第1章 権田孫兵衛老人と美津穂の夢の告知 借金返済で弁護士に相談




第1章  権田孫兵衛老人と美津穂の夢の告知



 私は博物館職員です。
 本来の専門とは全く異なりますが、以前から性エネルギーについて興味があり、
日本の立川流密教やタントラにおける性についての問題を研究しました。
「縛って繋ぐ力による色の道」についても、その関係で書物を通じて知っておりました。
 所詮、書物での知識は実践を伴わない薄っぺらいものです。
しかし、奇跡とも呼べるような出来事が起きたのです。

 夏の暑い夜のことでした。寝苦しい熱帯夜で、寝ているのか起きているのか、はっきりしない状態でした。
 そんな時、ある老人が現れました。姿を見る限りでは卒寿の九十歳を過ぎているようでした。
頭髪はほぼ禿げ上がっており、残りの毛は真っ白。口元は窪んでいて歯は抜け落ちているようです。
体中皺だらけで痩せ細った小柄な身体が、薄っぺらな着物に包まれていました。
 その老人が私にこう告げるのです。
 「お前さんは、人間の性的な力について研究しておられるようじゃな。
お前さんなら『縛って繋ぐ力による色の道』というものを存じておるじゃろう。
すでに十分勉強しているようだから細かい説明は省くが、
『縛って繋ぐ力による色の道』に従って『民族の予定調和』を目指すためにはお前さんの力が必要じゃ」
 私は思わず起き上がり、その老人に向き合いました。そしてこう答えました。
 「『縛って繋ぐ力による色の道』については存じております。
ただ、その『色の道』そのものについても、
その道が『民族の予定調和』と呼ばれているものに通じているかどうかについても、
今後、十分な研究が必要です」
 老人はこう答えるのです。
 「お前さん、ゆうべ寝る前に、水着姿になった小学生の女の子の写真を見て、勃起した陰茎を握り、射精しておったな。
別にそれは悪いことではない。
大人になった男性は性的に成熟しておらん女から色気を感じることは少ないんじゃが、
お前さんは非常に敏感に感じてしまうようじゃ」
 私の前に現れた老人は、私の性生活もすべてお見通しだったのだと思います。
 その老人に対し、私は次のように答えたのです。
 「なぜ、先生は私のこのような性癖をご存じなのでしょうか。
そして、どうして『色の道』のこともご存じなのですか」
 老人は次のように答えました。
 「お前さんのことはよく知っておる。
お前さんは小さいころから何人もの女の子が好きで、なかなか一人に絞り込めなかったこともな。
 お前さんは人の色気を感じやすい性質(たち)のようじゃ。
子供から大人まで、女はすべて好きなようじゃな。人からだけじゃなくて、
靴や下着のような物からも色気を感じてしまうことをわしは知っておる。
そして、麻縄で縛られた女性の姿が何よりも好きってこともな。
 お前さんに頼みがあってやってきたのじゃ。
 わしは権田孫兵衛である。『縛って繋ぐ力による色の道』を日本にもっと、いや、世界に広めてほしいのじゃ。
 お前さんにはこの道を歩き始める人たちの先頭に立ってもらいたいのじゃ。
 子供から死を目前にした年寄りまで、
日本人だけではなく世界の人々を『民族の予定調和』の思想によって覚醒させたいのじゃ」
 権田孫兵衛様と名乗る老人の言葉に、私は即答できずにいました。
「縛って繋ぐ力による色の道」については難解なところが多く、広めるも広めないも、
信じて広めるべき「教義」のようなものが私にはよく理解できなかったのです。
 そもそも、老人は「自分が権田孫兵衛である」と名乗っていますが、
その姿は誰も目にしたことがありません。実在するかどうかも分からない人物です。
実在したとしても、生存しているとは思えません。
それが、平成も終わりを告げようとしているこの時代に、
権田孫兵衛本人が現れることを、私は信じられなかったのです。
 自分は権田孫兵衛だという老人は次のように続けました。
 「お前さんが信じられないのもムリはないだろう。
 何事も百聞は一見に如かず。性の力、本能の力をお前さんも思い知るがいい」
 そう言い終えると老人は私を立たせ、身につけていたすべての衣類を一瞬で剥いでしまいました。
 老人は麻縄を懐から取り出しました。それを手に取り、私の下半身へ手早く縄を掛けるのです。
縄を二つに折り、完全に萎えている陰茎へ上から引っ掛け、ふた筋を左右から睾丸を挟むようにして股間へともぐらせました。
菊門へ当たるように瘤を作り縄を引き絞ると、ざらざわとした縄の感触によって陰茎は否応なしに屹立しようとするのです。
そして、尻の方から出された縄は、左右へ分かれて腰に回され、臍のあたりできっちりと結ばれました。
 その手さばきは実に見事なものでした。
 私にとっては初めての緊縛体験でした。
この縛り方が、「縛って繋ぐ色の力による色の道」における「不浄の縄」であることはすぐ理解しました。
 私を縛り終えた老人は、身につけていた褌のような下着を自ら取り去りました。
ひらひらと風になびく薄っぺらい下着の切れ間から大きく勃起した陰茎が見え隠れしました。
先端部には「カリ」と呼ばれる亀頭冠が外側へ大きく張り出しており、まるでピンク色した大きなマツタケのようでした。
 老人は立ったまま、両足の前で私を跪かせ、私の後頭部を両手で抱え込み、
