悩ましい夢 5 辺鄙な山奥の旅館 借金返済で弁護士に相談








< 辺鄙な山奥の旅館 >



隆行と綾子の話
これは、よくある男女の道行きの話としては、日本の伝統的な主題で
惚れた女が男に付いていきたいがために、ロープを使って亭主の寝首を掻いた
辺鄙な山奥の旅館まで、ふたりは、はるばると駆け落ちしてきたが
女は、殺害の自責の念から、三角木馬へ跨って死ぬことを選んだ
男の方は、殺害の事情を知らないままに
失ったことが初めて、女に対する心からの愛を目覚めさせて
後追いの自殺をさせた
という心中物語となることが、実は、初稿の結末であった

ところが、女は、気絶していただけで、死んではいなかったとなると
事態は、このようにもなることだ、と考えさせられた

<みどり旅館>の土蔵の地下室で発見された
身元不明の若い男の全裸死体に対する警察の見解は
旅館の主人の大島、及び、仲居の三人の女性から事情聴取をした結果
次のような結論へ至らせたことだった――
男の死体とそばにいた女の第一発見者は
長野市で行なわれた旅館組合の総会から戻った主人の大島で
発見は、死亡推定時刻から、八時間後であった
土蔵造りの地下室は、大島が写真撮影用に作ったもので
雑誌や好事家の求めに応じて
仲居をモデルにして製作するための舞台装置だった
大島は、外出する直前、その場所へ無断で入り込んだふたりと遭遇して
相手の無礼を戒めるために、三角木馬の不気味な話をしたとのことである
それというのも、男の方が木馬に異常な関心を示していて
その道の玄人からすれば
素人が安易に手を出すと、危険極まりないことになる
実際、男は変死して、女の方は記憶喪失
という憂き目に出た結果となってしまった、まことに遺憾なことであり
木馬の所有者として、責任を痛感していると表明している
この点から、男には、性的異常心理学における
サディズム・マゾヒズムの性癖があった、と考えられることは
女は、発見されたとき、全裸を麻縄で緊縛されていたことにある
縄で女を縛る行為を性的に愉しむのは、サディズム・マゾヒズムであれば
大島の供述では、発見したとき
男は、首へ巻き付けた縄で吊り上っていて、その縄は、天井の滑車を通して
床へ横たわっていた女へと繋がれていた、男の方は、すでに死亡していたが
女の方は無事だったので、縄を解いて介抱した、ということが裏付けとなる
女は、置かれた状況から極度の衝撃を受けていて
現在、記憶喪失の状態にあるために、立証を取ることはできないが
女の身体には、股間に裂傷があり、上半身に打撲の痕があることから
当該の器具へ跨がされた後、そこから落ちた経緯であることは、明らかである
男の死因は、巻き付けた縄による窒息死であるが
巻き付けたのが本人自身であるのか
或いは、第三者によるものかは、確認できないが
男は、女と同様に全裸の姿にあり、浴衣も下着も脱ぎ捨てられた形跡から
みずから巻き付けたという可能性は高く
男が吊り上げられて射精していた事実を考慮すると
自身で巻き付けた縄で、女が床へ落ちたと同時に
その縄へ繋がれた男が吊り上げられたと見ることは、充分に可能なことである
男に性的異常の心理があれば、充分に考えられる状況である
ほかに、男の自殺の動機などが認められないことであれば
男の死は、女との性的異常心理行為による事故死、と見なすことが妥当である
男と女の関係、及び、ふたりがどうしてこのような辺鄙な山奥の旅館へ
東京からわざわざ来たことのいきさつについては
男と女に身元を明らかとさせる所持品がまったくないことで
調査の時間を待たなければならない課題として残ることが結論となる

