借金返済で弁護士に相談




太綱で繋いだ双頭の張形




日本民族の張形は、その民間信仰における古い歴史からしても、現代における多種多様のありようにあっても、
世界に数多ある民族のなかで、その創造性において群を抜いている、と自負してよいものがある。
ここに紹介されるささやかな道具は、その一隅を占めているというに過ぎないものである――



ふたりの女を繋ぎ合わせる双頭の陰茎を模造した張形は、言われるまでもなく、準備されていたのであった。
 綱之助は、それを持ち出してくると、無骨な顔付きに薄笑いを浮かべながら、見せしめるようにするのだった……
その不気味とさえ言える異様な造形を施された張形が権田孫兵衛先生考案製作になるもので、
 特徴はふたつの太くて長い木製の張形を縄を束ねて撚った太綱で繋いでいるという点にあった、
 その太綱によって腰と柔軟性が木製の一本よりも確保されているのであったが、何よりも縄の応用に本質があったのである、
 特許出願は難しいことであっただろうが、一般使用の頻度に耐えるアイデア製品には違いなかったのである……
 「いったい、何をぐずぐずなさっていらしゃるの、早くなさったら」
 小夜子は、見せしめているだけの相手に、我慢し切れないというような上ずった声を投げかけてきた。
 「喜んで、えぐるように奥深く、挿入して差し上げよう……」
 綱之助は、願ってもないことだとばかりに、しゃしゃり出ようとしたときだった。
 「まっ、待ってくれ、小夜子殿は……拙者に、拙者に任せてもらいたい、武士の情けだ、一生の願いだ!」
 岩手伊作之助のまなざしは、熱烈さを漂わせて小夜子の方へ注がれていた。
 そう、忘れもしない、初めて会ったときから、心惹かれていた女性であった……
 奥さん、これからは何があっても……何があっても、耐えてください……
 ぼくは……ぼくだけは、絶対に奥さんのことを思い続けていますから、と告白さえした美しいひとだった。
 その美しいひとの麗しい箇所へ、実物が無理であるならば、せめて似非陰茎を差し入れられることの喜び、
 その一期一会の歓喜を奪われるなら、奪い取る奴は兄弟弟子であろうと何だろうとたたっ切ってやる、と思わせさえしたのだった。
 黒いまわしひとつの筋肉隆々とした無骨な顔付きの力士は、心情を重んじる男だった、大きくうなずくと似非陰茎を差し出した。
 それから、友情厚い綱之助は、小夜子の裸身の上へ覆い被さっている母のなよやかな両肩へ両手を掛けると引き離し、
 その緊縛された裸身を軽々と抱き上げて、小夜子の頭と反対の方角になるように仰臥させていていくのであった。
 つまり、ふたりの女は、ちょうど股間のあたりで交差できるように、正反対に寝かされたということである。
 母は、行われていくことに、あらがいの素振りなど微塵も見せず、おとなしくされるがままの格好になっていくだけだった。
 艶めかしい朱色の夜具の上には、生まれたままの雪白の全裸を麻縄で緊縛された女がふたり、
 艶やかな黒髪をおどろに乱れさせ、美しい顔立ちを吹き出させ浴びせられた汗と唾液と女の蜜で妖しく輝かせながら、
 真っ直ぐ伸ばさせた優美な姿態を待ち切れないとでも言うように、乳首を淫らなくらいに尖らせた綺麗な乳房を揺らせ、
 艶麗な腰付きを悩ましく悶えさせ、閉じ合わせているのが苦痛とばかりに、しなやかで美麗な両脚をもじもじとさせていた。
 その中心は、何と言っても、乳色の脂肪をたたえた柔和な太腿の付け根にあたる女の股間であっただろう。
 少なくとも、尊敬する権田孫兵衛先生考案製作になる張形を握り締めて、その箇所へ近づいた岩手伊作之助にはそうだった。
