愛の珠玉 |
思いを寄せ合う男女にとっては、愛はひとつの定義に収まらないほど、 広大無辺で、深遠で、神秘的な永遠としてあるものに違いない、 それは、まるで、銀色に光り輝く大小の球体のきらめきそのものと言えることかもしれない―― 「愛すること……それはどのような素晴らしい言葉で言いあらわしても、陳腐な文学表現にしかならないものだ。 心から思い願う、愛する行為を持ってしてこそ、実感のある愛として相手へ伝わることなのだ。 ぼくはあなたを愛している……愛しているからこそ、あなたの心とぼくの心を強靭な愛の縄で繋ぎたい。 愛するあなたをぼくの愛の縄で縛りたい。 美しいあなたをさらに愛らしく引き立てる愛の縄化粧、ぼくは、心からの愛を持ってそれをあなたに施したい」 小夜子が岩手伊作との純愛にその気になったとしても、相手の愛はそれ以上にその気になっていることであったのだ。 岩手伊作は、そう言い終わると、小夜子の優美な全裸へ<愛の美麗亀甲股縄縛り>を施していくのであった―― 小夜子の雪白の柔肌の上には、目にもあやな麻縄の菱形文様が織り成されていたが、 岩手伊作は、肝腎の股間へ通す縄だけは行わなかった。 愛する男が行う愛のあかしに、逆らったところで無粋なだけだと観念している小夜子は、 まるで、美しい等身大の人形のように成されるがままだった。 女の割れめへもぐらされるべき縄がだらしなく垂れ下がったままになっていることも、まるで、他人事のようだった。 小夜子にしてみれば、柔肌を圧迫してくる縄の拘束感が恋する相手の愛の抱擁と思えるように、努めていることだったのだ。 生まれたままの全裸姿になって、縄で縛り上げられて、冷たい鋼鉄の檻へ放置されるだけのことなら、惨めこの上ないことだ。 だが、愛される者の手で成されることであれば、愛は、残虐と異常と非人間性にあってさえも、愛の希望を生ませるのだ。 しかし、実際にそうではあっても、小夜子の美しい顔立ちの前へ、 岩手伊作がポケットから取り出して、蓋を開いて中身を見せつけた小箱のなかのものは、異様であることに違いはなかった。 いや、それ自体は、銀色の光沢を輝かせた大小の玉であるだけにすぎなかったから、 パチンコ玉より遥かに大きいと言うだけで、その目的に使用できなかったというだけで、異様なものではなかった。 それが大小ふたつあり、パチンコ台の穴以外に何処へ入るかということが、異様を想起させることだったのだ。 「このふたつある<愛の珠玉>は、亡くなってしまったが、ある会社の社長が製造開発させた形状記憶合金で作られたものだ。 その社長は、この材質で長い棒を作り愛する妻を跨がせたが、その効果が球体へも応用できるということには至らなかった。 この館におられる発明家・権田孫兵衛氏の発案によって、現在、日の目を見ることができたのである。 <愛の珠玉>という名称は、ぼくが名付けた、その効果からすれば、まことに適切な名前だと思う、 ぼくも文学部の出身だ、キャッチ・コピーやニック・ネームの意味合いは、深く理解しているつもりだ。 ぼくはこれをぼくの愛のあかしとしてあなたに捧げようと思う…… さあ、両脚を開いて、愛するひと…… これをあなたに含ませる」 小夜子は、言われた意味がまるでわからないというように、きょとんとして相手を見つめるばかりだった。 もちろん、艶めかしい雪白の太腿を動かして、両脚を開くような素振りはまったく見せなかった。 「どうしたのです…… 愛するぼくの愛のあかしを、あなたは愛らしく受け入れてくれないのですか」 岩手伊作のまなざしは、愛に燃え上がるぎらぎらとした輝きを帯びて、愛する相手の顔立ちへ注がれるのだった。 「……なっ、何をなされるというのです……含ませるって、何をなさるのです?」 