綾子は、長野市の病院へ入院させられたが
身元が依然として不明であったことから
大島が、責任を痛感して
身元引受人を申し出て、付き添いの看護にあたった
記憶喪失は、恐らく、一時的なものであろう、という医師の判断で
身体の回復した綾子は、退院のために
大島が迎えに来た車へ乗るのであった
車が走り出して間もなく、大島がぽつりと言った
「すべて、予定通りにいったということかな」
その言葉に対して、綾子は、相手を見やると
小さくうなずいて答えるのだった
「大島様には、心から、感謝を感じております
一度死んだ私を蘇らせて
生まれ変わらせて戴けたのですから……
あのとき、私が気が付いたとき
彼は、すでに、首を吊って死んでいるのがわかりました
私は、彼の後を追って、死にたい思いでいっぱいでした
しかし、縄で縛り上げられた身体は、私の自由にはさせないことでした
そこへ大島様があらわれて、私の縄を解いて
私が死にたいという思いを半狂乱で語ったことに対して
救いの手を差し伸べられたのです
私たちは、両親の離婚で、幼いときに離れ離れにさせられた、兄と妹でした
その間柄をまったく知らずに、再会したふたりは、恋に落ちたのでした
結ばれてしまったふたりに、真実が知らされるときがやってきても
私は、彼をひとりの男性としか思えませんでしたし、彼も、同様でした
ふたりは、結婚の約束までしていましたが、現実には、不可能なことでした
私たちの素性を知られていない場所で暮らしていくしかないことでした
私たちの両親は、ともに再婚はしていましたが
子供に対しては、まったく冷たい親たちでした
私たちは、最初から、生まれてこなかった方がよかったのかもしれません
しかし、結ばれあった私たちは
ふたりで作る未来にこそ、私たちが生まれてきた理由があると信じたのです
ふたりで、駆け落ちを決意して、ここまでやって来たのでした
そして、私たちにとっては、互いの思いを確かめ合う行為であったとしても
彼があのような悲惨な最期を迎えてしまったことは
残酷な運命としか言いようのないことでした
さらに、警察沙汰となれば
私たちのすべてが明るみに晒されるということでしかありませんでした
世の中のひとは、何とふしだらな兄妹だと非難を向けることでしょう
私には、死ぬ道しか、残っていなかったのです
それを、大島様は、さらに生きようという思いがあるのなら
生まれ変われとおっしゃられ
ご自分が身元引受人となるから、私に記憶喪失を装って
あった所持品をすべて処分することで、身元不明者にして戴いたのでした
どうして、見ず知らずの私に、そこまでして戴けるのか、と尋ねれば
亡くなったみどりと瓜二つのあなたは、よみがえりだと言われたのです
そうです、私は、気が付きました
私は、死ぬわけには、いかないのです
私は、彼の赤ちゃんをみごもっているかも知れないからです
私は、生まれてくる子供の親として、子供は掛け替えのない
彼と私の子として、育てていかなければならないからです
私は、心から、大島様に感謝しております
私は、生きます」
話し終えると、深い安堵に満たされたように
綾子は、座席へ身体を沈めるのだった
国道から県道へ入り、名もない道路へ至る頃には
大島の運転する車は、くねくねと曲がる山道をゆっくりと昇っていたが
前方へ注意を払わなければ、危険と隣り合わせといったガードレールのない小道は
すれ違う車もなく、自転車に乗るひともなく、歩く通行人さえなかった
眼に染みるような美しいばかりの緑だけが周囲を覆い尽くして
それを助手席に座りながら、窓越しにじっと眺め続けている綾子の顔立ちさえも
緑色に染め抜いているかのようだった
ふたりは、言葉を交わすこともなく、ひたすら、目的地へと向かい続けていたが
やがてたどり着いた、立派な門構えの木造の旅館であった
<みどり旅館>という木彫りの看板は、旅館の由緒をあらわすように
深い色艶を放って、客人を待ち受けていた
綺麗に砂利の敷かれた玄関脇の空き地へ車を停車させると
大島は、綾子の手を取って、玄関へ向かった
ふたりが開け放たれた大きなガラス戸をなかへ入ると
出迎えたのは、年齢が三十歳くらいの白い割烹着姿の女性であった
「旦那様、お帰りなさいませ
奥様、お帰りなさいませ」
ふくよかな色っぽい仲居の須磨子は、微笑を浮かべながら
大島とその脇へ立つ綾子へ挨拶した
大島は、白髪頭に眼鏡という顔付きに、相変わらずの真顔でいたが
綾子は、美しい顔立ちを幾らか緊張させながら、軽い会釈を交わした
須磨子の元気な声音に、奥の方から
細面の端正な容姿の多貴子
愛くるしい美貌を溌剌とさせた百合子がやってきた
仲居たちは、玄関を上がる綾子を取り囲むようにして
奥様、ご結婚、おめでとうございます
と心からの歓迎の意をあらわすのであった
綾子も、笑みを浮かばせて、顔立ちをほんのりと赤らめていた
年長の貫禄で、多貴子が申し述べた
「みどり奥様は、今日から
この旅館の女将でいらっしゃるのですから
そのお洋服は、私が着物に着付け直してさしあげます
さあ、いらしてください」
多貴子を先頭に、みどり奥様が続き、須磨子と百合子が従って
四人は、奥の間へと向かっていったが
大島は、眼を細めた様子で、その後姿を見送るばかりであった