 しかも、そのふっくらと盛り上がった無限さえ想起させる漆黒の夢幻の靄が匂い立たせる妖美の割れめの生気においては、
 決して引けを取らないと一般的には評価されるだろう母の股間など、まったく眼に入らないといった様子だったのである。
 生まれたままの全裸の匂い立つような色香を漂わせる女性の中心で叫ばれる愛は、ただひとつ、この美しいひとのみだった。
 さらに、男が近づいたのを知ると、小夜子は、やるせなさを漂わせる艶めかしい太腿をみずから開くようにさせたのであるから、
 官能を掻き立てられ、恋心を煽り立てられ、脳溢血を起こすのではないかと思わせるくらいに顔付きを上気させた男が、
 漆黒の恥毛の下にぱっくりと割り開かれて、折り重なる肉の襞をあらわにさせる生々しい割れめに、
 艶麗で妖美な花びらに満ちてむせかえる芳香の立ち昇る神秘な花園を意識したとしても、
 ばっかじゃないの、ひとりよがりで、と思わないで頂きたい、
 ポルノグラフィには滅多見られない純愛の場面だと理解して頂きたい。
 ううん、いじわる、はやくなさって……
 岩手伊作之助を見上げた小夜子の奥深い官能の輝きをあらわす悩まし気なまなざしは、そう告げているようだった。
 男は、震える指先で、靄のように柔らかい漆黒の和毛をそっと掻き分けながら、
 さらに柔らかいのではないかと意識が価値転換させられるような肉の合わせめを押し広げながら、
 真珠の輝きをあらわして立ち上がっている愛らしい小突起のその奥にある芳香漂わせる花びらをさらけ出させた。
 震える男の手は、狙いを定めて張形の太い先端をそこへあてがったが、それだけで、
 悩ましいふくらみを見せていた襞の間からは、どろっとした女の蜜が輝きを帯びて流れ出てきた、
 そのまま押し込むと、ためらいも羞恥もなくあふれ出す蜜に乗せて、柔らかな花びらは亀頭を深く押し包んでいくのであった。
 「ああっ、ああっ、もっと深く、もっと深くにして」
 小夜子の高まる甘美な声音に合わせて、張形を握り締めている岩手伊作之助の手には、奥深い吸引力が伝わってくるのだっだ。
 「小夜子殿、拙者は幸せでござる、あなたとお会いできたこと、一生の思い出と致すでござる!」
 恋する男は、求められるままに、ねじり込むように押し込んでいくのだったが、
 女の芯を突き上げられるように高ぶらされる小夜子は、含んでいくことに夢中で、相手の告白など聞こえていない様子だった。
 だが、聞こえていようがいまいが、叫ばれる愛であるからこそ、その声の大きさに伴ってみずからも納得できることだったのだ。
 権田孫兵衛先生考案製作になる張形の片方が女の穴へしっかりと収まったことは、だれの眼にも明らかなことだった。
 そのあかしのように、小夜子は、途端に寡黙になり、優美な姿態全体を震えるように悶えさえているばかりになっていた。
 岩手伊作之助は、みずからの下腹部も限界へ達している緊張に舞い上げられて、へたり込むような疲労感を示していた。
 「よし、母殿の方は、わしに任せよ」
 綱之助は、同朋の肩をぽんと叩くと、緊縛された美しい裸身を身悶えさせながら待ち続けさせられている女の方へ向かった。
 「お待たせ致した……
  <ご主人様>の思想を懐妊されているお方に、このような所業を果たせるわしは、光栄のかぎりにあるでござる」
 力士は、丁重な言葉と同様に、相手のしなやかで美麗な両脚をつかむと丁寧な仕草で大きく割らせ、
 その股間を小夜子の股間と触れ合うような位置にまで移動させていくのだった。
 ふたりの女は、両脚を開き合ってお互いを跨ぎ合いながら、股間を間近にさせられて仰臥させられたという格好になった……
 性愛の四十八手なるものがあり、そのうちの<第四十二手 松葉くずし>に近い体位であったというモデルを借りれば、