ようやく口を開くことのできた小夜子だったが、 岩手伊作の愛に逆立つ真剣な顔付きは、その下腹部と同様に硬直したままだった。 「あなたは、深遠な愛をぼくに説明させようというのですか…… 言ったはずだ、愛すること、それはどのような素晴らしい言葉で言いあらわしても、陳腐な文学表現にしかならないものだと。 文学部出身のぼくが言うのだから、間違いない。 ぼくは、愛のあかしに、愛するあなたの美しい膣と愛する美しい肛門の深淵に…… ふたつの<愛の珠玉>を含んでもらいたいのだ」 小夜子の美しい大きな両眼が驚きのあまり見開いたが、わなわなと震える声音は懸命に訴えかけていた。 「まっ、待ってください、待ってください! あの方は、あの方は、私を鋼鉄の檻へ閉じ込めるだけだと!」 恋する男は、皮肉な笑みを浮かべながら、うなずいていた。 「あなたのおっしゃるとおり、ご主人様のお望みで、あなたは確かに鋼鉄の檻へ閉じ込められる。 ご主人様のしもべであることの自覚に目覚められるまで閉じ込められる。 このことに、嘘いつわりはない」 小夜子は、柔らかな美しい黒髪が揺れるくらいにかぶりを振って、言い返すのだった。 「しかし、あなたは、あなたは、おぞましいものを私に……」 その後が言葉にならなかった、 恥ずかしい箇所へ含まされるということを想像した小夜子は、衝撃でめまいすら覚えふらっとなっていた。 そのくず折れる裸身を優しく受けとめてくれたのは、恋する相手だった。 愛に燃える男は、愛する女がその身を自分へ託してきてくれたことだと確信したのであった。 男は、<愛の美麗亀甲縛り>を施されている相手の優美な裸身をしっかりと抱き寄せると、 艶めかしく悩ましい尻の亀裂の奥へ指先をもぐらせ、 掌につかんだ大小の玉を穴の大きさに合わせて含み込ませていこうとするのだった。 「ああっ、いやっ、いやです!」 女のあらがう哀切な声音とは裏腹に、 全裸に縄を掛けられていたことで掻き立てられていた官能は、 女の蜜をじっとりとにじませていた花びらの箇所へ大玉をすんなりと呑み込ませ、 菊門の小さな箇所においてさえも、蜜に濡れた小玉を難なく含み込ませていくのであった。 まるで、愛する相手はそれを望んでいたかのような愛のなめらかさで、愛の行為は運ばれていったのだった。 恋する男は、それらの愛する箇所へ愛の蓋をするように手際よく愛の縄を愛の割れめへ愛らしく埋没させて、 がっちりとした愛の後ろ手に縛り上げると、<愛の美麗亀甲股縄縛り>として完成させるのであった。 しかし、美しく完成された緊縛の全裸を眺めるというには、美麗な愛する姿態は立っていることがままならない状態であった。 「ああっ、いやっ」 泣き出しそうなか弱い声音をもらすと、小夜子は、その場へうずくまるようにくず折れていくのだった。 おぞましいものを身体に含み込まされたという感触が伝えてくる異様な嫌悪感は、汚辱になり、恥辱になり、 大きな美しい両眼に哀切の涙を浮かばせ、したたり落ちるのに合わせて、すすり泣きを始めさせるのだった。 後ろ手に縛られている身の上では、どうしようもないことだった。 せめて、文学的な言葉をしゃべることのできる自由な口で、文学を理解するという相手へ、何とかできないものなのか。 「お願いです、やめにしてください! このようなこと、やめにしてください、お願いです! お願いです!」 小夜子の投げかける言葉は、すでに檻を出かかっていた恋する男の背中へぶつけられたが、 冷徹に閉じられた愛の鋼鉄の扉へ非情にも愛の施錠をしながら、愛する言葉が相手の口から返されるだけであった。 「あなたは、ご主人様のしもべであることの自覚に目覚められるまで、そのままでいさせられる。 だが、しもべであることに目覚めれば、いつでも出ることが可能な檻なのです。 