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供 養

仏・法・僧の三宝を敬い、これに香・華・飲食物などを供えること。 「大辞林 第二版」



小夜子の新しい夫であった国文学者の大江が腹上死で急死したことについて、
想像力に敏感な読者は、大江は<民族の予定調和>の<信奉者>ではなかったのだから、
陰茎へ縄を掛けて行う<信奉者の流儀>で小夜子と交接しなかったことに死因があるのではないか、
と考えるかもしれない。
<民族の予定調和>においては、縄で男性を縛ることは不浄とされており、
男性はみずからの陰茎へ縄掛けすることで不浄となり、
生まれたままの全裸を縄で緊縛された女性と交接することで浄化が成し遂げられるとされている。
従って、男性がみずからへ縄を掛けずに交接を行ったら、
<不浄の浄化>は、まったく成立しないことになる。
つまり、腹上死という急死がもたらされたのは、
よく言われるところの<祟り(たたり)>ということからではないか、ということになる。
<たたり>というのは、「神仏や霊がその意に反する人間の行為に対してもたらすとがめ・災禍。
ある行為のむくいとして受ける災難」(「大辞林 第二版」)とされていることである。
「よく供養をしないと、たたりが起きる」と言われることである。
つまり、権田孫兵衛老人が「その死は不自然である」と言ったことは正しく、
<たたり>ということが原因であれば、超自然現象は不自然であるからこそ、そう呼ばれる道理である。
ところが、<民族の予定調和>は宗教性をあらわすものではあっても、宗教ではない。
これは、<導師様>とさえ呼ばれている権田孫兵衛老人がすでに断言していることであるから、
その<たたり>ということは、宗教でなければあり得ないものなのか、
それとも、宗教性のある純潔とした思想でもあり得るのか、
極めて重要な問題のあることだと言える。
何故なら、もし、この<たたり>がいずれの場合にも当てはまることだとしたら
男性がみずからへ縄掛けすることなしに<民族の予定調和>の女性と交接した場合、
<たたり>により、腹上死が起り得る可能性は極めて高いということになるからである。
何よりも、生まれたままの全裸を自然の植物繊維から撚られた縄で緊縛された女性は、
すべて<民族の予定調和>の表象となることができる、という大前提があるのである。
従って、生まれたままの全裸を縄で緊縛された女性を前にしたとき、
少なくとも、その女性が<民族の予定調和>の表象か否かを確かめてから、
交接に及ぶ必要があるということになる。
つまり、その縛られている縄は、自然の植物から撚られたものであるかどうかを確認することである。
もし、見てわかりにくいものであれば、
販売店やメーカーへ問い合わせをするなどの必要があるということである。
相手が抵抗を奪われた全裸の緊縛姿にあるからといって、
不用意に挿入して思いを遂げた結果が<たたり>に触れたことだとしたら、
陰茎を所有する<元>も、そこから妊娠を生じさせる<子>もないからである。
そんな馬鹿げたことを! と思われる方もいらっしゃるかもしれない、
実は、作者も同じように考えているが、
ポルノグラフィという人間の荒唐無稽をあらわすありようにおいては、
このような多義多様な問題は、性のオーガズムを極めるという一点で回避できることであるが、
わが国の歴史における、ひとつの厳粛な民族思想の成立することの問題ということであれば、
 ましてや、関係する者の生死にさえ及ぶことであれば、
勃起させられたから、その勃起させられた対象の膣と結び付くために、挿入して射精する、
という簡単明瞭なことでは済まされないのであろう。
ここでも、交接の<厳粛>ということが重んじられている、と言われているのではないかと思われる……。
いずれにしても、美しい未亡人、小夜子は、
一年を待たずして、ふたりの夫を亡くした艶麗優雅な未亡人であったのだった。
彼女は、<縛って繋ぐ力による色の道>を歩むことによって、ますます、その美しさを増していたのである。
心から愛する夫であった大江の葬式が厳粛なうちに無事終了し、荘重な納骨までも終えて、
この度は、<未亡人のお披露目>を行う命を導師様から受領頂けなかった次第で、
孤独のうちに家に住む未亡人は、祭壇に立てられたふたつの位牌を前にして、
亡き夫の供養にと思いを込めた合掌と線香をたむける毎日であったのだった。
しかし、その思慕する相手に対する思惑がどのようなものであれ、
艶麗優雅な未亡人がひとり放って置かれるというようなことを世間はさせなかった。
先の夫の双子の弟である健二、その弟である双子の兄の健三が時間を見つけては、
小夜子を慰めに訪問していたのだった。
健二は、小夜子の献身によって不能であった陰茎を見事に蘇らせていたから、
いま、再び独身となった恋人を是非にも妻にしたいと熱烈に求婚を繰り返していたが、
彼女は、嬉しさは幸せを未来に至るまで招来するものと感じてはいたが、
もし、一年に三人もの愛する男性を失うことになってしまったら、と考えると躊躇するのだった。
小夜子の場合は、縄による結び付きがあったから、<たたり>という思いからではなかった、
よく言われるところの<二度あることは三度ある>ということわざの確率的な思いからだったのだ。
だが、結婚はしなくても、<縛って繋ぐ力による色の道>は歩むことのできるものであったから、
元の義姉、いまは恋人であると思いつめて激しい憧憬を抱く健三の縄で、
生まれたままの全裸を緊縛され、官能の恍惚の波間に漂わされることが三日ごとにあるように、
健二さえ求めれば、小夜子は、美しい全裸緊縛姿のまま、
官能の法悦の雲間へ毎日でも浮遊させられることは可能であった。
そして、今度は、夫の存在はひとりたりともなかったわけであるから、
<信奉者の流儀>で縄を掛けられた陰茎が挿入されて放出されても、不倫はなかったのだった。
それにしても、恋心を歌ったオールド・ヒット・ソングのビートルズの「エイト・デイズ・ア・ウィーク」や
五月みどりの「一週間に十日来い」というように、一週間が実際に八日以上あったとしても、
<三日ごと>と<毎日>では、明らかに、健三と健二は重複してしまうことになるだろう。
ところが、一日は二十四時間あるという事実と度重なる偶然は、二者を遭遇させることはなかった。
そして、この二者に割り込んで、さらに、三人の人物が未亡人へ接触しようとしていたのであるから、
必然ということは、執拗に度重なれば偶然になるということの証明に違いないのかもしれない。
今日も、家の玄関チャイムが鳴り響いたので、小夜子は、健二か健三が訪ねてきたものだと思った。
だから、相手をドア・フォンで確かめもしないで開けたとき、大きな驚愕を感じさせられた。
そこに立っていたのは、亡夫の双子の妹である美恵と恵美であったのだ。
「あら、随分と驚いているご様子ね……
私たちが訪ねてきたのがそれほどびっくりするようなことなのかしら……」
目鼻立ちの整った顔立ちは美人と言ってもよかったが、その思いと気性のあらわれているきつさは、
姉妹は負けず劣らずのところがあったので、ふたりが並ぶとますます区別のつきにくいものがあったが、
最初に口を開いたのは、姉である美恵の方だった。
「いや、小夜子さんは、私たちのことを毛嫌いしているから、突然の訪問にうろたえているのよ。
これが兄か弟だったら、にこにこして、しっぽでも振って見せるのじゃないかしら!」
追いかけるようにして口を開いたのは、妹の恵美だったが、小夜子には、区別のつかないことだった。
ただ、このふたりが挑戦的な態度をあからさまにさせて、そこに立っているということはわかるのだった。
「恵美、嫌味なんか言ったら失礼よ……どお、私たちをなかへ入れてくださる?