 表現は簡単なのだろうが、厳密には、<松葉くずし>の体位を双方が仰臥して行う体勢にあったから、四十八手にはなかった。
 そもそも、<性愛の四十八手>なるものは、男性と女性の愛欲表現を規定するものとして考えられたのであるから、仕方がない。
 <性愛の四十八手>女性版、或いは、男性版といったものも存在するのだろうが、物語の本筋ではないので研究者に譲る……
 後は、ひとつに繋がるために、もう片方の似非陰茎の亀頭をもう片方の女へ含ませれば、完成ということだった。
 だが、そのときだった。
 それまで、観念したように、おとなしくされるがままになっていた母が叫んだのだ。
 「いやっ、嫌です、お願いです、やめにしてください!」
 恐怖に突き上げられたとでもいうように、美しい顔立ちを引きつらせて、激しく泣きじゃくり始めたのだった。
 「母殿、いい加減にしてください、ここまで来て、そのような駄々をこねられては……
  ただでさえ長くなってしまっているこの<女の業>の章が終わらないではありませんか」
 緊縛された優美な裸身を震わせながら泣きじゃくるばかりの相手に、
 綱之助も手にした似非陰茎をただ握り締めるだけで、呆れかえることしかできなかった。
 「母殿が泣いて見せようがわめいて見せようが、
  母と娘はひとつに繋がって官能の絶頂を極める、という筋立ては変えられないのです。
  それがわしらの職務でもあるわけなのです……わしも惨いことはしたくない、明美奥様のときだって、
  憧れの方を木馬に乗せ上げて責め続けるなんて、わしの本意ではなかった。
  <ご主人様>の思想を身ごもっていらっしゃるという母殿であれば、尚更、残酷な真似などしたくはない、ばちがあたる。
  だが、それがわしの職務だと言われれば、行わざるを得ない、女性に嫌がられるばかりのまったく損な役回りだ。
  これも、無骨な顔付きの男が筋肉隆々とした裸体に下履きひとつという設定ゆえなのか……
  常套陳腐極まりないことだ、このような表現を平気でする作者の阿呆面が見てみたいくらいだ……
  このような次第なのです、どうか、母殿、ご理解頂いて、おとなしく絶頂を極めては頂けませんでしょうか」
 筋肉隆々とした裸体に黒いまわしひとつという無骨な顔付きの男は、相手の泣き顔をのぞき込むようにして頼むのだった。
 だが、涙をあふれ出させたきらきらとしたまなざしをこちらへ向けながら、いや、いやとかぶりを振る女はつれなかった。
 「いやですっ、あなたが何とおっしゃろうと、私は、いやっ、あなたなんか、大嫌い!
  私は、身ごもっているのです、そのような太くて醜くて長くて異様なものを含ませられたら……
  それを思うと、恐ろしいのです、恐ろしくて、恐ろしくて……
  いやっ、いやっ、いやっ、絶対にいやっです!」
 母は、駄々をこねりまくる子供のように、おどろに乱れた艶やかな黒髪を振りながら、
 緊縛された雪白の裸身を右へ左へ揺さぶって、否、否、否を強調し続けるのだった。
 「仕方がないでござる、母殿、許してくだされ」
 割り開かれた白くむっちりとした柔らかな太腿の奥には、まだ、てらてらと輝きを残す女の蜜をのぞくことができた。
 綱之助は、閉じ合わせようと必死になる女のしなやかな両脚を両手で押さえ込むと、
 これ見よがしというくらいに左右へ開かせて、そこはかとなくあだっぽい漆黒の恥毛のふくらみは言うに及ばず、
 可憐で鋭敏な真珠の小粒の立ち上がり、妖美に幾重にも折り重なって息づいている花びらに囲まれた深遠な穴、
 さらには、羞恥のすぼまりを示す菊門まで、あからさまにしてさらけ出させるのだった。
 「きゃっ〜、いやっ、いやっ、いやっ〜、やめて〜」