それから、八ヶ月が過ぎた、或る晩のことであった
春の冴え冴えとした月明かりが美しい晩だった
蒼白い光に照らし出されて、緑の植え込みも、銀を散らしたようにきらめいていた
大きな池の穏やかな水面も、鏡のようになって、嬌艶の月を映し出せていた
みどりは、魅せられたように、窓辺から、煌々とした満月と庭園を眺めていたが
大島が部屋へ入ってくるのに気が付くと
窓を閉めて、ぴたりとカーテンを閉ざすのであった
「話とは、何だね
今晩は、撮影の仕事もないから、ゆっくり、聞くことができるよ」
座布団へ腰掛けた大島の前には、酒と肴の用意がされていた
大島は、ありがたいという表情を浮かべて、徳利へ手を差し伸べようとしたとき
「そんな、私に、お酌をさせてください」
と遮って、みどりが大きなお腹を大儀そうにしながら
大島の脇へ腰掛けるのだった
白髪に眼鏡の還暦を迎えた男は、真顔に微かな笑みをもらさせながら
妻のほっそりとした白い手が掲げる徳利から、杯を受け始めた
大島とみどりは、夫婦であるといっても、戸籍上のことでしかなかった
みどりが子供を孕んでいることがわかったとき、旅館に後継者のない彼は
彼女と正式に婚姻届を出して、すべてを譲る決心をしたのだった
しかし、それだからといって、彼が彼女に要求したことは、何もなかった
みどりは、身籠った子供を気遣いながら、日々、女将の仕事の習得に励んだが
夫婦の寝所は、別の部屋であり、それは、大島が望んだことで
彼にとっても、生き甲斐である、撮影の不規則な仕事のためでもあったことだった
今夜は、めずらしく、夫婦水入らずの時間を過ごしているということであったが
大島とみどりは、年齢が三十六も離れては
父と娘という雰囲気さえあることだった
その妻であり、かつての恋人のよみがえりであり、娘のようなみどりの顔立ちを
大島は、じっと見つめながら、杯を重ねていた
みどりも、妊娠した体型でありながら、楚々として着付けた着物姿に
結い上げた艶やかな黒髪と清楚な化粧がされた美しい顔立ちを向けて
妻の艶麗な恭順を滲ませようと振舞っている様子だった
「ところで、折り入っての話とは何だね」
大島は、酔いのまわり始めた顔付きで尋ねた
みどりは、少しためらった仕草を見せたが、話し始めた
「私は、あなた様に、本当に感謝しています
あなた様がおいでにならなければ、いまの私は、なかったことです
私の生まれてくる子供にも、将来はなかったことです
亡くなった彼も、心から喜んでいるはずのことです
けれど、私は、あなた様に、何もして差し上げられません
妻でありながら、妻らしいことも、何ひとつできません」
大島は、大きく手を振って、遮った
「そんなことは、あなたの気遣うことではない
最初に言ったはずだ、あなたさえそこにいてくれれば
私に、それ以上の望むものなど、ないと」
と言い放ったが、みどりは、小さく首を振りながら
「いいえ、私があなた様のみどりであるならば
私は、みどりのよみがえりとして
あなた様にして差し上げられることがあるはずです
あなた様が生き甲斐としていることに……
みどりとして、お役に立てることが」
と答えると、妊婦である大儀を抑えながら、立ち上がるのだった
それから、帯紐へほっそりとした指先を掛けると、解き始めた
「私も、妊婦の安定期に入っています
少々のことでは、胎児に影響の出ることはありません
今日、これまでの私の感謝の気持ちです
どうか、私を亡くなられたみどり様と思われて
よみがえりの私に、縄掛けをなさってください」
着物の着付けの上達したことが装いとしてあらわされることだとしたら
着物を脱ぐ手際の良さは、着付けの上手さが示されていることだというように
みどりは、帯を解き外し、着物を両肩からすべり落とさせ
長襦袢を取り去ると、あっという間に、肌襦袢と湯文字の姿になっていた
それから、寝所となっている、隣の部屋の襖を開くと
そこへ敷かれた夜具と添えられた麻縄の束を明らかとさせたのだった
白髪の還暦の男は、驚くばかりか、余りのことに、狼狽さえしていた
「では、みどりは……
あなた様がおいでになるのをお待ちしております」
そのように言い残して
部屋を立ち去っていく相手を……
寝所へ入ると、静かに閉められていく襖を……
大島は、ただ、茫然となって、見つめ続けるばかりだった
生まれたままの全裸の姿にある女を縄で縛り上げる
そのようなことは、日常茶飯事のように、行ってきたことだった
縄で緊縛された全裸の女を立った姿勢で太柱へ繋いで、羞恥の晒しものとさせる
格子の牢舎へ入れて、後ろ手胸縄を施した全裸の女に、仕置きの正座をさせる
天井の滑車から、緊縛の裸身を宙吊りとさせて、屈辱の姿態をさらけ出させる
生まれたままの全裸の姿で、三角木馬へ跨がせて、苦悶へ舞い上がらせる
縄による緊縛表現の醍醐味として
これまでに、どれだけ撮影してきたことであるか
新たな緊縛の情景は
以前の表現を上まわる仕上がりにするための毎度の努力であった
麻縄による縄掛けは、生涯の探究であり、生き甲斐であった
それを心底愛する女へ、施せと言うのか
縄掛けは、愛するみどりが亡くなったことで、獲得した表現手段だった
それを、いま、みどりにしろと言うのか
大島は、驚愕と狼狽と困惑で、酒の酔いも吹き飛んでしまう思いだった
しかし、彼の騒ぐ思いをよそに
寝所は、ひとの気配は、感じられるものの、静かだった
それは、一念の思いをあらわした女が待ち続けている
という風情を漂わせていた
<興趣>なくして、日本の芸術表現は、あり得ない
これが大島の信条であった
<興趣>は、遊び心が昇華させる、美のありようである
女の生まれたままの全裸の姿態は、菩薩の叡智にも等しい、美しさである
その美しさは、縄掛けという<興趣>よって
そうされることがなければ、決してあらわれることのない、<妖美>を現出させる
この<妖美>は、<縄による結び>の思想が縄文時代よりのものであれば
日本民族が固有に表現することのできる、純粋なる美であって
そのありようを西洋の性的異常心理の学術的解釈へ準じさせたところで
込み入らされた、出所不明の、意味の不可解なものとなることは、当然であり
縄による緊縛は、つまりは、単なる、SMの性表現のひとつということに過ぎず
猥褻に終始するだけのものとされてしまう……
いや、そうではない
と大きくうなずくと、大島は、立ち上がっていた
それから、寝所の襖を静かに開いた
真っ白な敷布の敷かれた柔らかな布団の上に
みどりは、生まれたままの全裸をきちんと正座させた膝へ、両手を重ねて置き
美しい顔立ちに緊張した思いを滲ませて、不動の姿勢を続けていた
大きく孕ませた白い腹の姿態にあっては、窮屈とさえ見える姿勢であったが
その雪白の柔肌の放つ冴え冴えとした艶かしさは
その全裸の美しさから、叡智を受けない方が不思議だ、と思わせるものがあった
彼女の間近まで近づいた、大島が行うことは
その叡智なくして、あり得ないことだった
彼は、女のそばへ供えられるように置かれた、麻縄の束を取り上げた
そして、相手のほっそりとした両腕を背後へまわさせると
双方の華奢な手首を重ね合わさせて、縛り上げていった
みどりは、されるがままになることに努めていたが
後ろ手に縛った縄の残りが身体の前へまわされて
桃色の乳首と乳輪は、幾らか黒ずんだ色合いを帯びてはいたものの
ひとまわり大きくなったとさえ映らせる、ふたつの乳房の瑞々しさはそのままで
その上部へ掛けられていく麻縄に、彼女のまなざしは、緊張を漂わせていた
胸の上部へ幾重にも巻き付けられた縄が背中で縄留めされると
さらに、一本をふた筋とされた縄が背後へ結ばれて、今度は
ふたつの乳房の下部へまわされていったが、ほっそりとした両腕を固定されると
女の美しい顔立ちは、すでに、全裸の姿となって、感じさせられていた羞恥を
研ぎ澄まされていく緊張を逆撫でされるように、戸惑いとしてあらわさせるのだった
下部へ掛けられた胸縄は、双方の腋の下から絡げられて、背後へと持っていかれ
後ろ手と胸縄は、自由を奪われた心持ちへと、一気に誘われていくことだった
みどりは、大島の縄掛けが少しも痛くなく、苦しくもないことに
柔肌を圧迫してくる麻縄のごわごわした荒々しさが
むしろ、抱擁でもされているように
全裸を温かなもので包まれていくように感じさせられていた
大島の縄は、休むことなく
新たに、背後へ繋いだ麻縄をほっそりとした首筋で分けて
身体の前まで持ってこさせると、上下の胸縄へと結ばれていった
こうされたことで、突き出すようにあった、ふたつの豊満な乳房は
恥ずかしいくらいに、せり出させられる格好となり
みどりも、羞恥から上気させていた、美しい顔立ちをさらに赤らめるのであった
そこで、大島は、後ろ手に縛り上げた、相手の縄尻を取って
立ち上がるように促したが、大きな孕み腹の女にとっては
ただでさえ、身動きに大儀をあらわすという状態にあって
男のしっかりとした支えなくして、身動きは、できない相談だった
みどりにとっては、大島に抱きかかえられて、立ち上がらせられる身上は
その温かな縄の抱擁にあって、嬉しさを感じさせられるばかりのことだった
大島は、立たせた妊婦の正面へ位置すると
縦に降ろさせた縄の残りを取って、突き出した白い孕み腹へ這わせながら
下腹まで持っていくのだった、そこで、縄に結び目が作られ
余った縄は、漆黒の和毛がふっくらとした美麗な靄となって覆い隠す
女の割れめへともぐらされていった
麻縄は、品良くふくらんだ、白い尻の艶かしい亀裂からたくし出され
手首を縛った縄へ留められていったが、股間の縄掛けを感じさせられると
みどりも、さすがに、尋常ではない、という思いを強烈に意識させられて
一点を見つめさせていた、まなざしをさまよわせるのだった
だが、それで終わりではなかった
尻の亀裂から手首への縦縄へ、さらに、縄頭が結ばれると
左右へふたつに分けられて、身体の前へと持ってこられ
胸から下腹へ降ろされていた、ふた筋の縄の左右へ絡められて
再び、背後へと引かれていったのだった
それによって、白い孕み腹の上には、大きな菱形の文様が見事に浮き上がったが
その張力が股間へもぐらされた縄を強く緊張させ始めたことは
慎ましく閉じ合わせていた、女の美しい唇を開き加減とさせて
あん、という甘い声音をもらさせたことであらわさせた
背後へ引かれた縄は、背中の縦縄へ絡ませられると
再び、ふくらんだ腹の菱縄へ絡げられてを繰り返されて
背後へ織り成される縄の文様が生まれる頃には
突き出させた白い孕み腹をあらわとさせる、縄の大環が出来上がっているのだった
それは、妊婦の姿にある女でなければ、施されることのあり得ない縄の意匠だった
女の美しい姿態に浮き上がった、妖艶な縄化粧に
大島は、うなずきながら、眺めやっていたが
みどりは、妊婦の全裸を晒し
その姿態を強調される縄掛けを施されたみずからの姿
それをまじまじと見つめられることの羞恥だけでは、もはや、収まらなかった
突き出させた腹に浮き出た、縄の大環が浮かび上がったときには
股間へもぐらされた麻縄は、女の割れめへ、深々と沈み込むまでになっていて
敏感な女芽、柔らかな羞恥の唇、繊細な肉の膣、小用の口、肛門
といった鋭敏な触感のすべてが刺激されて
その疼かされる官能は、それが羞恥と感じさせられることだけに
激しく高ぶらされていくものとしてあったのだ
その悩ましい官能の快いくらいの高ぶりは
大島がみどりに望んだことだとしたら
みどりは、大島の望むままの女となることを本望とさせることだった
縄尻を取った大島は、妊婦の緊縛の裸身を床の間まで
引き立てるようにして歩ませていった
されるがままのみどりは、そこにある床柱を背にして立たされると
美しい晒しものとなって鑑賞されるために、繋がれていった
女の前へどっかと腰を下ろした、大島は
しげしげと眺め始めていた