目の前で揺れる老人の陰茎を私の顔に押し付けようとしました。
 私はとっさに拒もうとしました。
なぜなら私にとって性の対象はあくまで「異性」であって、「同性」ではなかったからです。
同性で、しかも老人の陰茎を口に含むことについては、生理的な拒否的感情が働いたのです。
 私の後頭部を強い力で抱え込む老人の意図が、私に陰茎を咥えさせることであるのは明白でした。
明白だったからこそ、私は強く拒みました。
 「普通の男にも、『男』の部分と、ほんのわずかな『女』の部分を持ち合わせておる。
お前さんも『女』になった気持ちで口に含んでみるのじゃ」
 老人がそう言い終えると、私は不思議な力がかかったかのように、
気持ちとは裏腹に口が自然に開き、老人の陰茎を受け入れていました。
 口に含んだ瞬間、私は驚愕しました。
自分が権田孫兵衛だという老人の陰茎は石のように硬く、熱いのです。
その長い陰茎を口に含ませたまま、私の頭部をつかみ、軽く前後させます。
私は歯で陰茎を傷つけないように留意しながら老人にされるがまま、唇で陰茎を包みました。
 1分ほど経過したでしょうか。
老人は「ウッ!」という声を上げ、その声がまるで合図のように陰茎の先端から私の喉に熱い液体が送り込まれました。
ドロドロとした感触と、鼻を通り抜ける青臭いあの「栗の花」の匂い。
老人の陰茎から私の体内に注がれているのが精液であることを悟りました。
 老人のものとは思えぬほど、それは激しい射精でした。
私が知っている「射精」というものは、陰茎の先端が何度か繰り返し「ギュッ」と収縮して、
白い粘液が弾丸のように飛び出してくるというものです。
 この老人の「弾」はひとつひとつが大きく、弾丸が当たる衝撃を繰り返し喉で感じます。
その弾丸が次々と食道へ流れ落ちていきます。
 普通の男性なら、せいぜい、5〜6回も「弾」を放てば「弾切れ」の状態がやってきます。
ところが、この老人の「弾」はなかなか尽きません。
「弾」を放つたび、陰茎全体が「ビクッ」と上下に震え、根元にある陰嚢が収縮します。
立ったまま私の体内へ射精するその姿は性欲あふれる男子高校生のようでした。
 老人の亀頭を口内奥へ押し込まれたまま、私は精液を流し込まれていました。
精液を受け止めながら、私はまるで女性になったような不思議な感覚でした。
 自分の陰茎が力を得て勃起を初め、その中心部が熱くなりはじめていることで、
私も肉体が性的に反応していることを自覚しました。
肉体も精神も、私のすべてはこの老人の陰茎によって支配されていました。
 老人の陰茎を包む粘膜の緊張が解け、「弾丸」を発射する勢いが弱くなるまで、30秒ほどが経過したでしょうか。
老人のペニスから生殖能力を自分の身体へと取り込んでしまったかのように、私は自らの陰茎を硬く勃起させていました。
 老人が最後の一発を私の喉奥に放った後、ようやく陰茎による口内の占領状態は解かれました。
 老人の陰茎が私の口を離れる瞬間、私の陰茎の根元に熱いものを感じました。
 斜め上へ向けて大きく勃起させていた陰茎の中心を走る「熱い」という感触。
それが亀頭の先端に達して「気持ちいい」という感覚に変わり、円錐をした肉が「ギュッ」と縮こまるのです。
 老人の陰茎による支配を解かれた肉体と精神。
今度は快感がすべてを支配していました。
支配する者が変わっただけで自分の意思が及ばないことには変わりません。
意識は次第に遠くなりました。
 快感のあまりの強さに、私は老人の前で跪いたまま意味不明なことを口走っていました。
その意味不明な動物的な「声」は、次第に人間の「言葉」として言語化されていきました。
 「ミズホ、ミズホ、ミズホ、ミズホ……」
 誰のことなのかはわかりません。
男性なのかも女性なのかもわかりません。
過去に「ミズホ」という女性と交際したこともありませんでした。
無意識のうちにただ「ミズホ」という人の名前を呼んでいました。
 快感が支配したのは言語だけではありませんでした。
 腰が勝手にガクガクと前後の動きを始めました。誰にも止められない「性的本能」が暴走していました。
 「ミズホ」という名前を繰り返し口にしながら、ペニスを勃起させてガクガクと腰を前後させている……。
その姿を横から間近で見た人はきっと、私のことを「きっと、気が違ってしまったのだろう」と思うに違いありません。
 亀頭がリズミカルに収縮を繰り返し、そのリズムに合わせて真っ白い粘液が放出されていきます。
陰茎の先端から描かれる白い放物線は、腰の動きでブレて、定まりません。
 激しい快感に精神は半錯乱状態になっていました。
 「ミズホ」という名前を呼ぶ声は次第に言葉としては成立しなくなり、
ただ、「ズホ、ズホ、ズホ、ズホ……」という意味のない声を発するだけになっていました。
 私は自分の身体に何が起きたのか分からず、すべてをただ快感に任せるだけでした。
 朦朧とした意識の中で、老人の声が聞こえました。
 「お前さんはこれから、『縛って繋ぐ力による色の道』を歩み、〈民族の予定調和〉の実現を目指すのじゃ。
ただ歩むのではない。この道を世界中に広めるのじゃ。
 お前さんは今日から、「美津穂」を名乗るが良い。
「みずほ(瑞穂)」の言葉の如く、この国を豊穣と子孫繁栄に導くのじゃ……」
 そう言い終えると老人は忽然と姿を消し、私は意識を失いました。