愛に耐えることです、真実の愛に耐えることです…… 真実の愛に耐えることができさえすれば、自覚は必ず生まれます」 愛する男は、愛する女へそう語り終えると、未練がましく振りかえることもなく、部屋の扉を出ていくのだった。 木製の扉が重々しく締め切られると、 薄暗い部屋には、銀色に輝く鋼鉄の檻と乳色の光沢をあらわした女体があるだけだった。 愛される女は、非人間的な取り扱いを受けているあまりの愛の惨めさに、 ただ、なよやかな肩先を震わせて、泣くばかりのことしかできなかった。 両腿の奥にあるものを見られまいとするかのように、横座りにさせた優美な姿態の両脚をぴったりと閉ざし、 羞恥と屈辱に上気させられている美しい額を冷ますかのように、冷徹な鋼鉄の格子へ押しつけてすすり泣きを続けている。 だが、泣いて哀切な思いに浸り切れば浸り切ろうとするほど、惨めさからなされる哀しみの身悶えは、 女の割れめ深くへ埋没するように食い込まされた麻縄を淫靡にうごめかせることをするのだった。 股間へ掛けられた縄の位置を少しでもずらそうと、腰をよじらせ悶えさせるようなことを試みてみるが、 それはかえって、生まれたままの全裸に晒された羞恥から火をともされた愛の官能を、 身体を包み込むような縄の緊縛による屈辱的な愛の拘束感によって掻き立てられ、 愛らしい鋭敏さの突起と認識の芯を飾る愛の花びらと実直にすぼまった愛の菊門という女の愛の叡智へ、 鋭い縄の刺激が与え続けられることで、煽り立てられるものであることをわからせるだけのことだった。 そして、時間が経つにつれて、愛の叡智というものを真に開眼させられようとでもするかのように、 体内へ含み込まされていた愛の恥辱の銀玉が存在理由を発揮し始めるのであった。 その金属の材質は、形状記憶合金でできていて、一定の温度が加えられるとその箇所が熱く膨張し、 さらに振動を加えられると、波型の小さなうねりをあらわすというものだった。 体温で熱せられてその作用点に達するまでに、大して時間のかからないものであった。 愛される女が知らず知らずのうちに淫らな思いを考えるようになっていたとしたら、 その<愛の珠玉>の本領発揮ということだったのである。 「あ〜あ、いやっ、いやっ、いやっ!」 突然、小夜子は、頭のなかを駆け巡る淫らな妄想を払い飛ばそうとでもするかのように、 柔らかな美しい黒髪を打ち振るった。 だが、<愛の珠玉>は熱く膨張した感触を伝えてきて官能を燃え立たせ、 もっと快感の高まる思いへと引っ張り上げていこうとするばかりか、身悶えをする振動を察知すると、 指先を奥深くへもぐりこまされて、激しくまさぐられているかのような波型のうねりの感触を伝えてくるのであった。 それが認識の芯を飾る花びらと実直にすぼまった菊門の内奥で、代わる代わるの淫靡なうねりを繰り返すのであった。 淫乱なその感触に気を奪われていると、自然なくらいにありありと、男が欲しいという心象が浮かび上がってくるのであった。 「いやっ、いやっ、いやっ」 か弱い言葉をもらして抵抗をあらわそうとするが、縄による緊縛の裸身を身悶えさせれば、 否定を示す言葉は、情欲の高まりをあらわす甘美でやるせない女のよがり声となって、 薄暗い室内へこだましていくばかりだった。 「あ〜あ、あ〜あ、あ〜あ」 小夜子は、もう、必死になって、少しの身動きもしまいと身体を縮こまらせてかたくなになろうとしていた。 だが、じっとなったところで、高ぶらされる官能の快感がおさまっていくわけでなかった。 高ぶらされる官能は、もっと気持ちのよいところへと向かわなければ、おさまりのつかないうねりを繰り返しているだけだった。 「ああ〜ん、ああ〜ん」 緊縛された裸身は、身悶えしまいという思いとは裏腹に、 横座りとさせた姿勢を我慢がならないとでもいうように、閉じ合わせていたしなやかな両脚を開かせていき、 乳色の艶めかしい太腿の奥にあるありさまを、みずからの眼でもはっきりとわかるような具合にさらけ出させるのだった。 