人間が縄で縛られるありさま、それは、酷いことに違いない
生まれたままの全裸に晒されて、縛られることであれば
その畜生同然のありさまは、万物の霊長であることからすれば、言語道断なことだ
縄で縛られるありさまは、陵辱を目的とした拘束である、ということであれば
確かに、その通りのことである
人間を縄で縛る、ということがすでに人間性を陵辱していることであるのだから
縄で縛られるありさま以外の人間性など、あり得ないことである
だが、それをあり得るとさせることが、日本民族の縄による緊縛である
それを西洋の性的異常心理の学術的解釈へ準じさせたところで
明確な意味としてあらわれない理由は
縄で緊縛されるありさまにおける、<妖美>の論証が欠落していることにある
縄による緊縛を陵辱を目的とした拘束とするだけのことならば
その学術的解釈は、加虐・被虐の心理や行動として見る必要はない
陵辱は、暴力のある性行動ということに過ぎないからである
陵辱を結ばせない、縄による緊縛
そのありようにおいては、性行動ではあり得ても、暴力は希薄となる
暴力に代わって、浮かび上がるのが、<妖美>である
陵辱を表現しない、縄による緊縛ということが可能であることが
<妖美>を表現できる、日本民族の縄による緊縛、ということである
その<妖美>は
人間にある、性的官能が四六時中活動している感覚であって
その最高潮の快感が求められることで、あらわされるものである
女は、生まれたままの全裸に晒されている
そればかりではない、女には、女をあらわさせる縄掛けが施されている
しかも、女は、白い孕み腹を突き出させた、妊婦である
縄による緊縛を施された、全裸の妊婦が柱へ繋がれて、晒しものとなった姿
その姿に、<妖美>が感じられるとすれば
それは、<妖美>を感じる者へ、性的官能の高揚をもたらしていることであり
<妖美>をあらわす存在に、性的官能の高揚がもたらされていることである
<妖美>の認識は、性的官能の高揚なくしては、あり得ないことである
女は、羞恥、屈辱、嫌悪、哀愁、悲哀、悲嘆、愉悦、歓喜、法悦
思いにある情動を総動員させて
もたらされた性的官能を最高潮へと向かわせる
一度、火のつけられた官能は、掻き立てられ、煽り立てられ、燃え上がって
最高潮へ到達するまで、向かわせられることでしかないからである
最高潮こそが、人間が整合性的に認識を得たことに
喜びの快感を感ずることだからである
人間の皮膚感覚は、圧迫されるだけで、性的官能を高揚させる
それが刺激に敏感な箇所へ、加えられる圧迫であれば、尚更である
人間は、素肌を縄で縛られただけで、性的官能を高ぶらさせる、ということである
加虐・被虐など必要としなくても、縄による緊縛は、官能を高ぶらさせるのである
割れめへ深々と沈み込むまでにもぐらされた股縄によって
突き上げられ始めた官能の快感をこらえ切れないというように
艶やかな太腿をうごめかせ、悶え始めさせていることは
女に掛けられた縄掛けに、<妖美>があらわされていることだとしたら
女がみずからその喜びの快感を感じることなしには
あらわれることではないのである
日本民族の縄による緊縛が性的異常心理の学術へ準じる必要のない理由は
それが陵辱を目的としないありようにおいて
<妖美>があらわせるということにある
というこの事実においてである
大島は
美しい顔立ちをしたみどり
美しい姿態を艶かしい妊婦姿とさせたみどり
その艶麗を縄による緊縛姿として、<妖美>をあらわさせるみどりは
その抱く誠実な心にあってこそ、そのあらわれがあるものだ
と思わざるを得なかった
そして……
それこそは、みどりの放つ<妖美>へ誘われることだった