 母は、緊縛された裸身を身悶えさせて懸命になって逃れようとするが、力士の腕力の前ではどうしようもなかった。
 「いやっ、いやっ、いやっ……」
 あらがう叫び声もいつしか弱まっていき、ついに訪れた沈黙の後は、泣きじゃくる声音となって日本間造りの部屋へ響き渡った。
 「ああ〜ん」
 一段と高い泣き声が上がった。
 男の手にしていた双頭を持った張形のもう片方が強引にあてがわれたのだった。
 だが、男の予想に反して、その箇所はあらがう様子など微塵も見せず、むしろ、再びあふれ出させているきらめく女の蜜で、
 太い亀頭を難なく呑み込み、奥へと押し込む力に合わせては、柔らかな花びらはぐいぐいと押し包んでいくのであった。
 「母殿、いやよ、いやよも、好きのうちでござるか……
  女性というのは、まことに謎めいたものでござる……」
 綱之助は、握り締めている似非陰茎へ伝わってくる息づく吸引力に感心しながら、思わずそのように言うのだった。 
 母には、答え返す余裕などなかった。
 泣きじゃくっていた声音は、今度は、煽り立てられる官能の鳴き声に変わろうとしているのだった。
 「ああっん、ああっん、いやっん、いやっん」
 女の麗しい穴へしっかりと収まったことは、反対側の小夜子の実証と比較することなく、歴然としていることだった。
 だが、学問の基本は、対照・相対・相反・相似・対称の比較にあることは確かであって、
 それが事実であることをあらわすように、それまでおとなしかった小夜子が悩ましい声音を張り上げたのだ。
 「ああ〜ん」
 ふたりの女が体内へ含み込んだ木製の太くて長い陰茎は、ふたりを繋いでいる縄を束ねて撚った太綱を伝わって、
 それぞれの肉体があらわす官能表現をやり取りさせるという双方向性を実現しているのであった。
 撚られた縄という通信ケーブルが互いのデータのアップ・ロードとダウン・ロードを媒体しているということである。
 母が嫌がるように切なく腰付きをうごめかせれば、それは小夜子へ、女の芯を燃え上がらせるような鋭い刺激となって伝わり、
 その快感があらわされるように悩ましく揺さぶられる尻は、母の股間へ、女の芯を焚きつける熱い刺激となって伝わるのだった。
 また、そればかりではなく、縄は、それぞれに与えられた官能の状況に応じて行われる表現に従って、
 性感の相乗効果を高めるという運動も担っていたのであるから、伝達の機能以上の媒体でもあったわけである。
 わが民族の概念的思考の基幹とされている<縛って繋ぐ力>の多種多様なありようのひとつであったと言えることであるが、
 その発揮される力を性のオーガズムへの到達という人間の第一原理と結ばれて、性欲の芯から直接認識させられることは、
 自然の植物繊維を撚って作られた縄は、縛りという行為においては、肉体の緊縛が拘束すると同時に解放するものとしてあり、
 繋ぐという行為においては、快感の絶頂へ昇りつめるためにたぐり寄せていく官能という意識と同一であることをあらわしていた。
 このことは、<色の道>の理解には重要な事柄であったが、
 生まれたままの全裸を縄で縛り上げられて、長くて太い似非陰茎を膣へ奥深くに呑み込まされ、その膣同士を縄で繋がれ、
 みずからの肉体を激しく悶えさせることは、みずからの官能を高ぶらせるのと同様の高ぶりを相手に与える色責めにあっては、
 官能を高ぶらされるということ自体に夢中になっている当事者には、たとえ丁寧に聞かされたことだとしても、
 性行為に水をかけられる理屈であっただろう。
 恋する疲労感でへたり込んでいる岩手伊作之助、もっこりとさせた一物をまわしの端から飛び出さんばかりにさせている綱之助、
 このふたりにとっては、権田孫兵衛先生の偉大なる教えをまのあたりにさせられていることだと思えたに違いないが、