私たちはね、あなたと仲良くお話がしたくてやって来たの、楽しいお茶がしたくてよ」
美恵は、作り笑いを浮かべながら、小夜子の手にみずからの手を触れようとするのだった。
美しい未亡人は、思わず、手を引いてしまっていた。
「あら、随分とつれないのね、親しくなりたいと思っているのに……
まあ、いいわ、とにかく、せっかく来たのだから、快くとは言わないまでも、
せめて、お茶ぐらい振る舞ってくれたら……以前は、私たち、義姉妹だったのでしょう」
小夜子は、困り果てたという表情を浮かべて、玄関先へ立ち尽くしたままだった。
目鼻立ちの整った顔立ちの姉妹は、きつい表情で互いの顔を見合わせると、
妹の方が手にしていた大きなバッグから何かを取り出そうとしていた。
「あなたには、こういうものを見せないと、私たちが来た理由を理解してもらえないようね。
これが何だか、わかるわよね」
そう言って、差し出されたのは、山吹色の光沢を放つ麻縄の束だった。
小夜子は、それを見るなり、大きな瞳をさらに大きく見開いて、あっ、と声にならない驚きをもらしていた。
「あなたは、縄を見せられたら、すぐに身に着けているものをすべて脱ぎ去って、
生まれたままの全裸の姿をさらけ出すのでしょう、さあ、そこでやりなさいよ!
それが<民族の予定調和>とか言う<表象の女>であることの自覚なんでしょう!
さあ、さっさと裸になってみなさいよ!」
恵美は、小夜子の眼の前へ、麻縄の束をぶらぶらさせながら、激しい口調で言うのだった。
美しい未亡人は、顔立ちを蒼ざめさせて、凍りついたように立ち尽くしたままになってしまった。
「どうしたの、脱がないの……
そうよねえ、このような玄関先では、世間の皆様にも失礼に当たることですものね!
いや、あなたは、兄の葬式のときに、破廉恥な全裸の緊縛姿をあからさまとさせたくらいだから、
何ともないことなのかもね、要するに、私たちが気に食わないから、従いたくないというだけね!
そうでしょう!」
美恵が小夜子を突き飛ばした勢いで家のなかへ入り込んだ。
続いた妹が玄関の扉をぴたりと閉ざして錠を下ろした。
「これで、この家のなかには、あなたと私たちの三人だけ!
思う存分、楽しいことができるわね!
さあ、日本間へ案内して! あなたを縛ってよがらせるために、
大層な設備の準備されている部屋へ連れて行って!」
家宅侵入された未亡人は、その言葉に対して、相手をまじまじと見つめるのだった。
「そうよ、私たちは、何もかも知っているのよ!
私たちが<民族の予定調和>ということに興味を示していると言ったら、
あなたに夢中になっている馬鹿な弟の健三が自慢気にあなたとの逢瀬を聞かせてくれたのだわ!
あなた! 若者をたぶらかして、邪悪な道へ誘い込んで、いい大人が恥ずかしくないの!」
恵美が麻縄の束をぐるぐるとまわしながら叫んでいた。
その隣に立つ美恵は、薄笑いさえ浮かべて、畳み掛けるのだった。
「私たちはね、これ以上、あなたの邪悪が世の中へ撒き散らされないように成敗しにやって来た、
聖戦の女騎士、双子のジャンヌ・ダルクなのよ!
<縛って繋ぐ力による色の道>が導く<民族の予定調和>! 何よ、それ! 笑わさないで!
女性が全裸になり、縄で緊縛され、陵辱にあうというのでは、ただのSMじゃない!
どうして、ただのSMが厳粛な我々の<民族の予定調和>なのよ!
全裸を縄で緊縛された拘束感から、
肉体と精神にあるサディズム・マゾヒズムを花開かせて、
それで性的な官能の極まりから覚えた快感を常習的に行う行為が精神病理でなくて、
何だと言うの!
女はすべて、全裸になって縄で緊縛されただけで、<民族の予定調和>の表象、何よ、それ!
あなたは、ただ、精神と肉体を病んだマゾヒストをあからさまにさせているだけじゃない!
私たちはね、あなたにそれをしっかりとわからせるために、来たのよ!
さあ、さっさと裸になりなさいよ! 生まれたままの全裸をさらけ出しなさいよ!」
恵美は、大きなバッグから乗馬鞭を取り出すと、姉に手渡すのだった。
美恵は、それを小夜子の鼻先へ突きつけて、それから、素早く、腰付きへ一撃を食らわせた。
美しい未亡人は、顔立ちを歪め、ああっ、とか弱い声音をもらして、くず折れるようになった。
しかし、聖戦の女騎士には、ためらいも容赦もなかった。
風を切るうなりと共に、よろけた相手の背中へ、数度に渡って鞭を打ち据えたのだった。
「ああっ、ああっ、痛いっ……
脱ぎます……脱ぎますから、もう、ぶたないで……」
小夜子は、涙声になりながら、身に着けていたブラウスのボタンへ白い指を掛けているのだった。
「そうよ! 私たちの言うことに素直に従えば、痛い目には遭わないのよ!
わかったなら、さっさと脱ぎなさいよ!」
激しい表情の姉は、乗馬鞭の先端を相手の美しい顔立ちの前へ突き付けて、怒鳴っていた。
艶麗優雅な未亡人には、艶麗優雅に脱衣する余裕など、まるで与えられなかった。
小夜子のほっそりとした白い指先の掛けられる衣類に合わせて、
乗馬鞭の先端が急かせるようにそれを叩いていたからだった。
小夜子は、ブラウス、スカート、ブラジャー、ショーツと取り去っていったが、
男性が眺めていたら、さぞ艶めかしく愛らしいと映ったはずの華やかな衣類も、
ふたりの冷めた女性から見れば、身体を不必要に隠している余計なものでしかなかった。
従って、生まれたままの優美な全裸姿が晒されても、大した感動はなかったのだ。
「あなた、自分では、綺麗な身体をしていると思っているのでしょう! 自惚れないでよ!
エステティック・サロンでお金と暇さえかければ、誰だって、あなた程度の裸身は作り出せるわ!
私たちのナイス・バディだって、あなたに、見せて上げたいくらいだけれど、
私たちは、あなたのように常識もなく、節操もなく、品性もなく、自尊心もなく、あるのは淫乱だけで、
縄を見せられたくらいで、全裸をさらけ出すようなことはしないだけよ!
恥さらしもいいとこだわ! 人前へ裸姿を羞恥もなくあからさまにさせて!」
小夜子は、乳白色の光沢に輝く裸身の胸と下腹部を両手で隠して、
顔立ちを俯かせながら、怯えた震えさえあらわして立っているのだった。
「そうよ、あなたは、良識のない、不純で、下品で、異常で、猥褻なだけだわ!
このような女のどこがよくって、男性は騙されるのかしら、理解できないわ!
いいわよ、私たちがあなたの本性を暴いてやるから!
あなたは、自分が思っているほど、大したものではないということをわからせてやるから!
さあ、あなた! どうするの! 誰かに救いでも求めるの!
<導師様>とか呼ばれている、もうろくジジイでも助けに来てくれるというの!
<正統性ある猥褻論理思想>なんてものは、ただ、いかがわしいというだけで、誰も信用しないわ!
そのようなことを考えられるのは、頭のおかしい、気違い、異常者だけよ!
あなたのいかがわしい女の色香に騙されやすいひとだけよ!
真実を思い考えようとするひとは、絶対に、あなたを救いに来ることはないということよ!
つまり、誰もあなたを救いになんか来ないということ!
そして、ここは、いまから、邪悪な魔女を異端審問する過酷な裁判所となるのよ!
双子のジャンヌ・ダルクが魔女を裁くのよ!
いつまでも隠していないで、さっさと両手を背中へまわしなさいよ!」
相似の姉妹は、全裸の女の左右へ立って、ステレオのような音響で怒鳴り散らしているのだった。
それから、乳房と股間を覆い隠したままでいる相手の両手をふたり掛りで取ると、
無理やり背後へまわさせて、華奢な両手首を重ね合わさせて、麻縄で縛っていくのだった。
「ああっ、いやっ、いやですっ」
美しい未亡人は、泣き声になりながら、あらがった言葉を叫び、身悶えしようとしたが、
ふたり掛りで行われる縄掛けは、双子の姉妹であっただけに、厳重で息の合ったものだったのだ。
「何よ、縄が何よりも好きなくせして! 
私たち、女にまで、嬌態でたぶらかそうとするの! 図々しい根性しているわね! 