そこには、無事、男の子を出産したみどりがいた
みどりが生まれたままの全裸の姿で、座敷へ敷かれた布団へ横たわって
生まれたばかりの赤子に、乳をふくませようとしているのだった
だが、赤子がややもすると乳首を口から離してしまうのは
みどりにとっては、もどかしいばかりのことだった
それもそのはずで、みどりは、後ろ手に縄で縛られていたために
子供を抱くことができなかった、いや、そればかりではなかった
みどりの美しい全裸の姿態には、縄が織り成す菱形の文様が施されていたのだ
縄頭をほっそりとした首筋へ掛けられ、身体の正面へ縦縄とされたふた筋の縄は
等間隔に幾つもの結び目を作られて、股間まで一気に降ろされると
小さな丘をふっくらと慎ましく覆う漆黒の繊毛を分け入って
女の割れめ深くへともぐり込まされた
縄の結び目のひとつが羞恥の唇が挟み込むように整えられ
美麗にふくらむ尻の妖艶な亀裂からたくし上げられて
うなじにある最初の縄頭へ掛けられた
それから、背後の縦縄へ、新たな縄が結ばれると、左右へと振り分けられて
前へと持ってこられ、縦縄の結び目と結び目の間へ絡げられてから
背後へ引かれると、菱形の文様が浮かび上がった
更なる縄が使われて、縦縄のすべてに施されると
女の姿態は、首元から股間まで、目も綾な菱形の文様に彩られる姿となった
うなじにある縄頭へ掛けられたままの縦縄で、後ろ手に縛られれば
女は、亀甲縛りと呼ばれる、縄の美しい菱形化粧を施された
<妖美>をあらわす生き物に変容するのだった
綺麗なふたつの乳房のふくらみを強調させる菱形
腰付きの優美な曲線を際立たせる菱形
可憐な臍を引き立てる菱形
そして、姿態を彩る菱形の張力のすべてを集中させられたように
慎ましやかな漆黒の恥毛へ、割れめも鮮やかに、埋没をあらわとさせる菱形
その亀甲縛りの緊縛姿で、母は、赤子の間近へ添い寝をしていたが
余りにも頼りない幼子では、言葉にならない小さな声をあげながら
手足をばたばたと動かして、求めることがせいぜいで
賢明に身体を突き出させて、ふくませようとする乳首は、吸われないばかりであった
みどりは、それがどうしようもなく、ただ、もどかしいばかりであったのは
麻縄で柔肌を圧迫されている感触が高ぶらせる官能が
女の羞恥の唇を割ってもぐらされた結び目によって
女芽や菊門までもが刺激され続けていることから
ますます、燃え立たせられていくことは
悩ましいばかりのことでしかなかったからだった
せめて、わが子が欲情で立ち上がった乳首を含んでくれたら
その思いは、緊縛の裸身をうねらせ、くねらせ、身悶えさせるばかりのことだった

みどりのわが子に対する思いは、並々ではなかった
その子が亡き彼の忘れ形見の男子であればこそ、尚更であった
母は、子に繋がれる、美しい女であった
夏の燦燦とした太陽が青空にくっきりと照らし出される、爽やかな朝だった
まばゆい光の降り注ぐ、緑の植え込みも、鮮やかな色彩を放ってきらめいていた
大きな池の穏やかな水面も、初夏のすがすがしい、水気を映し出せていた
三歳になったばかりのわが子は、いまだ足取りもたどたどしく
庭園を歩きまわっていたが、それを追いかける母親も、容易ではなかった
わが子が小さな手にしっかりと握り締めた縄尻は
みどりのほっそりとした首筋へ環にして掛けられ、繋がれていた
幼子の思いのままに歩きまわる仕草に従わされて
優美な全裸姿をさらけ出させた母は、おろおろさせられるばかりであったが
その姿のあらわす<妖美>は、麻縄の縄掛けが生じさせているものであった
華奢な両手首を後ろ手に縛られ、その縄をほっそりとした首筋を分けて
身体の正面へ持ってこられると、首元で結び目を作られた
そこから、左右へ振り分けられた縄を腋の下へ通されて
背後の縦縄へ結ばれる、残りの縄が再び前へ持ってこられ
ふたつの綺麗な乳房の下部へ巻き付けられながら、背後で縄留めされる
新たな縄が優美な曲線を描く腰付きへ巻かれ
くびれが際立つように締め込まれると、背後で結び目を作られる
そこから、左右へ振り分けられた縄を前へ持ってこられると
股間へ向けて這わせられ、合わされたふた筋の縄に作られる結び目は
ふっくらとしている小丘へのぞかせた割れめの縁へ押し当てられる
もぐらされていく縄は、敏感な女を如実とさせるためのものとして、食い込まされて
美麗な隆起をあらわす尻の悩ましい亀裂からたくし出されると
そこから、左右へ振り分けられ、腰付きへ巻かれて、縄留めされた
可憐な乳首をつけた、ふたつの綺麗な乳房は、自然なままに
艶やかな太腿の付け根にある
漆黒の美しい靄に慎ましく隠された女の割れめは、如実にされていたが
身悶えさせられるように、おろおろとうごめかす優美な姿態にあって
艶かしい白い尻の深く悩ましい亀裂から這い上がっている縄は
<妖美>であった
首縄を引かれ、わが子に従わされていく先には
窓のまったくないという、風変わりな平屋造りの土蔵が見えていた

