燃え盛るものとなっていったのである。
おまえは魔女であるか、という教父の鋭い問いが大広間にこだました。
恥ずかしさと恐ろしさに心底疲れ果て、長い間かまされていた縄の猿轡のために、
エヴァは答えたくても涸れ切ったのどからはまったく声が出せなかった。
教父は、仕方がない、慈悲であると言って、器に注がれた水をエヴァに飲ませた。
そして、おまえは魔女に相違ないな、と教父が言いわたした瞬間だった。
震えながら立っていたエヴァの雪白の裸身がみるみるうちに火照っていった。
それから、彼女は立っているのももどかしそうに、
縛られた身体を悩ましく悶えさせ始めたのである。
顔の表情こそ、身体の芯からこみ上げてくる欲情に懸命に打ち勝とうとしていたが、
立っていられずに横たわった優美な姿態は、
まるで純白の艶かしい蛇が淫らなうねりくねりを繰り返しているように映るのだった。
教父の聖なる判決が魔女の正体を暴いたものだと、その場にいた者は驚嘆した。
教父が長い槍の柄の先っぽをエヴァの柔らかな太腿の間へ差し入れると、
その太い先を欲しがるかのように腰を浮かせてわれめをせり出させてくるのだった。
エヴァが飲まされた水には媚薬が仕込まれていたのである。
その場にいたワルターもそのようなことは知る由もなく、
ついに見るに見かねて席を外すと大広間を出て行くのだった。
深い絶望に沈みながら回廊を歩いていく彼を呼びとめる女がいた。
クンドラだった、彼女は若い騎士長の方へ急ぎ足で近づいていくのだった。
広間では、ハーゲ王が教父の立証を認め魔女の引き渡しを承諾していた。
黒い頭巾をかぶった上半身裸の屈強の男がふたり、
身悶えの続くエヴァの白く優美な裸身を抱きかかえ、
教父を先頭に大広間を出て行くのであった。
向かうところは、城の敷地の一郭に設けられた拷問部屋だった。
ハーゲ王は、魔女が撲滅されたあと、マルケ王の領土を併合する考えでいた。
王にしても、たとえ魔女になったとはいえ、
生まれたときから知るエヴァが拷問によって苦悶に泣き叫ぶ声を聞くに忍びなかった。
王は軍勢を従えて、併合の準備にブラバン城へ向かうのだった。
陰惨な雰囲気を漂わせる拷問部屋へ連れてこられたエヴァは、
あらためてクリングゾの前へ立たされるのだった。
これからひとつひとつの責め具がエヴァの裸身へ試される前に、
まず彼の手で彼女が本物の処女の身体であるかどうかを検査しようというのである。
すでに媚薬の効果が消え始めていたエヴァは、
淫らな責め苦に耐えようとした清廉な心持ちが目覚め始めただけに、
かえって可憐な美しさを増したようにクリングゾには感じられた。
彼にとっては、エヴァのなかに邪悪に染まらない心があるだけ、
憎悪はいや増しに掻き立てられていくのであった。
憎悪の魔術師は黒頭巾の男たちに命じて、
ひとりはエヴァの背後から上半身を抱きかかえるようにさせ、
もうひとりは屈み込んでそのしなやかで美しい両脚を双方へ大きく開くようにさせるのだった。
淫靡な魔術師は片方の手で愛らしく乳首の立っているきれいな乳房を鷲づかみにした。
エヴァが美貌を苦痛に歪めて耐えると、
彼のもう一方の手は両脚を無理やり開かされてあかさまになった、
ふっくらとした金色の柔毛が慎ましく覆うわれめの奥へと忍び込もうとするのだった。
そのときである。
拷問部屋の入口にあらわれた者が叫んだのである。
クリングゾ、あなたの悪行はそれまでです、すぐにエヴァ様を放しなさい。
高貴な美しさにつつまれたクンドラが立っていたのだった。
クンドラは部屋のなかへ入りながら続けた、
聖剣ノートゥンはもうあなたの手もとにはありません、
岩山の洞窟から持ち出して、私がワルター様にお渡しいたしました、
いまごろ、その聖剣にてマルケ王様の傷をなおすべく、
ブラバン城へお着きになっていられるでしょう、
クリングゾ、あなたの悪行はすべて明らかにされたのです、
