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自然の植物繊維で撚られた縄




自然の植物繊維で撚られた縄が誕生したのは、いったい、いつのことなのだろうか、
現在まで脈々と使用されて来ていることを考えると、思いを馳せさせられる事柄である。
縄文土器にあらわされる縄目の紋様から、その時代にはすでに用いられていたことがわかる、
その用いられ方がこのようなものであったかどうかは、まったく想像の域を出ないことであるが、
未来において、更に展開した用いられ方が生まれたとしても、
不思議のない日本民族の縄である。
現在のわれわれの使用は、その未来と過去を結び、縛り、繋いだものである――


男は、粘土をこねてひものようにし、それを輪にして積み上げながら、土器の形を作っていった。
その土器を長い日をかけて陽のあたらない場所へ置き晒し、充分に乾いた頃に、
作った火床へ土器を置き、枯れ草の灰をかけて、炎の勢いを増しながら焼き上げるのだった。
だが、のっぺりとした土器の表面は、焼き上がったときには幾つもの亀裂を走らせて、
手にして取り上げたときには、割れてしまうものであった。
そのようにして、どれだけの数を作っては、失敗を重ねてきたことであろう。
粘土を工夫してみた、乾かす日を伸ばしたりした、焼き上げる火と長さを変えてみたりもした。
しかし、のっぺりとした土器の表面には、亀裂が紋様のように走り、割れてしまうのであった。
男は、行うことの至らなさを不可思議へ思いを掛ける至らなさだと考え、
植物の細い繊維をねじって作られた縄を岩棚へ捧げて、眼を閉じて思いを集中させるのだった。
縄は不可思議なものであった。
植物の繊維を寄せ集めてふたつの細い束にし、それらをねじり合わせていくだけで、
最初にあった植物の細い繊維とは、まるで異なったものに姿を変えるのである。
しかも、植物の繊維は一本では柔弱な力しかないものだが、集まれば、蔓の一本よりも強靭であり、
どのようにも、形を変えることのできる柔軟があった。
その縄に、結ぶ、縛る、繋ぐということをさせれば、あらゆるものを自由に操ることのできる力があった。
ふたつのものがあれば結ばれ、ふたつは離れないように縛られ、ふたつをひとつに繋ぐことができる。
ふたつの繊維の束の撚り合わされた姿があらわす強靭と柔軟は、
美しい裸の男と女が絡み合っているように、陰陽の美しさが輝いているようであったのだ。
縄には、不可思議な力が宿っている、
男がそう思いを込めて、陰陽の美しさを見つめようと眼を開いたときだった。
岩棚の向こう側に、縄の美しさにも優る、美しい白い生き物と思えるような女が立っていた。
男は、びっくりして、見つめるままになっていたが、女の方も、びっくりして、立ちすくんでいた。
男は、この女こそ、みずからの連れ合いとなるために、あらわれた女であると思った。
男は、岩棚の縄を引きつかむと、向こう側へ走ってまわったが、女は、逃げ出していた。
男は、必死になって、女を追いかけた、強靭は柔軟に優っていた。
女は、背後から抱き締められるようにして、男の両腕のなかへ落ちていた。
女は、激しく両脚をばたつかせ、身体を懸命に悶えさせて、逃れようとするのだった。
男には、掻き抱いている相手の柔肌から立ち昇ってくる芳しい体臭に、
この女が連れ合いとなってくれる以外に、女はいないとさえ思われて、両腕の力をさらに込めるのだった。
やがて、女は、必死の身悶えを繰り返すことに力が尽きて、男の腕のなかで気を失ってしまった。
男は、みずからの藁葺きを引いた屋根の家へ、女を運んだ。
女は、すぐに気を取り戻して、置かれている場所を知ると、逃げ出そうとするのだった。
男は、あわてて、女を羽交い締めにして、
逃げ出さないようにするために、その身にまとっていた麻の布を無理やり剥ぎ取ったのだった。
女は、生まれたままの全裸にさせられたが、