ひとりでままならなかった子供も、小学校三年ともなれば、やんちゃの盛りである
母も、仕方なく、躾のためにと
息子の悪戯には、お仕置きをしなければならないことである
風変わりな平屋造りの土蔵の地下室には、木の格子で出来た小さな牢舎があった
お仕置きのために、そこへ入れることは
辛いことではあったが、やむを得ないことだった
広い地下室の片隅へ、木製の頑丈な木枠で作られた牢舎は
ひとっこひとりいない静寂にあって
閉じ込められた者へ、強い孤独感を強いるものがあった
ひとりにさせられたときの孤独、それは、人類の創始以来
人間が集団を生きることこそに、生きることの意味があるとして
育てられてきた生き物であるだけに
ましてや、思いを寄せる相手によって、見放された扱いに晒されることであれば
それほどの絶望はないとさえ思わせることだった
みどりは、一糸も着けさせられない、生まれたままの全裸の姿で
木の格子に囲まれた狭い場所へ入れられていた
学校へ出迎えに行く時間に大幅に遅れて、寒々とした雨の降りしきるなか
わが子をひとりぽつねんとさせて、孤独の寂しさにすすり泣きさせた、罰だった
母にも、言い分はあった、女将の仕事で忙しかったのだ、だが、大人の言い訳は
子供の孤独の寂寥を身をもって思い知ることが等価の意味でしかなかった
母は、恥ずかしい全裸の姿にいさせられたばかりではなかった
お仕置きであれば、当然のことのように、縄で縛られていたのだ
ほっそりとした両手首を重ね合わされて縛られ
その縄を下へ降ろされて、艶かしい尻の妖艶な亀裂へもぐり込まされると
艶やかな漆黒が夢幻の彩りで覆い隠す、女の割れめ
それは、いま、羞恥を奪い取られるという仕置きに晒されて、これ見よがしに
女の妖しい美しさをあからさまとさせている、くっきりとした切れ込みへ
埋没するくらいに深々とはめ込まれてから、上の方へと引き上げられた
ほっそりとした首筋までいくと、分けて背後へ降ろされ、手首で縄留めがされた
単純な縄掛けであったが、後ろ手を動かせば、上にも下にも張力が働いて
女の羞恥の割れめが責められる、という状況が作られていた
みどりは、床へきちんと正座し続けることを強いられたのであった
それは、わが子がすすり泣いて、母を待ち続けた
同じ時間に至るまでのことだった
そのときが来れば、息子があらわれ、牢舎の扉を開け、縛めを解いてくれる
それまでは、高ぶらされる官能の責め苦に晒されることであっても
行儀良く、約束に厳しく、端正な母に努めるべきことが身上であったが
つんと立ち上げたふたつの愛らしい乳首のありさまは、隠せなかった
閉じ合わせた艶やか太腿が隠すようにはさせていても
もれ出させた女の花蜜が床を濡らしていることは、明らかなことだった
やがて、あらわれた息子に、そのありさまを見られたとき
それが子供の考えに及ぶことではないとしたら
それは、女の<妖美>のあらわれである、と言えることだった

ただ、あどけないだけであった、わが子も、中学生ともなれば
好むと好まないに関わらず、思いも、身体も、大人と子供の境界へ立たされる
それまでは、ただ、心優しい母というだけの存在が
艶やかな黒髪に、清楚な美しい顔立ちをした、着物姿も優美な女性として映る
息子に見つめられるまなざしに、みどりが、どきっ、とさせられたことだった
それは、女性を強く意識する、男性のまなざしであることは
息子も、みずからの成育した身体以上に
女性の身体に興味を抱く、始まりでもあった
優美な着物姿にある母は
真剣な表情をその美しい顔立ちに浮かばせながら
帯紐へほっそりとした白い指先を掛けるのだった
それから、それを解くと床へ落とし、帯を解きにかかっていた
するすると外されていく帯が床へ落ちていけば
指先は、伊達巻へ掛けられて解かれる
着物の裾前が大きく割れて、のぞかせる長襦袢の艶かしさに
息子のまなざしは、奪われるばかりとなるが
母は、こちらへ背を向けさせて、両肩から、すべり落とさせていった
足元へ脱ぎ捨てられた衣装は、まるで、花に埋もれているようで
帯紐の解かれた純白の長襦袢が両肩から落とされていくと
肌襦袢と湯文字だけの姿に、女の色香がふくいくと漂うのであった
母は、躊躇なく、肌襦袢を脱ぎ去り
腰付きへ巻いた最後の衣装も、取り去っていくのであったが
あらわさせた、雪白のなめらかな素肌の輝きは
土蔵の地下室に、ぱっと華やかな照明がともされたようであり
こちらを向かせた母の生まれたままの全裸の姿は
うずたかく積まれた色とりどりの花々のなかに立って
成熟した女の色香を
息を詰まらせるような芳香で匂い立たせる、美しさであった
綺麗に結い上げた艶やかな黒髪に、目鼻立ちのはっきりした清楚で麗しい顔立ち
ほっそりとした首筋から、柔和な撫で肩へ至り、腕から指先までしなやかな線
綺麗な隆起をあらわす、ふたつの乳房は、愛らしい乳首をつけて
際立たせる女の優美を、形のよい臍のある腰付きの曲線が
すらりと伸びた美しい両脚の足先まで至らせているのだった
だが、何よりも、息子のまなざしが奪われたのは
閉じあわされた艶やかな太腿の付け根にのぞかせる
覆い隠す漆黒の和毛がすっかり奪い去られ、女であることが如実とされた
ふっくらと盛り上がる小さな丘に、深々とした妖艶な亀裂のある箇所だった
いつまで、見つめていても、見飽きない、女の姿態の美しさであれば
母は、後ろ手にされて、麻縄で縛られた
それから、三本立つ、白木の太柱の中央へ
柱を背にさせられて、立った姿勢で繋がれるのであった
そうして晒された、みどりは
息子から見つめられる羞恥に、美しい顔立ちを火照らせ
艶やかな太腿を閉じ合わせては、少しでも、女の割れめを隠させそうとしていたが
その悩ましく身悶えさせる様子には
息子の官能も、さらに、高ぶらされるのだった
隣にある白木の太柱へ、生まれたままの青い全裸にさせられたわが子が
後ろ手に縛られた母と同様の姿で引き立てられて
ふたりは、仲むつまじく、互いを見つめあうことができるように
向かい合わせになって繋がれた
わが子のまだ皮を被らせた思いの丈は
母に感じる女の美麗、艶麗、妖艶に高ぶらされ、燃え立たせられて
もたげていたものは、間近にさせられたことで、一気に反り上がり
抑える間もなく、白濁とした液の噴出を始めているのであった
母の艶やかな太腿にまで飛び散らさせていたことは
みどりに、男子が初めて経験する男の意識であると、むしろ
微笑ましく感じさせたことであれば、それは、母の思いにあったこと
羞恥から高ぶらされた官能が赴かせる
男性への女の思いは、<妖美>をあらわさせるものでしかなかった

