借金返済で弁護士に相談




光沢のある金属の長い棒




一見すると、物干し竿のようにも見える物体であったから、
軽トラに積んで女の子の甘い物売りの声でまわる竿竹屋さんから手に入れても、
用途に問題があることでないことは、洗濯用のビニール・ロープで、
生まれたままの全裸の女性を縛り上げても、緊縛に違いないことと同様である。
道具は、その用途という因果と切り離せないものであるが、
その用途が答えとする事柄が必ずしも道具の存在理由と一致することでないことは、
人間の道具の考案には、恐ろしく可変的柔軟性があることのあらわれと言える――


「ご主人様が戻られるまで、まだだいぶ時間があるようね。
 それまで、何をして時間をつぶしたらよいかしら。
 いい考えがあったら、教えてくださいな、ねえ奥様」
寝室に戻ってきたよし子はそう言いながらも、
さっさとクローゼットから新たな麻縄の束と道具を持ち出してくるのだった。
由美子は家政婦が手にしている道具を見ると、はっとした表情に変わった。
その道具というのは見た目にはただの金属の長い棒のようにしか見えなかった。
よし子はその棒をベッドの頭と足もとにある鉄柵の上へ渡した。
それから、棒の両端を動かないようにがっちりと麻縄で縛って固定した。
部屋の照明を反映し、磨きぬかれたその金属の長い棒は虹色に美しく輝いてさえ見えた。
「さあ、奥様、ひと休みしたでしょう、
 軽く汗を流すにはもってこいの運動をなされるといいわ、
 ベッドの上にあがって」
由美子はその棒が何を意味しているのか充分承知しているという感じだった。
彼女はためらいを見せて、すぐにはベッドへあがろうとはしなかった。
「ぐずぐずしないでよ、本当は好きなくせに。
 もったいぶらせて見せたからって、奥様の本性は本性なのよ、
 わたしにはあけすけにわかっているのよ、
 わたしは奥様の家政婦、着物の着付けから下の世話までやっているわ、
 奥様が垂れ流す女の喜びの蜜がどれだけ豊富だからって、
 大丈夫よ、ベッドを汚すようなことはさせないから。
 さあ、あがって」
家政婦の語気は強い調子のものになっていた、
その手は相手の背中を小突いて、無理やりあがらせようというものに変わっていた。
「……よし子さん、お願いです、もう少し休ませてください。
 今日は気を遣うことが多くって、本当に疲れているんです、
 お願いです、もう少しだけ時間をください……」
由美子はしぼり出すようなか細い声音で哀願するのだったが、
床へ足をふんばったまま言うことをきかない相手に、
家政婦の返答はふっくらときれいな曲線を描く尻へ平手打ちを食わせることだった。
「あっ…」
乾いた残酷な音が響き渡るのと同時に女の哀切な声音が共鳴した。
よし子は由美子を繋いだ縄尻を引くと強引にベッドの上へあがらせていくのだった。
「さっさと棒をまたぎなさいよ。
 時間稼ぎをしたって、やらなきゃならないことは、やらなきゃならないのよ。
 ご主人様が命じたことでしょう、日に一度は金属棒をまたがせろと。
 奥様はご主人様の命令には絶対服従なんでしょう。
 わたしだって、言われたことをしなければ、給料はもらえないのよ、
 疲れているかどうかなんて、関係ないわよ、
 奥様の行う仕事の義務よ、家政婦の行う仕事の義務よ」
またがろうとしない相手の尻をさらに激しい平手打ちがみまうのだった。
「ああっっ、ああっ」
白くふくよかな尻は桜色に染まっていた。
由美子はおずおずとした仕草で渡された金属棒をまたいでいくのだった。
そして、乳房を際立たせた菱形の文様に彩られた縄の裸身をすくっと伸ばすと、
意を決したように、後ろ手に縄で縛られたもどかしさに身をくねらせるようにして、
ひざまずく体勢になるように金属棒へ腰を落としていくのであった。
「そうよ、もっと深くしゃがみ込みなさいよ」
家政婦は定められた通りの仕事を行っているという感じだった。
両膝をついたベッドのマットはその体重のまま沈み込むような柔らかさがあった、
下腹部には覆うべき翳りがなかったから、くっきりとした割れ目は見事な女をあらわし、
めいっぱい金属の棒を食い込まされて、ふっくらとした白い恥丘はさらにふくらんだように見えた。
由美子は両眼をつむり、唇を噛み締め、俯いたままでいるばかりだった。
よし子はその相手の裸身へ新たな縄を繋いでいた。
繋がれた縄尻は天井に取り付けられている頑丈な金属の環へ通され、
由美子の身体がその場から逃げ出せないように固定するものであった。
生まれたままの全裸の女が後ろ手に縛られ、身体にもこれ見よがしの縄を掛けられ、