もっと、歴代のSM文献にある被虐の美女たちの振舞いを見習ったら、どうなの!
彼女たちは、卑猥、淫猥、汚穢の被虐に晒されて、屈辱、恥辱、汚辱の極みを羞恥を持って示したわ!、
あなたみたいに、可愛らしい子猫が鳴くような仕草では、またたびを見せられた猫、縄を見せられた女よ!
羞恥など、まるでないというありさまね!
まあ、元から品性がないのだから、羞恥がなくって当たり前でしょうけど!」
双子姉妹の縄掛けは、手際のよいものだった、
恐らく、<信奉者>の男性でさえ、それを見たら満足にうなずくであろう見事さがあった。
双子姉妹は、それをどこで覚えたのであろうか。
山吹色も真新しい麻縄で後ろ手に縛られ、美しい乳房の上下に幾重にも胸縄を施され、
首縄から下ろされた縄がそれらを縦に繋いで、腰付きのくびれを締め上げられた縄掛けをされていた、
小夜子自身でさえ、その卒のなさを不思議だと感じさせられた、がっちりとした緊縛だった。
「あなた、不思議そうな顔をなさっているわね……
あなたの官能を高ぶらさせ始めている手際の良い縄掛けをどうして私たちができるのか、
びっくりなさっているというご様子ね……
いいわ、教えて差し上げる……」
目鼻立ちの整った顔立ちにきつい表情を浮かべる、どちらがどちらともつかない双子の姉妹は、
異口同音のユニゾンで喋り始めたのだった。
「小夜子さん……
あなたは、私たち、姉妹が意地悪をする小姑であったと思っていたでしょう。
そうよね、実際に、嫌味を言われたり、意地悪をされたりしたのだから、そう思って当然のことよね。
今日だって、あなたを無理やり全裸にさせて、縄で縛り上げたりしているのですものね。
でも、小夜子さん……
世の中には、外見で見えるものと中身とは、大いに違いがあるということがよくあるのよ。
私たち、姉妹だって、ふたりはどっちつかずだと思われているでしょう。
実際は、姉の美恵と妹の恵美とでは、大きな違いのあることなのに、
双子だから似ていると思われているのね。
私たちは、それを相手に区別させるために、それぞれの外見を大きく違えて見せることをすれば、
姉の美恵は地味で、妹の恵美は派手だとか言われて、わかってもらえることなのでしょうね。
でも、私たちは、そのような外見にこだわるつもりはないの、こうして着ている服装も一緒よ。
ことさら、外見にこだわらなくても、美恵は美恵、恵美は恵美、という相似でいられるからなのよ。
小姑ということも、世間では、大抵が意地の悪いものだと思われていることならば、
私たちは、意地悪くしていた方が小姑らしくていいし、
区別のつかない美恵と恵美は、負けず劣らずのわがままを発揮していれば、
わがままな双子の姉妹と思われいるだけなのよ。
それでいいの、大切なのは、そのような外見ではなくて、中身だからだわ。
私たちは、生まれたままの全裸へ掛けられる縄によって、それを教えられたの。
そう、あなたがいまある、縄で全裸を緊縛されている女性の姿態でね。
あなたが<民族の予定調和>の表象とされている、その同様の姿でね。
そのありさまだけでは、どちらも相似にしか見えないという、まさにそのことにおいてね。
私たちは、それをある方から学ばされ、目覚めたのよ。
そのときまでは、私たちも、みずからの主体性がどうのこうのと悩んでいて、
そのどうにも晴らされない鬱憤を他人への意地悪やわがままでごまかしていたわ。
けれど、先生とお会いして、先生から教えを頂いて、私たちは、大きく成長したのよ。
先生は、その教えを<超絶生態学>という新しい学問の方法としてまとめようとしていた。
私たちは、尊敬する先生の研究生であったから、
縄掛けというのは、私たちにとっては、必須の修得科目に過ぎないことなのよ。
おわかりになって? 小夜子さん……
あら、もう、そろそろ、先生がここへお見えになる時間だわ。
それから……
先生は、あなたの亡くなられたご主人と、かつては、大学の研究者として同僚だったの。
しかし、あなたのご主人は、教授となり、学部長となったとき、
先生の研究が科学的学術ではないという理由で、大学から追放の憂き目に遭わせたのよ。
先生は、それから、<財団法人 大日本性心理研究会>へ招聘されたのだけれども――
私たちは、ここで先生とお知り合いになったのだわ
――そこでも、先生の研究方法は異端だとされて、解雇されてしまった。
現在は、プロジェクトT・エンタープライズという会社の研究開発室へ席を置いているけれど、
それも、いつまでのことかはわからない。
先生の本当の理解者であり、支援者があらわれるのは、まだまだ、ずっと先のことかもしれない……。
先生は、<縛って繋ぐ力による色の道>が導く<民族の予定調和>ということをお知りになって、
偶然にも、日夜、研究に没頭していたのがあなたのご主人だということを知って、
その研究対象、すなわち、妻だったあなたという女性に、興味を抱いていらしゃるの……」
小夜子には、何をどのように説明されていることなのか、不可解を感じさせられるばかりであったが、
全裸を縄で緊縛されている事態に、大きな変化が及ぼされる話ではないことだけは、わかるのだった。
そのときだった、玄関のチャイムが鳴り響いたのである。
その場にいた三人であったので、美恵が錠を下ろして扉を開けることは、速やかに行われた。
あらわれたのは、艶やかな訪問着姿の色香があたりに撒き散らされるという、
目の覚めるような美しい女性だった。
年齢は、三十歳後半のようでもあり、或いは、二十歳なかばのようにも見えた、
実際は、五十歳を過ぎていたのかもしれないという、
曖昧模糊とした幽玄な幻想美というものを揺らめかせているのだった。
女性は、その和風に整えられた艶やかな髪型に、綺麗に化粧された麗しい顔立ちをもたげて、
しなやかで優雅さを漂わす物腰で、玄関をなかへと入って来るのだった。
そして、全裸を縄で緊縛された姿にある小夜子の前へ立つと、静かな柔らかい声音で告げた。
「始めまして、私、一之瀬由利子と申します……」
女性は、軽く会釈をすると、まじまじと相手の顔を見つめるのだった。
小夜子は、その黒眼がちの陰翳の深いまなざしに見つめられているだけで、
めまいが起るようなものが感じられて、ただでさえ、できなかった返事が尚更できないのだった。
何よりも、驚かされたのは、相手の顔立ちが恐ろしく自分と似ていたことだった!
「小夜子さん、失礼よ、一之瀬先生にご挨拶なさって!」
緊縛された女の縄尻を掴んでいた恵美は、揺さぶって促すのだった。
いったい何事が起きているの! いったいどうなっているの!
小夜子は、成行きを理解し、辻褄を合わせようと努めたが、
立たされた状況の激しい緊張感は、思いを硬直させるばかりのことだった。
彼女が当惑していると、ばしっ、という音と共に、尻のあたりへ激痛が走った。
「痛いっ!」
緊縛の女は、思わず、叫んでいたが、さらに、乗馬鞭の一撃が襲って来たのだった。
ひゅっ〜、ばしっ!
「ああっ、ああっ、わかりました……ごめんなさい!
私は……私は、大江の妻の小夜子と申します、始めまして……」
美しい未亡人は、あわてて申し述べたが、
艶麗優雅な物腰の女性は、表情ひとつ変えない麗しい顔立ちで、静かに答えるだけだった。
「大江の妻は、余計ですわ……
随分と懐かしいお名前ですけれど、もはや、過去の遺物です……
小夜子さん……私の前では、その素敵なお名前だけで充分のことです。
では、早速、あなたの<民族の予定調和>の表象とやらのありようを拝見させてくださいな」
一之瀬由利子と名乗った女性は、小夜子とは顔立ちが似ていたかもしれないが、
この世のものとは思えないような妖美が漂っているところは、まったく超絶としているのだった。
超絶としていない、縄で全裸を緊縛された女は、縄尻を取った恵美に柔和な撫で肩を小突かれ、
乗馬鞭を手にした美恵に艶めかしい尻をぴたぴたと打たれながら、家の奥へと向かわされていった。
目的の日本間へたどり着いて、その襖が両開きにされたとき、
美恵と恵美は、思わず、感嘆の言葉をもらしていた。
「わあ、素晴らしいお部屋……しっとりと落ち着いた佇まいの広さ……
日本間という造りが縄掛けに最適の様式であると言われているけれど、
天井の梁、鴨居、欄間、柱、床の間の柱があって、
しかも、茶道、華道、書道、武道のたしなみを精進する道具が揃えられていて、
亡きご主人を供養する祭壇まで設けられてあって、
それに何?」
双子の姉妹は、緊縛された女をそっちのけで、次の間へ通じる襖を開いているのだった。
「わあ、艶めかしい夜具の敷かれていること……
それに、何、これ?」
美恵と恵美は、さらに、奥の間へ通じる襖を開いているのだった。
「ああっ、凄い! 凄いわ!