わが子も、東京の高校へ入学し、寂しい毎日の続く日であったが
みどりが旅館の女将となって以来、旅館も順調に繁盛していた
今日は、日頃の労をねぎらおうと、三人の仲居と祝宴を催すことになった
女たちの祝宴といっても、土蔵の地下室に、酒肴はまったく用意されず
酒の酔いよりも、彼女たちを遥かに快い気分とさせる
縄の酔いへと供されるのであった
十九歳になる、百合子は
長い艶やか髪を垂らした、愛くるしいまでの美貌の顔立ちをそのままに
愛らしい乳首つけた、ふたつの綺麗な乳房、しなやかな曲線の腰付き
すらりと伸ばさせた両脚、雪白の太腿の付け根にいじらしくのぞかせる
淡い漆黒の靄に覆われた小丘のふくらみは
成熟した女の色香を溌剌と漂わせ始めていた
その女の清冽な姿態へ、荒々しい麻縄の掛けられる<興趣>は
女の全裸の姿態をいっそう美麗なものとさせるばかりでなく
当然の所以として、女に、女の強い自覚を促せるものとしてあった
三本立つ白木の太柱の左手へ、立った姿を繋がれたときから
後ろ手、胸縄、腰縄、股縄が高ぶらせる官能の拘束は
女の思いと肉体が結び合わされることが行き着かせる
喜悦の快感を目指して、悩ましい身悶えを始めさせていた
三十一歳になる、須磨子は
ふくよかな色っぽい顔立ちと姿態がますます艶麗なものとなっていることを
見事にあわらとさせている、生まれたままの全裸の姿にあって
脂肪の乗ったふたつのふっくらとした乳房、悩ましいほどの腰付き
伸ばさせた両脚の婀娜ぽい太腿の付け根に見せる
艶やか漆黒の繊毛が隠させる、小丘のふくらみを蠱惑なものと映らせていた
その女に施された縄掛けは、女がみずからさえ気が付かずにいる
女の底知れない貪欲な官能の所在を明らかとさせる<興趣>であった
三本立つ白木の太柱の左手へ、立った姿を繋がれると
そのふくよかな肉体へ施された、後ろ手、胸縄、腰縄、股縄が織り成す
菱形の文様に彩られた官能は、股間の縄が埋没するほどにあっては
すぐさま、甘美な声音をもらさせて、みずから高ぶらせるように
向かうべき喜悦の快感を目指して、うねりくねりを始めさせていた
四十二歳になる、多貴子は
細面の端正で美しい顔立ちを優雅に結った髪型でまとめていたが
晒された全裸の姿態は、その瀟洒を見事にあらわすように
綺麗に隆起させたふたつの乳房は、慎ましやかな乳首をつけて
ほどよい形をあらわし、ほっそりとしていながら優美である、腰付きの曲線は
すらりとさせた両脚の足先まで伸ばさせて、しっとりとした太腿の付け根にある
ふっくらとさせた小丘を覆わせる漆黒の和毛を品の良いものとさえ映らせていた
落ち着きのある、端麗な麗しさを漂わせた、女の裸身にも
後ろ手、胸縄、腰縄、股縄が施されたが、その<興趣>は
立たせた乳首をあからさまとさせるほど、乳房を突き出させられている胸縄や
これ見よがしに、割れめがあからさまとなるほど、締め込まれた股縄にあってさえ
中央の白木の太柱へ立たせられて繋がれた女は
激しく高ぶらされる官能を典雅な身悶えで、喜悦の快感へと向かわせていた
縄による緊縛の裸身を晒された、三人の太柱の前へ
二十五歳になる、みどりは
艶やかな黒髪を波打つ華麗な奔放へとほぐされ
清楚な美しい顔立ちに、火照らせた緊張を滲ませて
ほっそりとした首筋から流れる、女らしい曲線をあらわとさせていた
撫でた柔和な両肩、可憐な乳首をつけた美麗な乳房
形のよい臍をのぞかせる優美な腰付き、しなやかに伸ばさせた両脚
艶やか太腿の付け根にある、ふっくらとした小丘にある
深々と神秘的でさえある、女の割れめをくっきりとあからさまにさせた
女の妖艶にあった
そこまでに至った、みどりに、女将の貫禄と言われるものがあるとしたら
それは、三人の仲居たちから、身も心も、教育されたことによるものであった
彼女の放つ容貌や姿態の艶麗は、三人の思いが顕現されたものであった
みどりが更なる女としての凄艶をあらわすことが、<興趣>ということであれば
それは、彼女が抱く思いと官能の一致において、あることでしかなかった
女の美しい裸身へ施される縄掛けは
後ろ手、胸縄、腰縄、股縄だけではなかった
しなやかな両脚を揃えさせられて、両膝や両足首へ掛けられて、拘束された
そして、その緊縛の裸身は、床へうつ伏せに横たえられると
天井の梁にある滑車から降りている縄へ繋がれて、引き上げられていった
大人が立つ腰のあたりの虚空で、宙吊りの状態とされたことだった
三本の太柱へ繋がれた女たちは、思い思いの悩める身悶えをあらわとさせて
官能の喜悦の快感を無我夢中に高ぶらさせていた
女たちが見つめやる、宙吊りとされた、みどりの緊縛の姿態は
それを、ますます、焚きつけるものであった
見つめられる女も、向かわせられるところが同一であれば
三人の女の悩ましいばかりの身悶えと甘美な声音に煽られて
官能と思いとが結び合わされた高揚へと浮遊させられていくことであった
縄による緊縛の抱擁によって、追い立てられ、突き上げられて
四人の女たちは、喜悦の快感に姿態を震わせながら、絶頂へと向かわされていた
女たちの饗宴、真っ盛りだった
そのとき、夏休みで東京から戻って来た、息子が地下室にあらわれた
女たちの発散させる<妖美>に、息子は、圧倒されるばかりだった
思わず、天井から緊縛の裸身を吊るされた姿にある
母のまなざしと出遭った
その甘美な官能に浮遊させられている美しい顔立ちは
まなざしに浮かばせた思いを、母の慈愛、女の矜持、妻の貞淑として伝えていた
それが官能の快感の絶頂を間近とさせた
<妖美>の極致を感じさせるものであれば
息子にとっても
その<妖美>を共にあらわすことができるとすれば
女によってもたげさせられた
男の思いの丈を反り上がらせることでしかなかった
息子は、身に着けていた衣服をすべて脱ぎ去って、一糸もまとわない
生まれたままの溌剌とさせた全裸の姿になると、後ろ手に麻縄で縛られた
その縄を前へまわされて、胸の上部へ幾重にも巻き付けられると
背後で縄留めをされた、さらに、新たな縄を背後へ結ばれ
今度は、胸の下部へ幾重にも巻き付けられて、緩みが起こらないように
左右の腋の下から絡げられて、背後で縄留めをされた
それから、母の吊るされた間近まで、縄尻を取られて引き立てられたが
母へ近づいた息子は
もたげさせた思いの丈を反り上がらせるばかりになっていた
その余りの恥ずかしさに、太腿を閉じ合わせるように、もじもじとさせていたが
母にとっては、十七歳の半分皮を剥いて反り上がらせた思いの丈は
大人へ成長している元気をみなぎらせたものという慈愛の対象であり
それを綺麗な形の唇を開かせて、口へ含むことは
官能の喜びを知る女の矜持の行為であり
みずからの官能と同調させて
白濁とした液の噴出に至らせるまでのことは、妻の貞淑な追従であった
男と女が<妖美>をあらわすとすれば
それは、思念と官能の同一に過ぎないことだった