 彼らのぎらぎらしたまなざしからは、美しい女たちが妖美な姿態で愛欲に耽る淫猥に魅了されているだけだとも見受けられた。
 来賓として観覧されている一般読者の方々は如何か。
 「小夜子さん、私だけ先に行くのはいや……
  昇りつめるなら一緒、一緒ですよ」
 やるせなさそうに息遣いを荒くさせながら、母は、美しい顔立ちへ汗の玉を浮かばせて、娘の方へ言葉を投げていた。
 「もちろんです、お母様……
  小夜子ひとり、行かせないで」
 優美な腰付きを悩ましそうにくねらせながら、小夜子は、含み込まされた口からきらめく女の蜜をあふれ出させて、答えていた。
 含み込まされた似非陰茎は、ただの木製の造形物にすぎないものであったが、
 体温のぬくもりを熱く帯びたせいなのか、それとも、体液のぬるみを存分に吸い込んだせいなのか、
 膨張した生身のようなものとして感じられるようになっていた。
 そのあざとい感触は、じっとなったままで受けとめるというには、余りにも意地の悪い異物というものを意識させられるのだった。
 抑えようとしても、淫乱だと思われるくらいに尻がうごめき揺れるほど、腰付きを右へ左へとうねらせないではいられない。
 うねらせれば、それだけ、含み込まされたものへ前後の運動が生まれるから、尚更、うねらせることを求めさせられる。
 うねらせることに伴っては、繋がっている相手の激しい悶えも加わってくるから、悩ましさは狂おしさにまで変わろうとする。
 人間が進化の原動力とさせた両手が使えたら……だが、後ろ手に縛られた上に乳房を突き出させられる胸縄まで施されている。
 上半身の身動きはよじることが精一杯で、官能を突き上げられていくもどかしさは込み上がっていくばかりのことである。
 そして、縄が柔肌を圧迫して伝えてくる熱い拘束感こそが、まるで、愛されている者にしっかりと抱擁されているような切実感で、
 官能のもどかしさを肉体を包み込むような甘美な高揚へと変えさせられていくことで、救済が生まれるのだった。
 ああ〜あ、ああ〜あ、ああ〜あ、ああ〜あ……
 母がもらす悩ましく甘美な声音を小夜子のやるせなくよがる鳴き声が追いかけ、
 それを母のやるせなくよがる鳴き声が追いかけ、さらにそれを小夜子がもらす悩ましく甘美な声音が追いかけ、それを母が。
 日本間造りの部屋へ響き渡る女の恍惚とした泣き声は、<環に結ばれた縄>のように高まっていくのだった。
 ひとつに繋がった股間を中軸にして、互いの雪白のしなやかな両脚をこすり合わせ、絡まり合わせ、もつれ合わせながら、
 含まされている似非陰茎に息づく本物のうごめきを求めるように、貪欲な尻を妖艶なありさまにうねらせ続ける。
 淫乱をあらわす腰付きの動きに合わせては、呑み込まされた似非陰茎が前後へうごめく度に、
 ねっとりとしたきらめきを帯びた女の蜜がとめどもなくあふれ出して、匂い立つ芳香さえ撒き散らされているようだった。
 女は、疲れというものを知らないかのように、いや、それこそが底力であるとでも言わんばかりに、飽くことなく続けていた。
 これが性のオーガズムへ到達することを求めての女の本領発揮ですわ、と言わんばかりに見せつけて。
 「ああ〜ん、ああ〜ん、お母様、もう、行ってもいいですか、行ってもいいですか……
  小夜子、我慢できない!」
 年下の女は、はあ、はあ、と激しく喘ぐようになりながら、半開きとさせた潤むような妖艶なまなざしを浮かべて呼びかける。
 「まっ、待って、もっ、もう少し……お願いだから、もう少し」
 年上の女は、綺麗な唇を震わせながら、激しい息遣いのかすれた声音で応じる。
 「だめっ、だめっ、だめっ、お母様、そんなに揺さぶったら!