さすがは、大学教授、研究者だわ、行うことが半端ではない!
先生、こちらへいらしてください! 凄いものがあるんです!」
縄で緊縛された全裸の男女が絡み合って愛し合うための夜具の敷かれた部屋から、
美恵が顔をのぞかせて、気負い込んで招いているのだった。
一之瀬由利子は、美しい顔立ちの表情をひとつ変えずに向かおうとしたが、
美しい未亡人は、顔を逸らせるように俯かせて、立ち尽したままだった。
「小夜子さん、一緒に行きましょう、あなたのお家ですわ」
静かで柔らかな声音でそう語り掛けられると、小夜子は、躊躇を感じながらも、
相手の言いなりになってしまう自分が不思議だった。
一之瀬由利子は、相手の縄尻を取ることもなく、艶麗優雅な物腰で向かうのだったが、
小夜子は、相手の見えない縄に引かれていくように、緊縛の裸身を歩ませたのだった。
凄いと言われた部屋は、日本の伝統的な拷問道具の様々な収集品が、
江戸時代の拷問倉を再現したような配置を持って、見事に飾られていたものであった。
その拷問倉のなかへ入った四人は、俯いたままの小夜子を除いて、
興味深いまなざしであたりにある道具を眺めては、手に取ったりしているのだった。
「彼も、大学では素振りひとつ見せなかったけれど、大分ご熱心だったわけですね。
小夜子さん……ご主人は、これらをあなたにお使いになったことはあるの?」
一之瀬由利子は、静かで柔らかな声音でそう尋ねたが、小夜子は俯いたままだった。
美恵が近づいて、相手の緊縛の裸身の縄尻を引っ掴むと、強い口調で言った。
「先生に尋ねられたことは、素直に答えなさい! また、鞭が飛ぶわよ!」
小夜子は、怯えた表情を浮かべた顔立ちをおずおずと上げると、震える声音で返答した。
「……いいえ、主人は、この部屋のものは一切使ったことはありません……」
妖美を漂わせる美貌の女性は、深い陰翳のあるまなざしを相手へ投げかけると、
表情の揺らめきひとつ示さずに、告げるのだった。
「そうですか、では、今日があなたにとって、初めて用いられる日となるわけですね。
拷問の処女として破瓜される日と言うことですね……」
小夜子には、言われている意味がよくわからなかったが、
緊縛の裸身をぶるっと震わせるほどの衝撃が意識されることだった。
「小夜子さん……
あの片隅に置かれているものが見えますか。
あれは、三角木馬と一般的には呼ばれている拷問道具ですが、
あのものが、漆黒の色艶をあらわしているということには、問われる意味があるのです。
それは、あの三角木馬がただの拷問道具ではない、という可能性です。
それは、人類の脳にある、
<永遠の黄昏>と呼ばれている闇の存在を明らかとさせることかもしれない、ということだからです。
生物学の世界では、ミッシング・リンクと呼ばれている猿と人間の間にある環、
系統としてつながらない未定の部分があります。
その環は、猿という動物から人間に移行するときに行なわれた、革新的な変化をあらわしているものです。
動物から人間に移行するその過渡期とは、人類の動物としての黄昏のようなものであった。
昼がまだ昼としての終わりを告げたわけでもなく、夜が夜として完全に始まったわけでもない、
光と闇が交錯する薄闇の支配する短い時間のことですが、
短いとは言っても、それは、何万年も続いた時代であったことでしょう。
来る日も来る日も薄闇が支配し続ける時間のなかを、
人類に成り変ろうとする猿が有象無象にうごめき続けて、
来るべき人類としての発展を遂げようとするには、
その時代をしっかりと脳に抱かなければならなかった、<永遠の黄昏>と言うべきものです。
この<永遠の黄昏>が人類にとって重要なのは、
人類が異種ばかりではなく、人類同士においてさえも、殺戮と強姦を行うことを体得させたからです。
人類が人類である限り、<永遠の黄昏>を脳に抱き続ける限り、
人類において、殺戮と強姦は永遠になくなることはない、文明と文化の原動力だからです。
人類の文明と文化とは、同種への殺戮と強姦を最大の恥辱であるとすることなら、
それを如何にして覆い隠す宗教と学術を生み出すか、という歴史であるということです。
しかし、その脳にある<永遠の黄昏>を証明する方法がありません。
人間を超越する存在が未完成に人間を造ったことで、諸悪の根源が人間には存在し続ける、
そのようなことで<永遠の黄昏>を示唆する以外に方法がなかったのです。
結局、人類は、みずから、わけのわからないままに、
殺戮と強姦を繰り返しているというだけです。
それは、現代の状況を眺めれば、
不変を認めざるを得ないことですし、未来も変わり得ないことです。
しかし、ひとりの<男爵>と私の父だった<三人の若者>が方法を求めようとしたのです……」
双子の姉妹は、直立した姿勢で尊敬のまなざしを向けながら、
一之瀬由利子の語る事柄を熱心に聞いているようであったが、
小夜子にしてみれば、ますます、不可解が増すばかりのことでしかなかった。
「……それは、<永遠の黄昏>を明らかとさせる拷問道具の存在があったということです。
<男爵>が<片眼の不自由な飲んだくれ職人>に造らせた<漆黒の三角木馬>がそれでした。
小夜子さん、いま、あなたが眼にしているものがそれであるかどうかは、わかりません。
彼も、研究者としては、いい加減なものを収集していたとは思えませんが、
それを確かめる方法は、その三角木馬へ女性が跨る以外にないことも、事実です。
私は、まさか、このようなものがあるとは思ってもみませんでしたが、幸いでした。
あなたには、木馬へ跨って頂いて、ふたつの事柄を証明して頂ける可能性が生まれたからです。
ひとつは、あなたが<民族の予定調和>の表象として、
生まれたままの全裸を縄で緊縛された姿で、何をあらわして見せることができるかということ。
もうひとつは、あの木馬が本物の<漆黒の三角木馬>であるかどうかということです。
私の母は、<三人の若者>によって、<漆黒の三角木馬>へ跨がされ、
<永遠の黄昏>が脳に存在することを明らかとさせています。
これは、あなたにとっても、私にとっても、絶好の機会ではありませんか」
自分と似た顔立ちの相手からそのように告げられて、
深い陰翳のあるまなざしでまじまじと見つめられた小夜子は、
思わず、わかりました、と素直な言葉が唇を震わせる思いにさせられた。
だが、彼女のまなざしには、三角柱の鋭利な背を如実にさせ、
太い四本の角柱がそれを支えているだけという単純な造形物が、
妖しい漆黒の光沢を放つ、非情で残虐で淫猥な拷問道具であるとしか映らなかった
「いやです、いやっ! 私は、そのようなことは、絶対に、いやです!
お願いですから、私の縄を解いてください!