無事、大学を卒業し東京から帰郷した、わが子の運転する車は
くねくねと曲がる山道をゆっくりと昇っていたが、前方へ注意を払わなければ
危険と隣り合わせといったガードレールのない小道は
すれ違う車もなく、自転車に乗るひともなく、歩く通行人さえなかった
それでも、<辺鄙な山奥にある風光明媚な静謐な旅館>
それを謳い文句とした宣伝に惹かれて、ひとが訪れる場所であった
そこへ、ふたりは、向かっていた
国道から県道へ入り、名もない道路へ至る頃には
眼に染みるような美しいばかりの緑だけが周囲を覆い尽くして
それを助手席に座りながら、窓越しにじっと眺め続けているみどりの顔立ちさえも
緑色に染め抜いているかのようであった
ふたりは、言葉を交わすこともなく、ひたすら、目的地へと向かい続けていたが
みどりは、言葉を発する以上に
込み上げさせられる思いに、集中させられていた
艶やかな黒髪を優雅な髪型に結い上げ、瀟洒な柄の着物を端正に着付け
ほっそりとした両手を重ね合わせて、両膝の上へ置いていたが
母の優美な裸体には、縄化粧と言える、縄掛けの妙が施されていたのであった
可憐な乳首をつけて、綺麗に隆起させたふたつの乳房
なめらかな腹に形のよい臍、くびれが優美な曲線をあらわす腰付き
ふっくらとした小丘は、くっきりと鮮やかな切れ込みをあらわとさせていたが
それは、掛けられた縄が織り成す、菱形の文様によることだった
女の割れめへもぐらされた縄は、埋没するくらいにはめ込まれいて
艶かしい尻の妖艶な亀裂からたくし上がった張力は
柔肌を包まれるように圧迫される緊縛の抱擁にあって
女の割れめへと集中させれられていることだった
人間の官能というものが四六時中活動していることであれば
それを思い知らされる縄掛けであったことは
全裸であったことに匹敵する、強い羞恥があるのだった
向かわされるところは、ひとつしかない、という思いは
着付けた着物があらわさせる行儀を凌いでいたことだった
その姿にあっても、大学の卒業式の参列は、無事終えた
東京からの列車の車中も、事無く終えた
もはや、高ぶらされる官能が向かうところは
気兼ねのない場所へ行き着くことでしかなかった
旅館の主人であった大島の自慢である
大きな池のある見事な庭園
その片隅にある土蔵の地下室
父親に瓜二つと言っていいほど似ている、わが子の手によって
母は、女として、妻として
漆黒の三角木馬へ跨がされる、喜悦の最高潮だった
みどりにとって、胸を高鳴らせる大いなる期待、本望の官能だった
やがてたどり着いた、立派な門構えの木造の旅館であった
<みどり旅館>という木彫りの看板は、旅館の由緒をあらわすように
深い色艶を放って、客人を待ち受けていた

大島の悩ましい夢は、果てしもなく、続くものであった
もし、それを終わらせるものがあるとすれば
辺鄙な山奥にある旅館の<みどりの間>で
介護用の布団に横たわって、長い間眠り続ける
脳梗塞療養中の彼に
死が訪れたときにほかならないことだった
その寝たきりの夫の姿を、開かれた襖から見つめる、まなざし
還暦を迎えた、みどりは
容態に変わりがないか、のぞいていた。



☆九つの回廊*牝鹿のたわむれ

☆BACK







inserted by FC2 system