今こうしている間にも、マルケ王様、ワルター様、そして事情を知ったハーゲ王様が、
軍勢を率いてこちらへ向かわれているはずです。
毅然とした表情で宣告を申し渡すように語るクンドラをクリングゾはにらみつけながら、
すべての真相が明らかとなってしまえば、
捕らえられた自分には死に至るまでの拷問が待っていることは必至だと思うのだった。
邪悪な魔術師は、またしても女によって裏切られた憤怒に、
形相が悪魔そのものへと変化していくのだった。
クンドラは男たちが立っている場所にまで近づいてきて言い放った。
クリングゾ、あなたが憎悪するのはエヴァ様ではなく、エルザ様のはずです。
あなたが媚薬を用いて私を誘惑し罪へ走らせたのも、私がエルザ様に似ていたからです。
エヴァ様にはまったく関係ないことです。
あなたを裏切った私を辱しめなさい。
ただちに、エヴァ様を放しなさい。
憎悪の魔術師のそばまで近づいても恐れひとつ見せないクンドラを見て、
そのような言葉、聞くまでもない、
クリングゾはそう叫ぶと、黒頭巾の男たちに命じてクンドラの衣服をひん剥かせるのだった。
柔肌から強引に衣服を引き裂かれて全裸にさせられたクンドラは、
覚悟した者のようにされるがままにかけられていく荒縄を甘んじているのだった。
彼女は、王様たちの救援が到着するまでの時間稼ぎに自分が犠牲になれば、
エヴァは救われるものと信じているのだった。
しかし、クリングゾは諦めはしなかったのである。
邪悪な魔術師はふたりの全裸の女を前にして、
激烈な憎悪に狂った悪魔の声音で叫ぶのだった。
おれには聖剣などいらない、聖剣などなくても、おれの魔道がおれの悲願を成就させるのだ。
そして、悪魔は断首用の大剣を男たちに持ってこさせた。
その大剣の切っ先と柄の両端を天井から降りている二本の鎖に繋がせた。
悪魔は試しに大剣を床から引き上げさせた。
幅広の長い剣は上向いた刃をきらめかせながら空中へ浮かんだ。
悪魔は満足そうに邪悪な笑い声をあげ呪詛をつぶやきながら、
魔道の真髄である媚薬を刃の上へ塗りたくっていくのだった。
クンドラは聖剣で不能にされたクリングゾの憎悪を知っているだけに、
悪魔の非道なたくらみにはもはや生きた心地はしなかった。
彼女は、せめてエヴァが救われることを祈願して観念するのだった。
エヴァの方は長い間さらされてきたおぞましい羞恥と汚辱から、
かろうじて立っているという状態であった。
それでも、クンドラの言葉を聞かされて、
父上やワルター様が助けに来てくれる希望があればこそ、耐えられると思ったのだ。
用意ができたぞ、さあ、このふたりを剣にまたがせろ、
という悪魔の言葉が室内に響き渡った。
その瞬間、クンドラは縛られた裸身を大きく身悶えさせながら、
違います、違います、私だけです、私だけです、私だけを……
と哀願したが、悪魔はせせら笑うだけでまったく聞く耳を持たなかった。
幅広の長い剣は一度床まで引き下ろされた。
屈強な男たちはふたりの緊縛された裸身を無理やりその場まで引き立てていく。
ふたりは互いの苦悶の表情が見えるように向き合わせてまたがせろ。
男たちはクリングゾに指示されたとおり、
クンドラとエヴァを向かい合わせに立たせ大剣を両脚の間に位置させるのだった。
きびしく縛られている上、力強い男たちに無理やり裸身を押さえつけられて、
ふたりの女は逃げることはおろか、身悶えひとつできなかった。
そのうち、上向いた刃は眠っていた動物が頭をもたげるような具合に、
徐々に彼女たちの足もとからせりあがってくるのだった。
その動きを操作しているクリングゾの表情はもはやひとのかけらさえなかった。
ふたつの絶叫する悲鳴がほぼ同時に部屋を震撼させるほどに響いた。
羞恥の亀裂を割ってしっかりと食い込まされた大剣に、
ふたりの優美な両脚は爪先立ちになって耐えるだけのことしかできなかった。