そして、私の家から、いますぐ出ていってください! お願いです!」
小夜子は、恵美に取られている縄尻の緊縛された裸身を懸命に身悶えさせて、
柔らかく波打つ黒髪を右に左に打ち払って、否をあらわすかぶりを振り続けるのだった。
美恵は、手にしていた乗馬鞭を振りかざして、それを鎮めるために一撃しようとしていた。
それを、一之瀬由利子は制したのだった。
そして、静かで柔らかな声音で言うのだった。
「あなたの<民族の予定調和>の表象というのは、その程度のものなのですか。
まあ、彼が関心を持ったことですから、その程度のものでしかないのかもしれませんね。
わが国の伝統を深く研究するのは結構なことですが、人間の本質に眼を向けない研究であれば、
ままごとと一緒のようなものです。
<民族の予定調和>というものがひとつの民族思想だとされることなら、
それは、かつての歴史がそのように示しているように、過酷な試練があってこそではないのですか。
<正統性ある猥褻論理思想>であるとかおっしゃられても、
<正統性>も<論理思想>も立証できないようでは、ただの<猥褻>になってしまうことです。
<導師様>とか呼ばれている方にお会いになったら、おっしゃって頂けませんこと。
少なくとも、一之瀬由利子は、みずからの身を持って、
<永遠の黄昏>を明らかにして見せることができますと。
小夜子さん、あなたが望まないのですから、やめましょう。
あなたの縄が解かれなくても、あなたに掛ける方たちの縄の手間を省いていることならば、
そのままでよろしいのではありませんか」
目の覚めるような美貌の女性は、表情ひとつ変えずに振りかえると、
艶麗優雅な物腰で、拷問部屋を出ていくのだった。
双子の姉妹も、それに付き従うように、振り返りもせずに、出ていくのだった。
残されたのは、生まれたままの全裸を縄で緊縛された、女ひとりだった。
小夜子は、茫然となったまま、立ち尽くしているばかりであったが、
いずれは、健二なり、健三なりが訪問して来るのは、時間の問題であると思われた。
そのとき、緊縛された裸身をあらわとさせている自分をどのように説明したらよいのか、
そのことの方が問題になることだと思われた。
起ったことの一部始終をありのままに話したところで、
どのような理解が得られることなのか、想像のつかないことだったのだ。
だが、いつまで時間が経っても、いずれの男性もあらわれなかった。
小夜子は、立ち尽くしているのも疲れて、艶めかしい夜具の上まで行くと、
緊縛の裸身を横座りの姿勢にさせて、さらに、待ち続けるのだった。
しかし、男性はあらわれなかった。
生まれたままの全裸を後ろ手に縛られ胸縄を施された姿態では、
じっとしている以外に、行うことは他に許されなかった。
そうして、家にひとり、ぽつねんと置かれていることは、
次第に、哀切の思いを込み上げさせてくるのだった。
小夜子は、むせび泣き始めていた。
だが、いつまで経っても、彼女の縄掛けをそれ以上に高ぶらせる男性はあらわれなかった。
女は、訪れることのない相手を待ちながら、艶めかしい夜具の上へ裸身をうつ伏せて、
ただ、すすり泣きを続けるしかなかったのだった。
それが、せめて、祭壇にふたつ立つ位牌に向けて成される、
彼女の心からの供養と言うように。
……………
権田孫兵衛老人から、批判は寄せられなかった。
まるで、批判を寄せないことが、いわく言いがたい、批判であるような沈黙であった。


生まれたままの全裸を後ろ手に縛られ胸縄を施された姿態で、
小夜子は、艶めかしい夜具の上へうつ伏せて、
泣き続けながら、いつしか、眠り込んでしまっていた。
それは、深い、深い、深い眠りで……
民族の根源としての記憶である、
因習が眼の前にあらわれるような夢を見させられることだった……
小夜子は、生まれたままの優美な全裸の姿態を麻縄で後ろ手に縛られ、
愛らしい乳首のついたふっくらとした綺麗なふたつの乳房を突き出させられるような胸縄を掛けられ、
艶めかしい夜具の上へ、うつ伏せた格好で眠り続けていた。
彼女の眠りは余りにも深かったので、
その部屋へ、男がふたり忍び入ったことを気づかせるものではなかった。
男はふたりとも、一糸もまとわない全裸の姿をあらわとさせていたばかりでなく、
もたげる陰茎へ麻縄を掛けて、充血した反り上がりを強調させる緊縛をみずからへ施していた。
赤々と反り上がったふたりの男は、女の緊縛された雪白の優美な裸身を仰向けに横たわらせると、
その眠りが奥深いものであることを確かめるように、
ひとりは頭の方から、ひとりは足もとの方から、長く伸ばさせた舌先で愛撫を始めるのだった。
柔らかく波打つ艶やかな黒髪、美しい顔立ちの広い額、閉じられた優しいまぶた、
純潔に通った鼻筋と可憐な小鼻、薄く開かれている清楚で綺麗な形の唇、
それらが男の舌先で、ぬめる唾液の航跡を残しながら、
思いの込められた丹念さで舐められていくのだった。
慎ましい形をした両足の指のひとつひとつ、足の裏から可愛らしい踵、貞潔な締まりを見せる足首、
優雅さの脹脛、綺麗に突き出た膝頭、柔和な乳白色の艶めかしい光沢を放つ太腿、
それらが男の執拗な舌先で、細やかに愛撫されていくのであった。
だが、女の縄で緊縛された裸身は、溌剌とした生気を漂わせていたにもかかわらず、
死んだようにぴくりともせず、麗しい顔立ちにも、表情の揺らめきは微塵もあらわれなかった。
ふたりの男は、縄で突き出すようにされたふたつの乳房へ、左右から吸い付いていた。
長い舌先に熱心に舐めまわされ、てらてらとした光沢をあらわした乳首は尖るほどに立ち上がり、
ふたつの貪欲な口は、ふっくらと隆起する美麗な乳房へ、頬張るような吸引を行うのだった。
しかし、仰臥させられている女の姿態には、微動の反応も示されなかった。
男たちは、左右から、しなやかに伸びた美しい両脚を割り開かせるように取ると、
これ見よがしに女の股間をあからさまとさせていった。
漆黒の夢幻の靄に慎ましく覆われ、優美な柔らかさのふくらみを見せる小さな丘は、
深遠と妖美を同義とさせるような割れめをのぞかせていた。
男のひとりが左右の両脚の足首を掴んで、屈伸させるような前屈みの姿態にさせていくと、
女の割れめは、如実にさらけ出されたものとなり、
鮮烈な美しい肉の輝きが三つの穴とひとつの小突起をあらわとさせているのだった。
愛らしい突起は、真珠のきらめきを示して、
すでに、高ぶらされた女の官能をあらわすように立ち上がっていて、男の舌先がそれに触れられて、
舐めまわされ、吸われるようにされると、すぐに、しこっていくのだった。
その間も、美しくしなやかな両脚を女の頭の方で支えていた男は、
舌先を伸ばして、欲情に立ち上がっているふたつの乳首を熱心に愛撫し続けていた。
しこった小突起を舐め続ける男の舌先が開きかけている花びらへようやくたどり着いたとき、
