借金返済で弁護士に相談




三角柱の付いた白木の十字架




白木の十字架と言えば、晒しものにするための道具である。
処罰のための道具であることでは、用途はまったく限られたものであるが、
象徴に昇華されたありようにおいては、普遍的であり、深遠であり、神秘的なありようがあるものとされる。
ここに紹介される道具は、その白木の十字架に三角柱が取り付けられたものである、
よくある道具の改造に違いないが、どのような考えへと変容させるものとなるのだろうか――



まばゆい強烈な光が浮かび上がった。
 そして、室内へ響き渡る大声が宣告していた。
 「晒されるその責め苦の十字架から降ろされることを願うならば、
  あなたは、<あの方・ご主人様>へ心底からの救いを求めなさい!
  泣き叫んで救いを求めなさい!
  人間は人間を超越する存在の絶対の栄光に従うこと、それだけが永遠の答えなのです!」
 場内からは、熱いどよめきが立ち昇った。 
 強烈な光に浮かび上がっている、堂々とした白木の十字架であった。
 小夜子には、後ろ手に縛られ、胸縄を掛けられたような縄による緊縛は施されていなかった。
 縄の意匠があらわす縛って繋ぐ力などまったくあらわされていなかった。
 女は、波打つ柔らかな黒髪にうりざね形の顔立ちを際立たせ、
 細くきれいに流れる眉の下に澄んだ大きな瞳を愛らしく輝かせ、
 小さくまとまりのよい小鼻をひらかせた鼻筋を純潔をあらわすかのように通し、
 大きすぎず小さすぎない美しい唇を品を示すような真一文字とさせているのだった。
 ほっそりとした首筋から双方の肩先へ流れるなよやかな線、
 双方の腋の下から腰付きへかけての悩ましく優美な線、
 足先まで伸びる両脚の艶美でしなやかな線、
 地上における曲線の最高の美麗とはこのようなものであると感じさせられる艶麗さに縁取られて、
 ふっくらと盛り上がったふたつの瑞々しい乳房を可憐な乳首の果実として匂い立たせ、
 愛らしいくぼみを見せる臍はなめらかな腹部にあって、その下に艶めかしいふくらみを見せる小丘を柔和そのものとさせていた。
 その丘のふもとにのぞかせる深々とした切れ込みが一層のか弱さと優しさと妖美を漂わさせているさまは、
 生まれたままの全裸の姿にある女……
 匂い立つその女として色香のありようは、この地球上で最も美しいとされるものに違いないのだった。
 その女が縄で縛られていたのは、左右へ大きく開かされた両腕の華奢な手首が十字架の横木へ繋ぎ留められたものだけで、
 女が重力のままに地上へ落下するのを支えていたのは、
 優美な両脚を大きく開かされて跨がされた十字架の縦木のなかほどにある三角柱であった。
 その晒されているありようから逃れたいという上昇する思いがどれほどあろうと、
 下降していく肉体の総重量は、跨がされた三角柱の鋭角へ集中するほかないことであった。
 艶めかしいふくらみを見せる柔和な小丘に、か弱さと優しさと妖美を漂わさせてのぞかせている女の割れめにである。
 食い込まされた三角の鋭角がその割れめを押し開いて、肉の合わせめが裂けるほどに盛り上げているありさまは、
 体重五十キロの女であれば、五十キロの自重がその割れめへ重力として働いている激しさがあるものだと理解させた。
 それが物理的な計算方法として誤る理解だとしたら、正しい理解をご教授頂けたら幸いであると述べたくなるほど、
 女の股間の箇所は、覆い隠す羞恥の陰毛をすっかり奪い取られて、目の当たりの観察を容易なものとさせているのであった。
 だが、肝腎な事柄というのは常に外観から見ることのできない奥にあるものだ、という世の習いの通り、
 七度に渡って喜びの絶頂を極めたその同じ認識の門口で責め苦がもたらす認識を感じること、そう宣告された通り、
 女の跨がされた三角柱の鋭角は、敏感な愛らしい小突起を押し潰し、妖美な女の花びらを押し開いて柔和な果肉へと食い込み、
 可愛らしくすぼまった菊門を裂いていることは、責め苦の本領としての事実だったのである。
 そして、その責め苦の激痛から来る苦悶は、晒される女から、一切の整合性的な思いを剥奪していった。
 股間から突き上がってくる激痛は、逃れようと身悶えすれば、それだけ激しく食い込ませるものでしかなかったから、
 身動きしないで懸命に苦痛を耐える以外のものでしかなかった、
 しかし、突き上がってくる激痛は身悶えしないではいられないものだったから、逃れようとする、この繰り返しであったのだ。
 女は、大きな両眼から涙をぼたぼた滴り落して泣きじゃくったが、泣き枯れたあとは、顔立ちを真っ赤にさせてうめき続けた、
 やがて、うめく声音もか細くなっていくと、蒼白さを漂わせた表情に空ろなまなざしを浮かべるようになっていた。
 救いを求めて絶叫する、この選択肢しかない情況へと追い込まれたのは、
 女の処刑を見つめ続けていた誰にも理解できたことだったから、女から声の上がることは当然だった。
 それなのに、女はどうして早くに救いを求めないのか、不思議だった。
 もとより、罪のない女が拷問で処罰されることが不条理であったが、女が思い上がった思いで考えていたことを正すのであれば、
 救済は人間を超越する存在の前で人間へ果たし得ることであったから、女は人間の弱さ・愚かさを自覚すればよいことだった。
 だが、場内の緊張が不可思議の興奮へ変化するほどの時間が経過しても、
 十字架へ磔にされた女からは、救いの声は上がらなかったのだ。
 すでに、もたげていた美しい顔立ちは力なく伏せられ、
 握り締められていた両手も虚空へ差し出されるように開かれ、
 激痛の苦悶を逃れようと甲斐なく突っ張らさっていた両腕と両脚も弛緩をあらわして、
 全身から吹き出させた汗と女の割れめから滲み出させた体液を跨がされた鋭利な木馬から滴り落させるだけとなっていた。
 このまま続ければ、女は死んでしまうのではないか、と思わせるものだった。


<九つの回廊*牝鹿のたわむれ> 『小夜子の物語』 「女の絵姿」 より




淫靡な責め道具の妖美な奇想



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