両足の力をほんのわずかゆるめるだけで、身悶えをほんのわずかさせるだけで、
鋭利な刃に触れている柔らかな肉は引き裂かれいっそう深く食い込んでくるのだった。
だが、それは激烈な苦痛をともなった悩ましい快楽の始まりでもあったのである。
刃に塗られた媚薬が傷ついた柔らかで敏感な肉襞へしみこんでいけば、
たちまちのうちにふたりの美しい裸身は火照りだしてくるのだった。
エヴァもクンドラも込みあがる欲情に必死に抵抗する表情を浮かべてこらえている。
しかし、こらえられる限度が越えられたとき、
欲情を抑えきれなくなったクンドラがきれいな唇を突き出して、
エヴァの可愛らしい唇を求めるのだった。
後ろ手に緊縛された全裸の女がふたり、
鋭い剣の刃をまたがされて向かい合い、
互いの舌をからませながら、互いの官能を高ぶらせている姿がそこにあるのだった。
悪魔はおのれの勝利を確信して薄笑いを浮かべている。
そばにいた黒頭巾の男たちも、
眼の前で行なわれている美しい女たちの淫らな姿に、
そり上がったままでやり場のないもどかしさを感じているように落ち着かなかった。
すでに相手の柔らかな舌だけでは満足できないとばかりに、
クンドラは無理な姿勢でエヴァの可憐な乳首を求めようとしていた。
彼女は完全に淫欲に翻弄されている状態だったのである。
しかし、クンドラは最後の心をふりしぼったのだった。
彼女は突然目覚めたように顔を起こすと、
エヴァを優しい表情でじっと見つめながら言うのだった。
負けてはだめですよ、ごめんなさい、私を許してくださいね。
そして、絶命していった。
エヴァは思わず、お母さま、と叫んでいた。
ついに勝利をえた悪魔の下卑た哄笑が室内を聾せんばかりに続いている。
エヴァは情欲を振り払うように毅然とした表情になると、
残虐で淫らな責め苦を絶対に耐え抜こうと決心していた。
気ちがいじみた笑いがおさまったとき、悪魔が目の当たりにしたのは、
エヴァが清廉さそのものの美しさで魔道を耐え続けている姿だったのである。
媚薬の力が及ばない相手がいることに憤怒した悪魔は、
黒頭巾の男たちに最後の責め具の用意をしろと狂った金切り声で命じるのだった。
マルケ王やワルターそれにハーゲ王がワルトブル城へ到着したとき、
拷問部屋はひっそりと静まり返っていた。
エヴァとクンドラの生きていることに希望を託して、懸命に駆けつけたのだったが……
彼らが見たものは、クンドラの亡骸と十字架にかけられているエヴァの姿だった。
エヴァは一糸まとわぬ全裸姿のまま、
両手を左右に大きく開かされ釘で打ち付けられ、身体を縦へ真っ直ぐ伸ばされていた。
その股間には十字架に突き刺さった大剣の刃をまたがされているのだった。
地面に両脚がつかないだけに肉体の重みが、
柔毛の茂るわれめ深くへ無残にも大剣を食い込ませているのであった。
このような残虐非道な振舞いが人間の手で行なわれてよいものなのだろうか。
その場にいた者たちは深く涙するのだった。
しかし、可憐なエヴァの顔立ちは何という清廉な美しさに満ちていたことだろう。
その法悦とした表情はこうごうしいまでの輝きをはなっていたのである。
聖なる官能の姿が悪魔に勝利したあかしには、
高々と掲げられた十字架の足もとに、
クリングゾとふたりの黒頭巾の男たちが死んでいたのである。
彼らは素っ裸になって、死ぬまで自慰を行ない続けて果てた姿だった。
水分の放出され切った裸身は醜くひからびてさえいるのだった。
エヴァの清廉な心の法悦が邪悪な魔道に打ち勝って悪行を滅ぼしたのである。
見れば、彼女の白い胸元にある”E”のペンダントが、
”ETERNAL(永遠)”を意味するイニシャルに燦然と輝いているではないか。
永遠のエヴァ……
永遠のE……
E……











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