深遠と妖美の奥深い淵からは、女の蜜がしずくの輝きをあらわして流れ出していたが、
男の舌先がそこへもぐり込むと、どろっとした甘美をとめどもなくあふれ出させて応えるのだった。
男は、みずからも、反り立たせた先端から糸を引かせた官能の高ぶりに、
その矛先を迎える相手の吸引と収縮に促されて、引き込まれるように深く沈み込ませていったが、
それであっても、女からは、うめき声ひとつ、身悶えひとつ、あらわされることはなかった。
女は、死んでいるとさえ言える、無反応であったのだ。
男は、ゆっくりとした抜き差しを繰り返しながら、官能を昇りつめていくと、ぶるっとなって放出を果たした。
すぐに、待たされているのは、もはや限度というように、女の頭の側にいた男が素早く入れ替わって、
激しく反り上がらせた陰茎を膣の奥深くへと含ませて、激しい抜き差しを始めるのだった。
男はオーガズムに至ったが、縄を掛けられていた陰茎は、容易に萎縮を許さないものであったから、
両脚を取る側へまわっていた男が、再び、女との交接を求め、絶頂を極めていくのだった。
そうして、ふたりの男は、各々三度ずつ、官能の極まりを持ったのだった。
それから、ふたりの男は、小夜子の緊縛の裸身を頭の方と足もとの方から抱きかかえると、
艶めかしい夜具の敷かれた部屋を後にして、
日本間造りの部屋を後にして、
家から出て行くのだった。
大きく開かれた玄関扉の向こうには、黄昏が待っていた。
昼がまだ昼としての終わりを告げたわけでもなく、夜が夜として完全に始まったわけでもない、
光と闇が交錯する薄闇が支配する時間と空間があった。
その地平には、累々として立ち並ぶ多種多様の墓石が一面に広がり、
彼方の日没の一線まで果てしなく続いていた。
生を持って蘇ることは決してないが、厳然と子孫のなかに因習として存在する、
無限数の祖先という死者が眠り続けているのだった。
ふたりの裸体の男は、抱きかかえた緊縛の女の裸身を彼方の日没の一線へ向けて運んでいた。
ゆっくりとした足取りで、黄昏の薄闇のなかを歩き続けていくのだった。
それは、長い、長い、長い時間を遡及する運行だったかもしれないし、
或いは、死者が執り行う行為としては、
一瞬のうちに空間を移動するようなものであったかもしれなかった……。
やがて、小夜子は、広大無辺の墓地を抜けた先にある、荒涼とした岩場まで運ばれていった。
そこにある平たく大きな岩の上へ仰向けにして横たえられると、
縄で陰茎を反り上がらせたふたりの男は、しばらくの間、名残惜しそうに立ち尽くして女を眺めていたが、
ようやく、広大無辺の墓地の方へと去っていくのだった。
黄昏は、やがて、暗闇を招来し、夜空には、満天の星がまばゆく輝いていた。
その平たく大きな岩棚の近辺には、幾つもの洞穴があり、
猿から人間へ成り変ろうとする最終段階を迎えていた人類が群棲していた。
夜は、人類以上に、鋭い牙や爪、敏捷さや力を備えた動物が獲物を求めて徘徊していたから、
生命の危険をあえて冒してまで、洞穴から外へ出る者はなかった。
身を守ることに脆弱な動物は、肩を寄せ合うように多数が集まって、暮らし続ける以外になかったが、
そうしたなかでも、百人に五人くらいの割合で、
群棲することで作られる常識から逸脱する者があらわれるのだった。
この若者も、そうしたひとりで、満天に輝く星の惹きつける不思議な美しさに危険など省みないで、
他の者が寝静まった後、洞穴からさ迷い出る者であったのだ。
若者は、あたりへ眼を凝らし、匂いを嗅いで注意を向けながらも、
馴染みとしている岩場の最も見晴らしのよい場所へ向かって、黙々と歩き続けていた。
そのときだった。
目的の平たく大きな岩棚の上に、見慣れない白く輝くものを発見したのである。
若者は、興味深そうに恐る恐る近づいて行ったが、
そこへ横たわるものをまじまじと見つめたとき、立ち尽したままとなってしまった。
美しいと感じていた天空の星々に引けを取らない、白い輝きを放つ生き物に圧倒されてしまったのだ。
いや、そればかりではなかった。
濃い体毛が身体全体を覆っているだけの黒々とした裸の若者は、
その白い生き物の美しさに煽り立てられるように、
赤い充血をあらわす陰茎を立ち尽したままにさせられてしまったのだった。
髪があり、顔立ちがあり、乳房があり、割れめをのぞかせた股間があり、両脚のあるところは、
自分たちが連れ合いとしている者と似ていたが、身体全体を覆う毛は極めて薄かった。
身体の放つ白さは、眼をくらませられるように美しかったが、
その白さには得体の知れないものがあって、
身動きの取れないようにされていることが不思議を感じさせた。
そのせいかどうかわからなかったが、その白く美しい生き物は、まるで動かなかった。
若者は、触れるのをためらい、見つめるばかりになっていたが、
大変な発見をしたのだと感じることは、
もたげた陰茎をさらに硬直させて、有頂天な思いとへ高ぶらせるのだった、
同時に、この白く美しい生き物を他の者には奪われたくないと感じさせられていた。
自分とは異なって身動きひとつしないものだったが、たったひとつのものだと感じられていたのだった。
若者は、ようやく、思いを固めると、初めて、その白い動物へ震える指先を触れた。
そして、そのまばゆい白さから伝わってくる、
どきどきと胸を高鳴らせる温もりときゅっと胸を詰まらせる芳しい匂いは、
硬直していた陰茎を一気に反り上がらせるものとさせたのだった。
白く美しい生き物は、自分と同じにあるのだと感じられたことだった。
若者は、相手を連れ合いとするためには、どのように嫌がる相手であろうと、
反り上がらせた陰茎を相手の割れめへ差し入れて放出を果たせば、
相手は大人しく連れ合いとして従うということを習っていたから、そのようにしたいと激しく感じるのだった。
仰向けになっていた相手をうつ伏せの格好にさせると、
白い尻を高々と持ち上げさせて、割れめがこちらへあからさまとなるようにさせた。
鮮烈な美しい肉の輝きが三つの穴とひとつの小突起をあらわとさせていたが、
目的の穴には、きらめくしずくが滲み出して光っているのだった。
若者は、そのきらめきに誘われるように、
赤々と反り上がった陰茎をとば口へあてがい、差し入れようとした。
そのときだった。
相手が、ううん、と声音をもらし、大きく身悶えを示したのだ。
若者は、びっくりして、抱きかかえていた白い身体を離しそうになったが、
反り上がらせていた陰茎は、やり場を求めることなしには収まるものではなかった。
気がついた小夜子は、生まれたままの全裸を麻縄で後ろ手に縛られ、
胸縄を掛けられた姿態にあるばかりでなく、尻を突き上げさせられた格好でうつ伏せにされ、
しかも、誰ともわからない者から、
女の羞恥であり、自尊心であり、尊厳である箇所を攻撃されようとしていることを知って、
いやっ、いやっ、やめて! やめて! 助けて!