さらけ出された余りにも優美な身体に、男は茫然とさせられていた。
女も、見つめられることにうろたえていたが、それでも、外へ逃げ出そうとすることは忘れなかった。
男には、この女を絶対に離すまいという思いが生まれていて、
ふたつのものがあれば結ばれ、ふたつは離れないように縛られ、ふたつをひとつに繋ぐことができる、
そのことを成し遂げられるのは、不可思議な縄のほかにないと思い至るのだった。
捕らえた動物を家畜にするために縛り繋ぐことをするように、
裸の女の両腕を無理やり背後へねじ曲げ、両手首を重ね合わさせて、縄で縛り上げるのであった。
それでも、女は、しなやかな両脚をばたつかせて、逃げようとする素振りをやめないのだった。
しかし、男の思いは、がっちりと結ばれていた。
女が連れ合いとなることに思い至るまでは、いつまでも、その格好にさせて置くのだと決めたのだ。
不可思議な縄の力は、それをやり遂げさせるからだ。
家の中央に藁葺きの屋根を支える太い柱があったが、
女は、それを背にして立たせられ、男のまなざしを全身で受けとめるように、
優美なくびれを見せる腰付きへ縄を巻かれて繋がれたのだった。
男は、真剣なまなざしで、相手の美しい顔立ちと身体を眺め続けたが、
女は、まなざしをそらせて、臍を曲げたように、かたくなになっているばかりだった。
男は、陶然となりながらも、その緊縛された姿を見つめているうちに、突然、ひらめいたことがあった。
女の生まれたままの全裸の優美な曲線をあらわすなめらかな柔肌は、
のっぺりとした土器の表面を思い起こさせた。
そのくびれも、艶めかしい腰付きへ巻かれた縄は、くっきりとあらわしていたのだった。
土器の表面に縄の紋様があれば、
土器は、不可思議な力に支えられた、もっと丈夫で、美しいものとなる。
男は、そのひらめきに有頂天となり、隅に置かれた割れた土器のかけらの幾つかを手に取ると、
それを全裸を縄で緊縛されて晒しものとなった女の眼の前へ、説明するような具合に示すのだった。
女は、何のことであるのか、まったくわからない、という唖然とした表情を浮かべていたが、
男が土器に夢中になっているのだということは、わかり過ぎるほどの振舞いだった。
男は、嬉しさの余り、柱へ繋がれた女へ抱きついていた、
抱きつくばかりでは抑え切れずに、女の唇へみずからの唇を無理やり重ね合わせていた。
女は、最初のような激しい抵抗を示さなかった、顔立ちを少しそらせただけで、されるがままになっていた。
男は、両手にしていた、縄と土器のかけらを重ね合わせるような具合にして見せ、
これは、女が教えてくれたことだと感謝をあらわすように、それらを捧げるように高々と掲げた。
それから、身に着けていた麻の布を、男はかなぐり捨てた。
女の前へ全裸がさらけ出されたが、男の陰茎は、
女に対する強い思いの丈をあらわすように、見事な反り上がりを示しているのであった。
男は、感謝と信仰をあらわすというように、みずからの反り上がった陰茎へ縄を引っ掛けて、
それを股間から尻へまわすと腰へ巻き付けて縄留めをした。
そのありさまをじっと見つめ続けていた女だった。
女は、思い至ったというように、柱へ繋がれた縄を解かれても、逃げる出す素振りを見せなかった。
男のされるがままに、後ろ手に縛られた身体を床へ横たえられると、
みずから、両脚を少し開いて見せることさえするのだった。
男は、満面に笑みを浮かべながら、反り上がった陰茎を女の花びらへあてがった。
女も、笑みを浮かべると、男の差し入れてくる思いヘ集中するように、両眼を閉じるのだった。
ふたりが仲の良い連れ合いとなって生涯を終わる、そのときが始まりだったのである。
縄の紋様のあらわされた新しい土器が誕生したときだった……


『<民族の予定調和>認識の五段階』 「承」 より




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