金属の棒を痛々しいくらいに股間へ食い込まされた姿は、どのように見ても、
残酷で哀切で淫らで恥ずかしくも情けない拷問にさらされているとしか言いようがなかった。
それが拷問であったのは、家政婦がクローゼットから持ち出してきたもうひとつの道具が意味していた。
鞭のような長さの木製の棒だった。
「奥様って、本当に感じやすいのね。
 またがされただけで、もう、あふれださせている、
 本当に淫らな女なのね、
 その淫らであることの罰にされることなんだから、自業自得、覚悟することね」
割れ目の縁へにじみ出したものが光を反射してきらめいているのが見えるのだった。
しかし、それは肉体が敏感な官能を持っていることのせいばかりではなかった。
金属の材質が形状記憶合金でできていて、一定の温度が加えられるとその箇所が熱く膨張し、
さらに振動を加えられると、波型の小さなうねりをあらわすというものであったのだ。
それまで俯いたままでいた由美子だったが、揶揄の言葉と手にした棒には顔をあげた。
深く食い込まされた金属棒の箇所が変化をあらわし始めていたように、
彼女のひざまずいた姿勢の下半身も、もどかしそうなうねりを示し始めていた。
「ああっ〜、いやっ」
由美子はついに栗色の髪を大きく打ち払って、金属の変化を告げるのだった。
「お願いです、よし子さん、許してください、熱いっ、熱いんです」
彼女はこらえるように眉根をしかめ唇を真一文字にしていた。
「奥様が淫らで、棒をまたがされたくらいで、クリトリスをとがらせるからじゃない。
 だけど、ご主人様の命令はこれからよ」
よし子はそう言うなり、手にしていた木製の棒で渡された金属棒の端を軽く叩いた。
「このあたりでは、あまり効果がないのよね、奥様も感じないでしょう。
 でも、ここだとどう、気持ちよくなるかしら」
木製の棒は前にも増して力が込められ、またがされている間近へ打ちおろされた。
「ああっ、熱っ、痛い〜」
ガンという鈍い響きとともに、由美子の緊縛された裸身は跳ねあがった。
「いくわよ」
家政婦は一定のリズムを刻むように打ち始めた。
「熱いっ、痛いっ、やめてっ、許して〜」
打ち鳴らされる鈍い音に合わせて、澄んだ美しい声音の悲鳴が寝室にこだまし続けた。
またがされた金属の棒に振動が加えられる度に、女体は跳ねあがるような反応を示したが、
跳ねあがればそれだけ自身の体重で割れ目へ深く食い入らせることにしかならなかった。
美しい顔立ちは苦痛とも悦楽ともつかない悩ましい表情で上気し、
縄を掛けられて際立たせられたふたつの乳房は激しく桃色の乳首をとがらせ、
身体全体からふき出し始めた玉の汗がきらきらと乳白色の柔肌をきらめかせている。
由美子は、訴えても止まない打撃に段々と言葉を失っていき、
身体をくねらせ髪を打ち振るわせながら、うめき声しかもらさなくなっていた。
それでも、よし子の打撃は休むことなく続けられていた。
「何よ、もう、いってしまいそうなの。
 だめよ、もっと出すのよ、いやと言うほど、垂れ流すのよ」
言われているのは、相手の半開きになった唇の端から糸を引いて流れ落ちるよだれではなかった。
天井からの縄が身体を支えていなければ倒れ込んでしまうのではないかと思われるほど揺れて、
由美子が肉体全体をあらわして悶え苦しむさまは、苦痛だけではないことを伝えていたのである。
金属棒をはさみ込んだ太腿をつたって、てらてらとした輝きを示すぬめりが浮かんでいた、
それがよし子の一段と強さを増す打撃に合わせて、流れ落ちるようにあふれ出してくるのだった。
「あなたは顔立ちもいいし、スタイルもいいし、頭も悪くないし、性根だってまあまあだわ、
 人間としては悪くはないのかもしれないけれど、女としてはまったく最低ね。
 何がよくって、こんな浅ましくも情けない姿をひと前にさらして喜んでいられるのかしら。
 同じ女として、まったく恥ずかしくなるわ」
よし子は軽蔑を露骨にあらわしたという表情を浮かべてそう言うと打撃を止めた。
由美子は相手の言葉などまったく聞こえていないというように俯かせた顔面を栗色の髪で覆わせ、
後ろ手に縛られた裸身を可能なかぎり折り曲げ、股間へ食い込ませた金属棒を太腿で締めつけて、
全身を貫いて込みあがってくる電撃に集中させられているというありさまだった。
突然、びくんと身体を震わせると、今度は大きくのけぞけらせて、痙攣で喜びをあらわにさせるのだった


『半音階的幻想曲』 「由美子の場合」 より




淫靡な責め道具の妖美な奇想



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