と張り叫んだ声を上げながら、必死になって、身悶して逃れようとした。
だが、若者は、差し入れられた陰茎が放出を果たしてしまえば、相手は大人しく従うものとなり、
それが子を生むことをさせ、自分も相手もその子も、
あり続けることを絶やさせないという常識があったから、
相手がどのように泣き叫ぼうと、どのように暴れようと、ためらうことを感じなかった。
言葉は、もとより理解されるものではなかったが、声音さえも意味がなかったのだった。
小夜子は、柔らかく波打つ艶やかな黒髪を右に左に打ち振るって、
いやっ! いやっ! いやっ! 助けて! と絶叫を繰り返していたが、
若者の腕力の前には、身悶えは封じられ、
花びらを膨らませて差し入れられていく陰茎は、若者の思いの深さほどに沈められていくのだった。
しかも、それは、滲み出させていた女の蜜が容易とさせているのだった。
縄で生まれたままの全裸を緊縛されていることが高ぶらせている官能のあかしであったのだ。
若者がゆっくりと抜き差しを始める頃には、小夜子のあらがう声音もか弱いものとなっていた。
彼女は、無理やり高ぶらされていく官能を懸命にこらえるように、
顔立ちを真っ赤にさせて、すすり泣いているばかりだった。
若者は、黒々とした体毛の身体をびくんと大きく痙攣させると昇りつめていったが
小夜子には、驚愕と狼狽と羞恥と屈辱の思いしかなく、
むせび泣いて非難を示せることがせいぜいだった。
若者は、その相手の様子を知ると、しっかりと連れ合いの身体を抱きしめて、
なだめるように優しく頭を撫でるようなことをするのだった。
小夜子は、自分を強姦した相手を間近にさせられて、
その毛むくじゃらの異様なありようと異臭に、
驚愕と狼狽と羞恥と屈辱を汚辱そのものと感じさせられていたが、
縄で全裸を縛り上げられた姿態では、悔しくても、されるがままになっている以外になかったのだ。
そして、おぞましい毛むくじゃらの異様な相手であっても、
撫でられる感触に優しさが伝わってくることは、まったく困惑させられることであったのだ。
若者は、連れ合いが落ち着いた様子を見せ始めたことを感じると、
相手の身体を抱きかかえて立ち上がり、幾つもの洞穴がある方へ戻ろうとするのだった。
小夜子は、打ちのめされた思いから放心状態となっていて、もはや、成されるがままだった。
若者にとっては、連れ合いを得たことは、ひとり立ちの洞穴生活を始めなければならないことであった。
誰も住んでいない新しい洞穴へ、連れ合いと共に入り、子が生まれ育てる生活をすることであった。
そのためには、連れ合いと子のために、充分な食糧を確保することが成すべきことであったが、
身を守ることにさえ脆弱な動物にあっては、それは、困難を極めることだった。
生まれた子さえ、容易に他の動物の餌食となることがあったのだ。
しかし、若者は、抱きかかえる白く美しい生き物から伝わる熱い温もりと芳しい匂いから、
生まれてくる可愛らしい子を感じると、たまらなく嬉しくなってくるのだった。
ようやくたどり着いた薄暗い洞穴の地面へ、優しく置かれた小夜子は、
毛むくじゃらの相手からできるだけ見られまいと、横座りにさせた緊縛の裸身を縮こまらせ、
顔立ちを俯かせて、必死に境遇を耐えているのだった。
若者は、その前へ腰掛け、じっと連れ合いへまなざしを向けていたが、
連れ合いの身動きを封じている得体の知れない不思議がどうしても気に掛かることだった。
縄という存在は、結ばれることがなければ、解かれることがない。
従って、結ばれている縄は、縄というものが存在しなければ、解くことのできないものとしてある。
若者にとっては、小夜子の裸身へ掛けられた縄は、解くことのできないものとしてあったから、
解くことのできない不思議であった。
それを解くことをしなければならないとしたら、解くという観念が明確にならなければならなかった。
緊縛された縄を解くということは、不思議を解くということであった。
若者は、連れ合いが身動きの取れない状態にあることを放っては置けないと感じていた、
連れ合いが自分と同じ状態にあってこそ、自分の連れ合いであるという思いがあったのだ。
得体の知れない不思議がなくなれば、それが果たされるのであった。
連れ合いは自分に対して背を向けて、まだ馴染んでくれようとはしないが、
邪魔をしている得体の知れない不思議がなくなれば、変わってくれることに違いないと思われたのだ。
若者は、近づいていって、
山吹色も真新しい麻縄の緊縛された結び目に指を触れているのだった。
小夜子は、自分を陵辱した毛むくじゃらの異様な相手に近寄られて、
忌まわしさに身が震えるほどの思いだったが、その手が柔肌に触れられるのを意識させられると、
おぞましさで気が遠くなっていくようにさえ感じられるのだった。
だが、相手が縄の緊縛の結び目を解こうとし始めているのがわかったとき、
試行錯誤を繰り返しながらも、なかなか果たせずにいるのを知ると、
何よ、そんな簡単なこともできなくせに、下等な動物が!
と侮蔑した思いなって、懸命に自尊心を保とうとするのだった。
それでも、毛むくじゃらは、諦めもせずに、解くことを一生懸命に繰り返していた。
小夜子は、ついに、その余りにももどかしい振舞いに、業を煮やして叫んでいるのだった、
あなた! そんな簡単なこともできないの! 馬鹿だわ! 幼稚園児だってできることよ!
毛むくじゃらの若者は、その声にびっくりして、相手をまじまじと見つめていたが、
吐き出された言葉は理解できるものではなかった、
しかし、怒っていることは理解できたのだった。
思わず怒鳴ってしまったことだったが、小夜子は、
これでまた、怒らせた相手から、陵辱されるように取り扱われるのかと思うと、
ひどく気が滅入ってしまうのだった。
若者は、その連れ合いの様子を知ると、相手の身体を強く抱き締めて、頭を優しく撫でるのだった。
それから、思い直したように、再び、作業に取り掛かっていた。
小夜子は、何だか、悪いことを言ってしまったのではないか、
と後悔させられる気持ちを感じている自分が不思議だった。
忌まわしく、おぞましく、憎いさえと感じている相手であったが、
一生懸命に結び目を解こうとしているその姿がいじらしく健気にさえ映るのが、
当惑させられるほどに不思議だった。
その毛むくじゃらは、助けるためにしてくれているということを初めて意識させられたのだ。
忌まわしく、おぞましく、憎い相手であっても、私のためにしてくれているのだと思うと、
小夜子は、相手がやり遂げるまでは辛抱強く待とう、と思う気持ちになるのだった。
長い時間のかかった末であった、
ようやく、背中の縄留めのひとつがほぐされていった。
毛むくじゃらの若者は、声を上げて喜んでいた、
眼をやった連れ合いの顔立ちにも、かすかな笑みが浮かんでいるのを知ると、
吼えるような歓声になっていた。
結び目をひとつほぐすことができたということは、残りは、学習されたことの成果だった。
猿から人間へ成り変ろうとする最終段階を迎えていた人類は、
わけもなく、結ばれているものを解いていき、まわされているものを緩めていき、
ついには、小夜子の裸身から、縄による緊縛を取り外すことに成功したのであった。
若者は、毛むくじゃらの体毛をなびかせながら、解き放った麻縄を高々と振りかざして、
横座りになっている小夜子のまわりを小躍りしながら、喜びの叫び声を上げ続けるのだった。
小夜子にとっても、姿態を自由にさせられた開放感は、
そのようにしてくれた相手の喜びを共感あるものと感じさせ、
微笑みの顔立ちで相手を見上げさせるのだった。
共に喜んでくれている連れ合いを知って、若者は、小夜子のほっそりとした白い手を取ると、
引っ張り上げるようにして立たせ、一緒に小躍りするように促すのだった。
そうして、ふたりは、喜びの舞踏を踊り続けた。
やがて、疲労困憊となって、どちらからともなく抱き合うと、
地面へなし崩しになって、眠りに入ったのであった。
黄昏のような薄暗い洞穴には、忍び入る輝ける曙光がきざす時刻となっていた……。
小夜子が目を覚ましたとき、
すでに、毛むくじゃらの若者は起きていて、麻縄をいじくりまわしているところだった。
彼女は、相手が注意を逸らさせている隙に逃げ出すことを思ったが、
その熱心な後姿は、逃亡を決意させるものとはならなかった、
むしろ、彼女を相手に近づかせ、肩越しにその様子を眺めることをさせたのだった。
若者は、解きほぐした結び目をもう一度再現させようと、
もどかしい指先で縄を操っていたが、なかなかうまくいかなかった。
小夜子は、その縄を貸してみて、とばかりに毛むくじゃらから奪い取ると、
簡単に結び目を作って見せたのだ。
若者は、驚愕の余り、口をぽかんと開けて、
丸くなったまなざしで連れ合いと結び目とを見比べていた。
相変わらずの生まれたままの全裸の姿でいる小夜子は、
全裸が普通の状態である毛むくじゃらの若者の隣へ腰掛けると、