 目を覚ますと、私はいつものように布団の中で寝ていました。
もう夜は明けていて、カーテンの隙間から朝の光が漏れていました。
 私は股間の違和感に気付きました。濡れているのです。
私は年甲斐もなく、失禁してしまったのかと思いました。
履いていたパンツの中に手を入れてみると、粘っこいドロドロとした感触を指に感じました。
股間に入れた指を取り出して鼻に近づけてみると、「栗の花」のような独特な香り。
私は寝ている間に射精してしまったのでしょうか……。
 股間が濡れたままでは気分が悪く、パンツを履き替えようと布団から抜け出しました。
 枕元に目をやると、黄土色した麻縄が渦を巻いたように置かれていました。
その縄は新品ではなく、すでに使用され形跡がありました。
きっと、私の陰茎を緊縛した縄なのだと確信しました。

 夢のような、現(うつつ)のような……。
 しかし、私はその麻縄を手で握っています。
縄は実在するのです。男性である私の陰茎を緊縛した「不浄の縄」が……。
 部屋に漂う「栗の花」の香りに包まれながら、「あの老人は権田孫兵衛様に違いない」と私は確信したのでした。
 そして、「縛って繋ぐ力による色の道」の教えに従い、「民族の予定調和」の実現に向けて歩き始めることを決意しました。
夢の中でが私に託したように、世界中に「縛って繋ぐ力による色の道」を伝えるため。
 私にはその道を歩んでいく自信がありました。
私は権田孫兵衛導師の遺伝子を、「精子」という形で体内に取り込んだことで、
まるで導師と一体になったような気持ちになっていました。
さらに、導師の性的エネルギーも注いでいただきました。
誰も現実の世界で権田孫兵衛導師のお姿を見たことはないけれど、導師は確かにいらっしゃるのです。
 この瞬間から私は「美津穂(みづほ)」として、「縛って繋ぐ力による色の道」を鮮やかに歩き出したのです。


(2017年11月8日 脱稿)


☆ 権田孫兵衛老人のアンダーグラウンド




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