  だめっ、小夜子は行ってしまいそう!」
 女の芯から強烈に疼き上がってくる快感に突き上げられて、こらえ切れないという声を張り上げる、小夜子だった。
 母は、娘に追いつこうと必死になって尻を揺さぶったのだが、その激しい情欲がそのまま相手へ伝わってしまうのだった。
 互いに含み込まされた似非陰茎を繋いでいる太綱も、ぶるぶるとした震えをあらわしているくらいだった。
 「こらえて、小夜子さん、こらえて……
  いま、行きます、いま、行きますから、こらえて!」
 女は、抑制を求める相手の言葉などまるで無視して、情念に燃え上がる腰付きを輪を描くくらいに狂おしくうごめかせ続けたのだ。
 こらえさせられている女も、感受させられているばかりではもはや耐え切れなかった、相手と同様の仕草を始めるのだった。
 ……日本間の様式に造られた部屋であった、
    落ち着いたたたずまいの床の間には、端のかけた縄文土器の模造品がひとつ置かれていた、
    その前の畳へ敷かれた朱色の艶めかしい夜具の上で、
    生まれたままの全裸を麻縄で緊縛された雪白の艶麗な姿態がふたつ、
    縄で突き出すようにされたふっくらとした乳房の可憐な乳首を淫らなくらいに立ち上がらせ、
    盛り上がる艶めかしい漆黒の恥毛を汗ばんだ色艶で輝かせながら、優美な腰付きを激しくうごめかせ、
    大きく割り開かれたしなやかで美麗な両脚を置き所がないというようにあちらこちらへと悩ましく悶えさせ、
    ぱっくりと開かれた割れめには、真珠の輝きを放つくらいに尖らせた愛らしい鋭敏な突起をあからさまにのぞかせて、
    幾重にも折りたたまれた花びらの奥深くへと含み込まされた<縛って繋ぐ力>を全力で吸引しているありさまがあった、
    おびただしく流れ出ている互いの女の蜜は、互いを繋いでいる太綱へ伝わって、まじりあってさえいた、
    おどろに崩れた艶やかな黒髪は、上気した頬へまとわりつきながらも、突き上げられる官能の快感に振り乱された、
    互いの顔立ちは、うっとりとなった薄目がちの妖艶なまなざし投げながら、半開きとなった綺麗な唇からは、
    息も絶えていくような切なくやるせない声音、悩める官能の甘美な泣き声、高ぶらされた快感のよがり声がもれ続ける、
    ああ〜あ、ああ〜あ、もうっ、だめっ、もう、だめっ、行ってしまう、行ってしまう……
    ああん、ああん、行く、行く、あっ、あっ、あっ……
    燃え立たせられた官能の絶叫を唱和させながら、後ろ手に緊縛された裸身をびくんと硬直させると、
    ふたりの女は、同時に頂上へと昇りつめていったのだった、
    含み込まされたふたつの似非陰茎までもが放出を果たしたというように、
    女のあらわす甘美の痙攣をびくんびくんと伝えている、
    それに合わせて、女たちを繋がせた太綱も妖しいくらいに生き生きと揺れているのであった……
 見とれるばかりの光景だったが、立ち会っているふたりの男にも職務があった。
 夜具の上へ緊縛された裸身を無造作に放り出されたように仰臥させている、ふたつの女の姿態へ近づいたときだった。
 恍惚をさまよう小夜子のうっとりとなった薄目がちのまなざしが突然大きく開かれたのだ。
 「まだよ……まだ、私たちには触れないで……
  最高の喜びを得たこの官能の意識が宇宙の静寂へ消えてなくなるまで……そっとしておいて……
  ううん、私は、かまいませんことよ……
  あの偏屈爺さんが<色の道>を歩めとおっしゃるなら……
  歩き続けてもかまいませんことよ……
  だから、いまは……
  いまは、まだ、ふたりのときを楽しませて……」
 女は、生まれたままの全裸を縄で緊縛された姿態に甘美な痙攣の余韻をあらわしながら、
 美しすぎるくらいの表情に艶麗な微笑みを浮かべて言い放ったのだった。


<九つの回廊*牝鹿のたわむれ> 『小夜子の物語』 「女の業」 より




淫靡な責め道具の妖美な奇想



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