もう一度、ゆっくりとわかりやすい手つきで、縄を結んで見せるのだった。
そして、やってみて、と言うように麻縄を差し出すと、
真似て行おうとする相手の拙い黒々とした指先へ、みずからのほっそりとした白い指先を添えて、
縄を結ぶ仕方を繰り返し繰り返し教えるのだった。
そして、上手にできたときは、ご褒美と言うように、
小夜子は、毛むくじゃらの相手の頭を優しく撫でるのだった。
若者は、嬉しそうに、小夜子に教えられるままに、縄を結び解くことを学んでいった。
若者にとって、小夜子は、次第に、
白く美しい生き物の連れ合いという以上のものに感じられるようになっていった。
それは、縄というものが慣れ親しむにつれて、ますます、不思議を感じさせるものとなっていき、
その縄を帯びてあらわれ、その縄を上手に操って教え、しかも、ただひとつのものとして感じさせる、
白く美しいありようは、それこそが、掛け替えのない不思議と感じさせていたことだったからだ。
若者は、小夜子を敬い崇め奉るように、優しく丁重に配慮を持って接するようになっていた。
麻縄も、結ぶ解くから、今度は、麻縄自体をほぐして、
撚り合わさせている植物繊維の一本一本を熱心に見つめることを若者にさせていた。
ふたりにとっての生活は、縄を考え操ることを中心に動いているのだった。
片隅にあったその洞穴は、他の者には知られることのない、
喜びのあるふたりだけの生活を続けさせるものだ、とふたりは思っていたのだった。
だが、洞穴の外を散策するふたりの睦まじい姿、滝が流れ落ちる水溜りではしゃぎ合うふたりの姿、
その様子を盗み見ていた者たちがあったのである。
その者たちは、いままでに見たことのない、白く美しい生き物に強い興味を抱いていた。
見つめているだけで、陰茎を赤々と反り上がらせるその生き物と、
いつかは、連れ合いとなる行為にまで及びたい、という機会を狙っていたのである。
そして、それは、若者が食糧の確保に遠方へ出かけているときに、
薄暗い洞穴で、小夜子がひとり、遅すぎる帰りを待っているときに起ったのだった。
突然、三人の毛むくじゃらが洞穴のなかへ入り込んで来た。
小夜子は、その姿を見た瞬間、激しい悲鳴を上げていたが、
それは、あからさまにさらけ出された裸姿に、
三人の訪問の意図が如実にあらわされていたからだった。
赤々と充血させた三本の陰茎は、口からきらめく糸を引きながら、激しく反り上がっていた。
三人は、我先にと小夜子の白い裸身を奪い合うように、一斉に絡みついてきた。
小夜子は、うつ伏せにさせられて、白い尻を高々と持ち上げさせられると、
鮮烈な美しい肉の輝きを帯びた三つの穴とひとつの小突起を剥き出しとされた。
小夜子には、縄が掛けられていなかったから、目的の穴は、まったく乾いているありさまだった。
三人のひとりは、そのようなことはお構いなしに、熱い矛先を向けると無理やり押し込んでいくのだった。
小夜子の口からは、いやっ、いやっ、いやっ、という絶叫が洞穴内をこだまさせるほどに上がったが、
差し入れられた陰茎は、むしろ、その声音に煽られるように、強い抜き差しが行われていた。
小夜子は、激しく泣き叫びながら、
波打つ柔らかな黒髪を気が狂ったように打ち振るって、拒絶をあらわした。
だが、暴れる白くか細い両腕は、毛むくじゃらのひとりに押さえつけられて、
挿入していた毛むくじゃらは、容易に思いを遂げていったのだった。
そして、息つく暇もなく、ふたり目の太い陰茎が強引に差し入れられた。
小夜子は、優美な腰付きをこれでもかというほどに振らされて抜き差しされる激しさに、
あらがう言葉も吹き飛ばされて、泣きじゃくって抵抗を示すだけだった。
官能を高ぶらされて気持ちのよい思いで放出を果たす、毛むくじゃらの暴虐に対しては、
女には、激烈な苦痛と嫌悪と恥辱がもたらされるだけのことでしかなかった。
ふたつ目の陰茎が名残惜しそうに抜かれていくのに合わせて、
さらに、三つ目の長い灼熱が強烈に差し入れられてくるのだった。
小夜子には、もはや、あらがう言葉はおろか、泣きじゃくる声音さえも失せて、
相手に抱きかかえられた腰付きを、相手の求めるオーガズムの極まりに合わせて、
強烈に前後へうごめかされているだけのものになっていた。
最後の放出が終わった後、
激しい衝撃と攻撃は、小夜子の雪白の優美な裸身をぐったりとさせていた。
毛むくじゃらの三人は、未練がましい一瞥をかすかな息遣いを示す白い生き物へ投げかけると、
そろそろと洞穴を後にしていくのだった。
ようやく、若者が食糧を携えて戻って来たとき、
小夜子は、身動きをまったくあらわさずに、四肢を投げ出すような格好で横たわっていた。
若者は、優しく揺さぶって起こそうとしたが、まったく反応がなかった。
代わりに、若者は、股間の割れめから太腿へかけて、
あふれ出している血の滲んだ白濁としたしずくを知るのだった。
そして、洞穴へ戻って来るときにすれ違った三人の者が、
満足そうな笑いを浮かべながら歩いているのを思い出したのだ。
若者は、毛むくじゃらの黒い顔が真っ赤になるほどの怒りをあらわしていた、
地面に置いてあった麻縄の束をひったくると、洞穴を飛び出した。
込み上がる激烈な憤怒は、猛烈な勢いで走らせ、のたのたと歩いていた三人へ追いつかせた。
若者は、小夜子に教わった仕方で、素早く三本の縄へそれぞれの環を作ると、
背後から忍び寄って、相手の首へ引っ掛けていった。
それから、あらん限りの勢いで、それらを後方へ引っ張るようにして走ったのだった。
首に掛けられた縄は、相手を背後へ転倒させて、
身体をばたつかせる猶予もなく、締め上がって息を止めていた。
若者は、動かなくなった相手を見据えると、蹴り上げて確かめるのだった。
そして、幾つもの洞穴を見下ろす位置に立っている大樹まで、三つの身体を運んでいった。
大樹の横へ長く伸びた太い枝へ、首へ掛かった縄を繋いで、それらを吊り下げていった。
太い枝へ並んでだらしなく吊り下がった、毛むくじゃらの裸の三人が発見されるまでに、
大して時間は掛からなかったが、
そこに、どうしてそのようなものが、どのようなことから、どのような仕方で、
そのようにあるのかということは、まったくの不思議だった。
その不思議は、近隣に群棲している、
猿から人間へ成り変ろうとする最終段階を迎えていた人類を次々と集めていた。
若者は、洞穴へ引き返していた。
だが、どのような接し方をしても、白く美しい生き物は、身動きを示さなかった、
まるで、若者の前へ最初にあらわれたときと同じようだった。
若者は、成す術を失って、大声を上げて泣き続けた。
そして、流す涙が枯れ果てたとき、思いを固めたのだった。
白く美しい生き物のほっそりとした両腕を背中へまわさせると、
華奢な両手首を重ね合わせて縛り上げた。
それから、美しくふくらんだ乳房の上下へ縄を幾重にも掛けて、
首縄から下ろした縄でそれらを縦に繋ぎ、腰付きのくびれを締め上げるようにして縄留めをした。
その生き物が最初にあらわれたときに身にまとっていた縄を再現したのだった。
若者は、そこまで上達を示していたのであった。
それらも、すべて、白く美しい生き物から教えられた成果だった。
若者は、麻縄で緊縛された生き物を抱きかかえると、平たく大きな岩棚の上まで運んだ。
そして、最初に発見したときと同様の姿態で横たわらせるのだった。
それが最後と言うように、若者は、連れ合いの頭を優しく撫でながら、
まなざしを相手の顔立ちへじっと凝らし続けると、うなずいた。
白く美しい生き物からは、縄を結び、解き、繋ぐ仕方以上のことを教えられたのだ。
それは、縛って繋ぐという観念で考える力だった。
その力を実行しようと思いを固めたのだ。
縄で首を吊らせた三人を見せしめたのは、その力が発揮できる者を見せしめることだった。
若者は、縄の束を手にして、
幾つもの洞穴を見下ろす位置に立っている大樹へと向かった、
今度、その平たく大きな岩棚へ戻って来たときは、
白く美しい生き物の姿はないのだと思いながら……
何故なら、縄によって教えられたことが、群棲している数多の者たちをこれからまとめるのである、
人間が人間と結ばれれば、夫婦となり、親子となり、親族となり、
集落となり、村となり、町となり、都市となり、国家となる……
   動物が人間と結ばれれば、家畜となり、労力となり、愛玩物となり、見世物となり、食糧となる……
   植物が人間と結ばれれば、住居となり、燃料となり、食料となり、鑑賞物となる……
みずからは、そのようにして、人間と人間を繋いでまとめる、最初の者となるのである、
その実現こそが、深く教えを頂いて、深く思いを寄せた、
白く美しい生き物への供養と思えることであったのだ。
大樹の脇へ仁王立ちになった毛むくじゃらの若者は、
麻縄を高々と掲げて、
彼を見上げて、不思議の答えを求めようとしている数多の者たちへ、
道を示していた……。


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