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向かいにある建物の玄関扉の下からこちらへ伸びている麻縄をたぐっていくと、 遠くから眺めた外観では屋上と地下をそなえた三階建ての立派な館だったそれは、 まだあちらこちらに建築のあとが残る未完成の劇場であることがわかった。 玄関扉というのも、実際には完全に閉じられた状態にあるわけではなく、 両開きの扉の間に麻縄が一本通るすきまだけ開いたものであった。 人影が見えなかった。 建築中の場所であれば、作業員や建築資材があって当然のことである。 それとも、未完成のまま、放棄された館なのか……。 いずれにしても、縄をたぐって、大きな玄関扉を押し開き、なかへ入った。 それほど広くはなかったが、劇場のフロントという作りの場所だった。 縄の先は、 その部屋の中央に置かれたマイヨール作の『イル・ド・フランス』の彫像の足もとで、 <環に結ばれて>終わっていた……。 |
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途方にくれた思いがしたとき、 カウンターの向こう側にひとりの女性があらわれた。 カウンターに隠れて全身は見えなかったが、上半身は裸だった。 顔立ちも清楚できれいだと感じさせたが、 あらわにした白い肌にふっくらと盛り上がる可憐な乳首をつけた乳房がみずみずしかった。 『イル・ド・フランス』の彫像のモデルを目の前に見せられた感じがした。 女性は裸でいることの自意識からか、はにかんだ様子で話しかけてきた。 「ようこそ、お越しくださいました。 縄をたぐってこられたお客様には、本日の演目をただいま準備しておりますので、 あちらにある控え室でいま少しお待ちくださいますよう、お願い申し上げます。 これは、演目のパンフレットですので、お持ちください」 差し出されたパンフレットを受け取ると、指し示された方向に扉の開いた部屋を見ることができた。 その控え室ヘ向かい、なかに入ると、中央に木製の椅子が四脚置かれてあった。 やはり、ひとの姿はなかった。 部屋には、入ってきたところと反対側にもうひとつ扉があったが、 装飾調度品の類はなく、大きな窓もついていたが、曇りガラスのために外が見えず、 まるで病院の一室のような感じさえする場所だった。 椅子のひとつに腰かけて、パンフレットをめくってみた。 『環に結ばれた縄』と題されたそれは、次のような内容だった。 |
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