太腿の付け根があふれ出させた女の蜜で、てらてらと光っているばかりではなかった。 肉が盛り上がるほどに割れめへ埋没させられている麻縄さえ、蜜を含んで変色しているのがわかるのだった。 それが汗まみれとなって淫らな輝きを示す漆黒の恥毛の内奥へもぐり込んで消えているさまは、 羞恥や屈辱や恥辱や嫌悪をまぜこぜにされたような擾乱を女の思いなかに起こすのだった。 何故なら、麻縄がもぐり込んで消えている内奥にこそ、それらの擾乱の思いを乗り越えさせる悦楽があるのであり、 その悦楽の極みこそは、いま、自分がもっとも望んでいることだと思えることだったからだ。 真実の愛に耐えることだ、という文学部出身の男の言葉が聞こえてきた。 真実の愛とは、<愛の珠玉>に耐えること? それとも、<珠玉の愛>に耐えること? そのようなこと、もう、どっちでもよかった、その文学的な言葉を吐いた男が眼の前にいてさえしてくれることなら……。 だが、文学的な男の言葉はあったかもしれないが、その文学部出身の男の姿があったわけではなかった。 愛される小夜子は、銀色に輝く愛の鋼鉄の檻のなかで、 縄の緊縛の愛らしい意匠を身にまとわされて、愛をひとりで耐えることをさせられていただけだった。 だから、もし、いま、男があらわれたら……自分はその男の言いなりになってしまうだろうと思えたことだった。 その男が悦楽の極みにまで引き上げてくれるのであれば、その男の言いなりになることは最も望んでいることだった。 それほどに、男の心象は絶対的なものに思えるのだった、男のしもべである自分としては……。 そのときだった、部屋の扉が重々しく開かれる気がした。 小夜子は、そちらの方へ、上気した顔立ちをおもむろに向けた。 確かに、扉は開かれて、ひとりの男がこちらへ向かってやってくるのが見えるのだった。 しかも、それは、筋骨たくましく浅黒く精悍な若々しい風采の岩手伊作であったのだ。 愛する男が鋼鉄の檻の錠を外して、なかへ入って来てくれるのだった。 「奥さん、目覚められたようですね…… あなたがしもべとなった意思をぼくに示してください……」 男はそう言うなり、ズボンを下ろし、トランクスを下ろすと、見事に反り上がった愛の怒張をあらわにさせるのだった。 眼の前に揺れている赤く剥き晒された男を拒む理由は、小夜子にはなかった。 小夜子は、縄で緊縛された全裸を跪かせた格好で、その揺れる前までにじり寄らせると、 汗と涙にまみれた顔立ちへまとわりつく乱れ髪を一度打ち払うようにして、 少しのためらいも見せずに、口へ含んでいくのであった。 小夜子が夫にもしたことのない行為だった。 小夜子の甘美な舌先は、愛するものを愛でるような優しさと強さと執拗さで、反り上がった男らしさを舐めまわし、 美しい唇は、頬張った愛の怒張を女の花びらで締め付けるくらいの熱烈さで、奥深くにまで差し入れさせた。 肉体を拘束している縄の緊縛と肉体へ含み込まされているふたつの銀玉によって煽り立てられる官能は、 相手へ行う舌と唇と口中の愛撫が熱心であればあるだけ、絶頂へと向かわされる<道>を確かなものと感じさせることだった。 ああっ、と男もついに声を上げるくらい、唇の端から甘い唾液がしたたり落ちるほどの愛撫は、過激さを増していた。 やがて、小夜子が奥深く口中へ含んだものを前後へと激しく揺り動かさせるに及んで、 男もこらえるのに精一杯であると言わんばかりに、真っ赤になった顔付きを引きつった表情にさせているのであった。 小夜子も、その調子で行けば、相手と一緒に頂上を極められるというところまで来ていた。 <九つの回廊*牝鹿のたわむれ> 『小夜子の物語』 「女の愛欲」 より |
淫靡な責め道具の妖美な奇想 |